がってん寿司
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高級魚が驚きの価格~グルメ系回転寿司とは?

外食の激戦区、埼玉。埼玉県民が外食に使うお金は、東京、愛知についで全国3位になる。そんな埼玉には地元発祥の人気外食チェーンが結構ある。関東に169店舗を展開している「山田うどん」。「ぎょうざの満洲」は所沢が発祥の中華料理チェーンで、首都圏を中心に86店舗を展開している。「がってん承知!」という生きのいい掛け声が名物の回転寿司チェーン、「がってん寿司」もそのひとつだ。

「がってん寿司」新座店。夕食時にはウェイティングの客でいっぱいになる。この日の目玉は長崎から仕入れた生の本マグロ。大トロが2貫で600円(税抜き)。回転レーンに乗せる暇もなく注文した客の元へ。他にも贅沢に3段重ねした「大盛甘エビ」(300円)、「上トロウニ軍艦」(400円)など、ちょっとした高級感とお得感が最大のウリだ。

海が無く、海鮮とは縁が遠そうな埼玉を地盤に「がってん寿司」は135店舗を展開。売り上げは回転寿司業界第6位に位置する。その上には「スシロー」などお馴染みの大手5社が。それらがひと皿100円を中心とした安さで勝負しているのに対し、「がってん寿司」はネタの良さで勝負する「グルメ回転寿司」と呼ばれる業態になる。コンセプトは「手の届くぜいたく」だ。

グルメ回転寿司の特徴はまず、寿司ロボットではなく職人が手で握ること。熟練の手さばきを客の目の前で見せてくれるから、回転寿司とはいえ、さながら町のお寿司屋さんのようだ。藤井徹店長は「仕込みたてを鮮度のいい状態でお客様に出すのが『がってん寿司』の強みだと思います」と言う。

しかも「がってん寿司」は職人を自前で育成している。普通は仕入れモノが多い「厚焼き玉子」(240円)も店内で作る。さらに「TVチャンピオン」の早握り選手権でみごと2連覇を達成した実績もある。その実力は回転寿司業界随一と、いわれているのだ。

「がってん寿司」のもうひとつの特徴は、その日特別に仕入れたネタを日替わりの「おすすめ」として出すこと。例えば回転寿司ではあまり見かけないノドグロ。白身のトロともいわれる高級魚で、一流店なら2貫で1000円はくだらないという。

仕入れによって値段は変わるが、この日は長崎産のノドグロが2貫で400円。驚きの安さに次々と客の手が上がる。100円寿司にはないネタで客を飽きさせず、また来てもらおうという作戦だ。

東京にも進出している。板橋区の「磯のがってん寿司」東武練馬店は東京では11店舗目。この店はすし以外に「磯焼き」を提供。駅前立地の店では、酒も飲むお客のためにつまみを充実させているという。店ごとにメニューが違うのも「がってん寿司」の特徴だ。

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海なし県から急成長~高級魚を安く出せる秘密

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「がってん寿司」を運営するアールディーシー会長、久志本京子は「海無し県だからこそ産地にこだわらない。日本全国の魚、ひいては海外の魚も仕入れができ、それが売れる」と言う。

午前1時の東京・築地市場。セリはこの時間から始まる。いい魚を手に入れようと、丁々発止の商談が繰り広げられている。それが一段落した午前4時半ごろ、「がってん寿司」の仕入れ担当、商品部の渡部信幸と川村圭がやってきた。

でも、魚はあらかたなくなって、あたりは閑散としている。「この時間になってくると、売り切れちゃうところもあるし、仕舞い始めちゃうところもあるし」と、悠長にかまえる川村。実はここからが「がってん寿司」の勝負なのだという。

2人は仕舞いかけている業者の前で足を止めた。そこにあったのはノドグロ。この時間になると売れ残っている高級魚があるのだ。交渉の結果、競り値より2割ほど安く買えた。

「彼らも本来は高く売りたいのですが、残るなと思っちゃうと安くなってくる。そこを狙っている。僕らの中ではセリで残る、『セリ残』と呼んでいます」(川村)

残り物には福がある。この日もとびっきりのセリ残を見つけた。天然のクエだ。クエは超高級魚。天然物は幻とも言われ、1本数万円はするという。商談の結果、市場価格の半値近くで4本ゲットした。

それにしても100店舗以上あるチェーンなのに、3ケースとか4ケースで大丈夫なのか。2人は事務所に入るとパソコンの画面を見ながら店選びを始めた。実は仕入れた魚は、全店に送るのではない。店の売り上げ、客層などの特徴にあわせて振り分けるのだ。

熊谷市の熊谷石原店に、4本のクエのうち1本が届けられた。天然クエはなかなかお目にかかれない。冬場は高級料亭などで鍋として珍重されるが、1人前で軽く1万円は超える。白身で上品な脂が特徴だ。そんな高級魚がこの日は2貫で600円で提供される。

