政府が掲げる「働き方改革」の一環で、引き続き注目が集まるのが「ダイバーシティ」です。「多様性」を意味しており「違いを受け入れ、企業の成長に活かすという考え方」なのです。

現在の日本では、女性の活躍や女性管理職を増やすというテーマで使われることが多いのですが、本来の意味はより多岐にわたります。

性別をはじめ、年齢や国籍、障害の有無のほか、考え方や価値観の相違、正規や非正規という雇用形式、フレックスタイム制や短時間勤務などの働き方も含む概念なのです。日本での「ダイバーシティ」の背景や内容、今後の課題などを紹介します。

(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)
(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

ダイバーシティが日本で注目される背景と経緯

「ダイバーシティ」は、多民族国家のアメリカでの取り組みが最初でした。人種や性別など、少数者の平等や機会均等などを求める動きの中で重視されたのです。その後、日本でも男女差や国際化などに伴い、認知されてきました。

日本企業はかつて「年功序列」や「終身雇用」を軸に、男性中心社会の画一的な就労スタイルで高度成長を果たしました。その中で、人材の多様性は1980年代まではほとんど問題になることはありませんでした。その後、女性の社会進出や男女共同参画などの国際的な流れが追い風となり、まずは女性の活躍という視点から人材の活用がテーマになったのです。

1986年に「男女雇用機会均等法」、1999年に「男女共同参画社会基本法」が施行され、法律は整備されましたが、当時はまだ女性差別をなくすという程度の考え方でした。

「ダイバーシティ」という考え方が広がり始めたのは、経済同友会が2004年に人事戦略として問題提起したことが契機となっています。今ではビジネス上の重要な経営戦略と見做されていますが、それは次の3要因が背景にあります。

1. 労働人口の減少に伴う人材不足
2. 働く側の価値観の変化
3. 顧客ニーズの多様化と国際化

経済産業省は2012年、目指すべき方針の一つに「ダイバーシティ・マネジメント」を掲げました。これは内閣府男女共同参画局によれば「多彩な人材を活かし、能力が最大限発揮できる機会を提供してイノベーション(技術革新)を起こし、価値創造に繋げる経営」です。閣議決定された日本再生戦略でも、「全員参加型社会の実現」に向け「ダイバーシティ」に注目しています。

ダイバーシティに含まれる多様性の内容と課題

1. 女性の活躍
日本では引き続き中心的に進められていますが、いまだに十分ではありません。実現には女性の管理職数を増やし、仕事と子育ての両立支援策だけでは不十分なのです。女性の能力を引き出し、企業のパワーにすることが求められています。

2. LGBT(性的少数者=セクシュアル・マイノリティ)
LGBTはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイ・セクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害者)の総称。法的に同性婚が認められる国や自治体が増える傾向にあり、日本でも関心は高まっています。

ただし、雇用面で差別的取扱いを禁止する企業はまだ少ないのが現状です。LGBTの意欲がアップし、生産性が向上すれば、人材の多様性へと支持される可能性が広がります。

進歩的な例としては、資生堂グループが人権啓発の基本方針を掲げ、人権を尊重するクライアントと取引することを明示。また、野村グループでは性的指向・性同一性を倫理規定に明記し、理解を促しています。

3. 年齢の多様性
日本企業には一定の年齢層への偏見や差別が現存し、エイジ・ダイバーシティは大きな課題です。2015年に改正された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者等雇用安定法)で、希望者は全員65歳まで雇用することが義務付けられました。今後、適切に運用されているかを見極める必要があります。

4. グローバル化
企業の国際化に伴い、多彩な異文化が共存共栄するグローバル・ダイバーシティも不可欠です。異文化に配慮し、互いに尊重することが重要となります。それには、コミュニケーション力が実現への近道として欠かせません。

5. 障害者雇用
障害者のダイバーシティと言えば「雇用の義務や福祉」と考えることが多いようですが、障害者の能力や特性を企業や職場でどう活かすかという視点が何よりも大切です。

カルビーの「ダイバーシティ委員会」は先駆的な成功例

労働人口の減少で、人材不足が喫緊の課題となる日本で、優秀な人材の確保は企業の命運を握っています。マーケットや顧客のニーズを先取りし、イノベーションを起こすためには、ワークライフバランス(仕事と家庭の調和)の重視や社会への貢献など、従業員の多様な要望に応じて能力や経験を持つ人材を育成し、活かせる「ダイバーシティ」が重要なのです。

政府と経団連などが中心となり、企業で「ダイバーシティ」を推進する試みが進んでいます。中でも、スナック菓子メーカーとして有名なカルビーの中心的存在である「ダイバーシティ委員会」は先駆的な成功例です。

同委員会は2010年から、全国の各事業所に設置されました。各事業所トップが直接指揮し、仕事と育児や介護を両立させるセミナーなどを開催しています。多彩で柔軟な働き方を支援する在宅勤務やフレックスタイム制、オフィスのフリーアドレス化などを次々に制度化。ビジョンを定めて理解を深める「ダイバーシティ・フォーラム」なども実施しています。

ダイバーシティが普及した同社では、2010年に5.9%だった女性管理職の登用率が2016年には22.1%にアップしました。企業業績も向上している背景には、「女性の活躍なしにカルビーの将来はない」と、松本晃・現CEOが「ダイバーシティ」を推進する姿勢を繰り返し現場のトップに伝え、到達目標を宣言させるなどが奏功しています。また、ダイバーシティ委員会を軸に、「理解→納得→行動」の具体的な3ステップをシステム化したことが大きく評価されています。

ちなみに、カルビーは経済産業省と東京証券取引所が共同で女性活躍推進に優れた上場企業を選定、紹介する「なでしこ銘柄」に2017年3月に4年連続で選ばれています。

引き続き企業のダイバーシティへの取り組みの要請は続いていくでしょう。

(提供: あしたの人事online

【オススメ記事 あしたの人事online】
中小企業が「優秀な社員を逃さない」ためのカギは「給与査定」
辞めてほしくない社員が辞めてしまった、一番の理由とは?
社会の価値観が変容する、働き方改革の概要とは?
横並び主義の終焉。賃金の上がる人、上がらない人
人事評価制度のない会社が“ブラック”認定される