ビジネスマンの「三種の神器」たるスキルとは

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変化の激しい時代において「そもそも何を勉強すべきなのか」という悩みもあるだろう。500以上の資格を持つ鈴木秀明氏に、今ビジネスマンが学んでおくべきことと、関連する資格について教えていただいた。

会計・英語・ITは「三種の神器」だ!

スキルアップを目指す際に重要なのは、「自分が身につけるべきスキルは何か」を見極めること。「ビジネススキル」と言っても、その内容は多種多様です。

「将来は経営層を目指したい」という目標があるなら、そのために必要なスキルは何かを考えてみる。あるいは「この会社にはコンプライアンスのプロが少ないから、自分がスキルを身につければ重宝されそうだ」というように、組織のニーズから逆算して考えるのもいいでしょう。限られた時間で効率的に勉強し、自分の市場価値を高めて組織に必要な人材になるには、スキルアップも戦略的に取り組む必要があるのです。

このように、基本的には自分が目指すキャリアやビジョンに合わせて身につけるスキルを選択するのが良いと思いますが、それでも「現在のビジネスシーンで求められるスキル」にはある程度の傾向が見られます。

近年は、「会計」「英語」「IT」は、ビジネスマンの「三種の神器」のスキルとされています。ただ、実際にこの三つを高いレベルで身につけている人は少ないので、これらのスキルをしっかり勉強するだけでも、他の人たちと差別化できるはずです。

それに加え、管理職やリーダーは、「経営学」「経済学」「知財リテラシー」「メンタル管理力」「モチベーション管理力」の勉強をお勧めします。上に立つ人材になるには、マクロな視点に立った知識・教養やチームを運営する能力の習得が不可欠だからです。

取引先関連の資格を目指すという手も

身につけるべきスキルを見極めると同時に、最短で効率的にスキルアップできる勉強法を選択することも重要となります。

私のお勧めは、資格試験や検定を活用する方法です。

資格試験には「何をどう勉強すべきか」の指針があります。「会計を勉強しよう」と思った時、とりあえず簿記検定のテキストを読んでみれば、勉強すべきことが体系的に整理されているので、具体的な学習計画が立てやすくなるはずです。

問題集が揃っているのも資格試験のメリット。どんな学習も、ただ専門書を読むより、問題を解くことで理解が深まります。

資格や検定は、ベンチマークとしても役立ちます。漠然と「英語力を高めたい」と考えても、具体的に何ができれば良しとするのかを決めるのは難しいもの。そこで「今年十月のTOEICで六百点を取る」といった目標を設定すれば、目指すべきレベルと期限が明確になります。

仕事で新しい技術や知識が必要になった場合も、資格試験を活用すれば、いち早くその道のプロになれます。日本では世の中の動きを反映する資格が次々に誕生していて、最近なら3Dプリンターやマイナンバー、IoTやドローンに関する資格・検定が注目されています。最新の資格を他の人に先駆けて取得すれば、その道の第一人者として評価されるでしょう。

自分の仕事に関する資格だけでなく、顧客や取引先の業界に関する資格の勉強も役立ちます。

たとえば、「銀行業務検定」は金融機関で働く人のための試験ですが、一般企業で経営層を目指す人や財務担当者が勉強すれば、「銀行はどんな基準で融資先を決めるのか」といったお金を貸す側の事情を知ることができます。すると「銀行から融資を受けるにはどうすればいいか」もわかるので、銀行と商談する際も、相手と同じ土俵に立って有利に振る舞えるわけです。

以下に、40代に有用なスキルと関連資格を詳しく解説しますので、ぜひ戦略的スキルアップの参考にしてください。

40代にお勧めのスキル&資格

【1 会計】

企業は利益を上げることを目的としているので、「会計力=組織のお金に関する知識」は、働く人なら誰もが備えるべきものだ。取引先の財務諸表から経営状況を読み取って営業戦略を策定したり、リーダーとして自分が率いるプロジェクトの採算が合うかを分析したりと、経理以外の一般社員でも会計の知識が必要とされる場面は無数にある。

・簿記検定(日商簿記)
商工会議所が主催する、会計分野を代表する資格。簿記に関する基礎的な知識をひと通り習得できるので、勉強して損はない。経理や財務以外の一般社員なら、3級~2級までを目指して勉強すれば、実務で使うのに十分な知識が身につく。

・簿記能力検定(全経簿記)
全国経理教育協会の主催で、内容や構成は日商簿記とほぼ同じ。上級と1?4級があり、レベル的には全経簿記上級が日商簿記1級に、全経簿記1級が日商簿記2級に相当する。日商簿記とは各級のレベルが異なるので、目標設定の際はよく確認を。