いよいよ「おすすめタイム」。次々と客の手が上がる。この店はちょっと懐に余裕のある年配の客も多い。だから少々高くても売れると見込んで、クエを送ったのだ。

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専業主婦から社長へ~女性トップの波瀾万丈

10月、埼玉県熊谷市の「がってん寿司」本社。この日はお正月に欠かせないおせち料理の開発会議が行われていた。いまや600億円ともいわれるおせち市場には、大手回転寿司チェーンも続々と参入している。各社とも値段は1万円ほどだが、グルメ路線の「がってん寿司」は2万1500円(税抜き)の豪華版だ。

このような試食会には、必ず女性社員を呼ぶ。「大丈夫? 美味しい?」と聞く久志本。「お財布を握っているのは主婦なので、うちでは女性の意見がとても大事です」と言う。

いまや従業員5千人の一大チェーンを率いる久志本だが、もともとは経営者になる気など、さらさらなかったという。

「がってん寿司」は1987年、埼玉県・寄居町で回転寿司の元祖「元禄寿司」のフランチャイズとしてスタートした。始めたのは久志本の兄、大島敏。本業はなんと歯医者さん。実家が飲食業で、料理人の夢が捨てきれなかったのだという。

「蛙の子は蛙というのでしょうか。もともと商売をやりたいという思いがつのってきて、当時少なかった回転寿司に魅力もチャンスも感じたと言っていました」(久志本)

妹の久志本は薬科大学を卒業後、薬剤師となり、結婚後は専業主婦に。家のローンの足しにするため、「パートで雇ってくれないか」と兄に頼んだのが入社のきっかけだった。

「受付をやろうと思っていったんですけど、パソコンを与えられて、『あなたの仕事はこれね』といわれたのが経理の仕事でした」(久志本)

慣れない経理の仕事だったが、懸命に覚え、いつしか財務部門トップに。兄を陰で支えていった。95年、敏は「元禄寿司」から独立し、「がってん寿司」を旗揚げする。打ち出したのはグルメ路線。「がってん寿司」は時代の波に乗り、100店舗にまで拡大していく。

しかし2011年、最大の危機が訪れる。東日本大震災だ。「がってん寿司」でも、計画停電や電力使用制限の影響を受け、営業できない日々が続いた。なにより東北の漁港や物流網の被害で仕入れも影響を受け、店の売り上げは極端に落ち込んだ。

そんなさなかに追い討ちをかける出来事が。社長だった兄の敏が心筋梗塞で急逝したのだ(享年61)。急遽、妹の久志本が社長を継ぐこととなった。

「素敵な兄でした。社長としても従業員思いでしたし、兄がどれだけ会社を愛していたかもわかっていました。従業員を路頭に迷わせてはいけないというのもありました」(久志本)

会社の存続には従業員の支えが欠かせない。ところが、「先が見えなくなった」と、頼りにしていた従業員が次々と辞めていった。

「カリスマ社長がいなくなって、それに対してモチベーションが下がったり。自分が見えなくなったり……。ここで何かあると、会社としても厳しい局面になってしまうのではないかと思いました」(久志本)

社員の心をまとめなければ。久志本は必死になって考えた。そして始めたのが全員参加の従業員総会。会社が拡大して自然消滅していたものを復活させたのだ。そこではコンテストを開催。一年がかりでサービスの質や握りの腕前を店ごとに競い合い、決勝戦は大いに盛り上がった。これを機にみんなの気持ちがひとつにまとまり始めた。

もうひとつ復活させたのが従業員感謝祭。すべての従業員と家族をエリアごとに招待して食事を振舞った。昔はあった家族ぐるみの付き合い。久志本はその原点を見つめ直した。

「従業員が幸せでないとお客様にいい笑顔が見せられない。従業員が幸せというのは、支える家族がいてこそだと思っているので」(久志本)

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異色社長のチャレンジ~寿司業界に女性の感性を

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久志本が社長になってから新たに始めたプロジェクトもある。その担い手が入社5年目の羽物沙起。北関東エリアの店の商品開発を担当する女性だけのチームの一員だ。

「女性が流行を作るというので、意見を尊重してもらったり、やりやすいです」(羽物)

ふだんの羽物は桐生店の店先に立つ寿司職人。久志本は、男社会の寿司業界に女性の感性を取り入れようとしている。この店だけで女性職人が3人もいる。

久志本の期待に応えて、羽物はすでに女性に人気のメニューを考案した。創作寿司に茶碗むしやデザートをつけた「レディースランチ」(950円、税抜き)。寿司には野菜も添えてヘルシーさをアピール。写真映えするように彩りにも気を配った。ランチタイムになると狙い通り、女性客が次々とカメラを向ける。今や「がってん寿司」は、客の半数以上を女性が占めるまでになったという。