・ビジネス会計検定
財務諸表の分析・活用スキルを高めるための検定。簿記検定は財務諸表の作成スキルを問う内容で、どちらかと言えば経理職向けだが、会計知識のない人がゼロから実践的・大局的に会計を学ぶなら、ビジネス会計検定のほうが勉強しやすい場合も。

【2 英語】

グローバル時代の必須スキルだが、重要なのは「英語を使ってどんな仕事をしたいか」を明確にすること。商談やプレゼンをしたいのか、資料を翻訳したいのか、外国で働きたいのか、目的により勉強法は違ってくる。「工業英検」「観光英検」など、業界や業種に特化した英語検定もあるので、自分の仕事内容やニーズに直結した資格を上手に活用したい。

・TOEIC、実用英語技能検定(英検)
いずれも汎用的な英語スキルを測る検定。TOEICで求められるスコアは会社や職種で異なるが、まずは600点以上を目指したい。英検は級によって面接や記述試験があるので、英語の実務能力を求める企業では、TOEICより英検を重視することも。

・TOEFL、IELTS
どちらも国際基準の英語能力測定試験で、海外移住や留学を希望する際に英語力の証明となる。TOEICは海外での認知度が低いため、グローバル転職や海外留学を目指すなら、TOEFLやIELTSのように海外で通用する試験の勉強が必要。

・ほんやく検定
英語の文書を翻訳する機会が多いなら、翻訳に関する資格勉強をするのが実務力アップの近道。ほんやく検定は産業翻訳の技能を測る試験で、基礎レベルから実務用レベルまで1?5級がある。インターネットで在宅受験できるのも便利。

【3 IT】

ビジネスマンに有益なITスキルは、「情報リテラシー」と「アプリケーションスキル」。前者は、コンピュータやネットワークの仕組みや概念を理解した上で、情報やデータを使いこなす能力。後者は、WordやExcelなどの実践力だ。事務作業を効率化し、蓄積された情報を仕事に活かすには、どちらのスキルも必須。

・ITパスポート試験
国家資格の「情報処理技術者試験」のうち、最も初歩的な試験区分の一つ。データベースやハードウエアなど技術的な内容に加え、会計や法務、財務などに関する知識も問われるので、「ITを経営にどう活用するか」という視点も養われる。

・Microsoft Office Specialist(MOS)
WordやExcelなどの実務スキルを問う試験。アプリケーションをコンピュータ上で操作する実技試験なので、普段の仕事ですぐに使える操作スキルが身に付く。我流でソフトを使っていた人は、今まで知らなかった便利な機能を学ぶ良い機会にもなる。

・P検(ICTプロフィシエンシー検定)
「プロフィシエンシー」とは、知識や技能を現実の状況に応じて発揮する能力のこと。P検では、ICTを活用した問題解決力が問われる。知識問題に加えて、WordやExcelなどの実技試験やタイピング試験なども含まれる。

【4 経営学】

管理職とは、一つの組織を経営する立場になること。よって「人・モノ・金」などのリソースを効率的に配分し、組織を円滑に運営するための方法論を体系的に習得できる経営学は、管理職ならぜひ勉強しておきたい。経営層への昇進を目指す人なら、勉強しておけば意欲や能力を客観的に示すアピール材料になる。

・中小企業診断士
経営分野の国家資格で、経済学から会計、法務、情報システムまで、企業経営に関わる知識を全般的に問われる。難易度は高いが、経営に関する幅広い知識が身に付き、社会的な評価も高いので、数年かけてでも地道に勉強する価値あり。

・経営学検定
「中小企業診断士はハードルが高い」という人にお勧め。初級・中級・上級があり、中級は中小企業診断士の第1次試験の内容に近いので、まずは経営学検定で中級合格を目指し、その後で中小企業診断士へのステップアップを図るのもよい。

・リテールマーケティング(販売士)検定
小売業界向けの検定だが、内容は店舗運営やマーケティング、経営管理などが中心で、経営学を学ぶ手段としても活用できる。自分が小売業やサービス業に従事する人はもちろん、自社の商品やサービスを販売・流通させるための事例研究にも役立つ。

【5 経済学】

社会の変化や時代のニーズを敏感に汲み取ってビジネスを拡大するには、日々のニュースや報道から経済の本質を読み取るだけの知識が必要。経済学の知見があれば、変化の激しい時代に「未来を予測する力」を身につけられる。情報を蓄積するだけでなく、チームの戦略や組織作りに活用するのにも有効。

・経済学検定試験(ERE
ミクロ経済学、マクロ経済学、財政学、金融論、国際経済、統計学の6分野から総合的に経済学の実力を判定する。経済学の主要なテーマについてひと通り押さえたい人には最適。初学者には、ミクロ経済学とマクロ経済学だけを受験できる「EREミクロ・マクロ」も用意されている。

・日経TEST
経済に関する知力を、「基礎知識」「実践知識」「視野の広さ」「知識を知恵にする力」「知恵を活用する力」の5つの軸で測定。各業界の最新動向から国際政治や社会情勢まで幅広く出題され、理論だけでなくリアルな経済の動きを学べる。