兄の後を継いでから6年。久志本はグループの年商を373億円にまで伸ばして見せた。そんな久志本がいまも大切にしているものがある。「兄が突然亡くなったので、パソコンに残っていた資料を印刷して、バイブルとして常に持っているんです」という、生前の兄が立てた会社の将来ビジョンだ。そのタイトルには「10の種まき」と書かれていた。久志本はその多くを実現させてきた。

「自分のできることはたかが知れている。大変なときは従業員がやってくれるから、彼らに頼ればいい。その通り、みんな頑張ってくれました。お母さんみたいだから、『支えなくちゃ』と思ってくれたんじゃないですか」(久志本)

とんかつ、ビビンバも~しのぎを削る回転寿司業界

埼玉県上尾市にある「かつ敏」上尾店。「がってん承知!」の掛け声とともに出てきたのは、寿司ではなくとんかつだ。

ここは「がってん寿司」のアールディーシーが運営する多業態展開のひとつ。人気は「特上三元豚ロースかつ定食」(2203円)。有名な山形・平田牧場の三元豚を使った逸品だ。コンセプトは「がってん寿司」と同じ「手の届くぜいたく」だ。アールディーシーは食材にこだわり、とんかつ業態だけで5ブランド、37店舗を展開している。

東京スカイツリーのおひざ元ソラマチに出しているのは「VIVAけなりぃ」ソラマチ店。韓国料理の石焼ビビンバ専門店だ。さらに銀座の「VILA MOURA」銀座本店はポルトガル料理の専門店。魚介をふんだんに使うのがポルトガル料理の特徴。南部の漁師鍋「魚介のカタプラーナ」(4200円)、イワシを丸ごと使った「イワシのオーブン焼き」(600円)など、「がってん寿司」のグループだから魚介の品質は折り紙付きだ。

業態を増やしている理由を、スタジオで久志本は「魚だけというリスクの回避」「育った人たちが羽ばたいていく場所としても」と語っている。

一方、神奈川県大和市には久志本の右腕、「がってん寿司」社長の丸山晃の姿があった。

向かったのは神奈川を中心に5店舗を展開する回転寿司チェーン「独楽(こま)寿司」。そこにはさまざまな店の法被を着た職人たちがいた。

「大手の100円(回転寿司)店さんが勢いをつけていく中で、グルメ回転寿司店だけで集まって、お互いライバルなんですけど、手を組んで大手の回転寿司と戦おうというのが意図です」(丸山)

「がってん寿司」が中心となって、グルメ回転寿司の連合「日本回転寿司協会」が結成されたのだ。全国各地のグルメ回転寿司26社が参加している。

例えば「金沢まいもん寿司」は石川県を中心に14店舗を展開するチェーン。ウリは日本海で獲れる地の魚。人気は高く、東京にも進出している。

神奈川県の「まぐろ問屋三浦三崎港」は5店舗を展開。三浦半島の三崎といえば日本有数のマグロの水揚げを誇る。ウリはもちろんマグロだ。

この日は一回目の創作寿司研究会。会場となった独楽寿司の寿司職人、創作寿司の世界チャンピオンでもある地引淳さんが講師を務める。その技術を皆で共有しようと言うのだ。

 その創作寿司はどれも個性的。お酒のジンと醤油に漬けた「ジンライムのサーモン」。仕上げにライムが絞ってある。女性に人気のパクチーをのせたのは「パクチーサーモン」。白いネタの寿司は、米を食べさせることで黄身まで白い卵を使った玉子焼きの握りだった。   こうした職人ワザを共有して100円寿司に対抗するのが連合の狙い。ゆくゆくは連合でネタの共同仕入れも視野に入れているという。

「初めてだったのですが、いい会かなと思う。規模もそちら(100円の回転寿司)の会社は大きいですし、負けたくないなとは思います」(「金沢まいもん寿司」の坂田芳朗さん)

回転寿司の戦いは続く。

がってん寿司
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~編集後記~

「がってん寿司」はグルメ志向で、大手に迫る勢いがある。だが、創業に至る過程はユニークだ。

久志本さんは薬剤師で、創業者の実兄は歯科医だった。開店当初は歯科医との兼業で、白衣で店に現れたらしい。

急逝した兄は経営理念を残し、「種をまく」と表現されていた。優しい響きがある言葉だが、実は厳しい。目標、その根拠、優先順位、変化への対応、すべてが含まれる。

水、天候に注意を払い、あらゆる努力を払い、手入れを怠らず育み、開花させる。シンプルで理解しやすく、そして広くて深い意味合いを持つ。

<出演者略歴>
久志本京子(くしもと・きょうこ)1954年、埼玉県生まれ。1977年、慶應義塾大学薬学部(旧共立薬科大学)卒業。1993年、アールディーシー入社。2001年、代表取締役就任。2016年、代表取締役会長兼社長就任。

放送はテレビ東京ビジネスオンデマンドで視聴できます。

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