・銀行業務検定
金融業界向けの検定だが、誰でも受験可能。「財務」「税務」「法務」など多数の種目があるが、中でも「金融経済3級」は、実践的な経済学の知識を扱うので、仕事で金融機関と取引する人や社会全体のお金の流れを把握したい人にお勧め。

【6 知財リテラシー】

知的財産の管理は組織にとって重要性が急速に高まっているテーマ。たとえ意図的にではなくても、他社の権利を侵害すれば、損害賠償を請求されたり、仕事をゼロからやり直すリスクが発生する。トラブルに陥らないためにも、管理職にとって知的財産に関する知識は必須のものとなりつつある。

・ビジネス著作権検定
知的財産の中でも、「著作権」に特化した資格。誰にとっても比較的身近なテーマなので、知財リテラシーを身につけたいなら、まずここから学んでみるとよい。具体的な場面を想定した設問も多く、トラブルになりやすい事例も学べる。

・知的財産管理技能検定
以前は民間資格だったが、2008年から国家資格に格上げされた。国が知的財産に詳しい人材の育成に注力している表われであり、注目度も高い資格。特許権、商標権、著作権、意匠権など、知的財産について幅広く学びたい人に最適。

・弁理士
知的財産分野の最高峰とされる国家資格。短答式試験・論文式試験・口述試験からなり、難易度はかなり高い。スキルアップのためというよりは、法務のスペシャリストを目指す人が独立やキャリアアップのために取得するべき資格。

【7 メンタル管理力】

うつや自殺者の増加が社会問題となり、2015年から従業員数50人以上の企業でストレスチェックが義務化されたことで、メンタル管理は最も注目度が高いテーマの一つ。こうした背景を受け、メンタルヘルス関連の資格も急増中。管理職への昇進に資格取得を必須とする企業も増えている。

・メンタルヘルス・マネジメント検定
商工会議所主催の資格で、社会的ニーズの高まりを受け、この9年で申込者数が3.8倍に増加。経営層や人事労務担当者向けの「Ⅰ種」、管理職向けの「Ⅱ種」、一般社員がセルフケアを学ぶ「Ⅲ種」に分かれるが、マネジャーならⅠ種やⅡ種について勉強しておきたい。

・メンタルヘルスケア検定
セルフケア(自己管理)とラインケア(同僚や部下の心の健康管理)に関する知識を扱う。3級から1級まで4つのランクがあり、準1級以上は面接などの実技試験も。メンタルヘルス不全者への対応など、ケーススタディを交えて具体的に学べる。

・ビジネス心理検定
職場のストレス対策やメンタルタフネスの理論を心理学の観点から学べる。初級・中級・上級があり、中級以上は「経営・人事・営業・広告」の4つの専門分野から1つを選択して受験。セクハラ防止やダイバーシティなど、近年の注目テーマも学べる。

【8 モチベーション管理力】

今のマネジメントに求められるのは、メンバーが気持ちよく仕事に取り組み、パフォーマンスを最大化できる環境を作ること。最近ではモチベーションの研究も進み、実践的な理論やノウハウを学ぶことができる。経営層になったとき、人事評価制度や給与体系などの全社規模での戦略策定にも役立つ。

・公認モチベーション・マネジャー
モチベーション管理に関する理論と実践スキルの両方が身につく資格。一般社員や学生向けの「Basic」と管理職向けの「Advanced」2区分があり、自分のポジションや今後目指すキャリアに合わせて選択することが可能だ。

・ビジネス心理検定
「メンタル管理力」でも紹介したビジネス心理検定。この検定の学習範囲は大きく分けて「基礎心理編」「マーケティング心理編」「マネジメント心理編」があり、3つ目のマネジメント心理編の内容はモチベーション管理の学習にも役立つ。

・ビジネス・キャリア検定
8分野42試験から自分の仕事に合った科目を受験できる検定。その中に「人事・人材管理・労務管理」の分野があり、モチベーション理論やリーダーシップ論、人材育成について学べるので、意欲的な組織を作るノウハウも身につく。

鈴木秀明(すずき・ひであき)資格勉強コンサルタント/All About「資格」ガイド
1981年、富山県生まれ。東京大学理学部卒業。東京大学公共政策大学院修了。人材派遣会社を経て独立。資格の専門家として活躍するかたわら、人材系ベンチャー企業の執行役員として同社が運営するポータルサイトの運営等に携わる。これまでに取得した資格は、中小企業診断士、行政書士、気象予報士、証券アナリストなど、511(2017年5月現在)に上る。著書に、『10年後に生き残る最強の勉強術』(クロスメディア・パブリッシング)など。(取材・構成:塚田有香)(『 The 21 online 』2017年7月号より)

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