「残しておくべき情報は何か」を臨機応変に考えよう

社内文書
(画像=The 21 online)

ビジネス文書の中でももっとも書く頻度が高いと思われるのが、報告書や議事録などの社内文書だ。社外の人に見られるプレゼン資料などと比べてフォーマットがある場合も多いが、そのぶん正確に、必要事項を簡潔に書くことが求められる。書き方のマナーとコツについて、ビジネス文書や書き方の本を多数執筆する福島哲史氏にうかがった。《取材・構成=内埜さくら》

ビジネス文書の役割は「保全」と「共有」

ビジネス文書は「社外向け」と「社内向け」に大別されますが、すべてのビジネス文書に共通する役割があります。それは、書かれてある情報を保全すること。これによってビジネス文書を読む誰もが、そこに書かれた情報を共有できます。いわば共有の財産として情報を活用できるようになるのです。

また、文書にしておくことで正確な情報を伝達する手段にもなります。情報を正確に伝えられることで、ある業務を見直すときや誰かに業務を引き継ぐときなどに、業務の効率化を図ることもできるのです。

このように活用できるビジネス文書を作成する際は、相手に用件が正確に伝わらなければなりません。そしてさらに、こちらが意図するように相手に動いてもらうことが必要です。

読み手に情報を正確に伝え、場合によっては動いてもらう。そのためにはどのようなことが必要になるでしょうか。

中でも事例として紹介する「報告書」「回覧書」「議事録」などの社内文書では、最低でも次の四つのルールを守って作成してみてください。

①タイトルで用件を伝える
用件ひと目で理解できるようなタイトル(件名)を、二十文字以内でつけましょう。

②文書を読む相手の顔を具体的に思い浮かべつつ作成する
社内向け文書は、自部門の上司に見せるものや、数十人程度にメールで発信するなど、特定の相手に見せるものです。相手の顔を具体的に想像しながら作成してみましょう。相手が嫌がるような文書にはしないほうがいいという、賢明な判断につながります。

③文書を残す目的の明確化
文書を残す目的を明確にしておけば、どのような項目が必要かも見えてきます。

④必ず読み返す
公式な文書として保管されることが前提にありますので、誤字や間違いがないように読み返し、場合によっては上司にチェックしてもらいましょう。

すでにフォーマットがある企業が大半ですが、数十年前の雛形をそのまま使い若手に伝わらないケースも増えつつあります。フォーマットがあってもアップデートが必要なことも覚えておいてください。

【報告書】成果と課題を見やすく簡潔に

●NG例

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・訪問した社名のみでは報告不足になる場合も。担当者名、部署名もあると良い
・「パンフレットを見せてご説明した」という記載は当たり前なので省略して良い。それよりも、契約に至ったか否かの記載がないことが問題
・「新規の話が出なかった」では進捗状況が不明のため報告の意味をなしていない。受注の見込みがあるのか、売掛段階なのか、契約が完了したかなどを書く

●OK例

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・時間、場所、担当者、内容が完結にわかるよう表にまとめる
・ワンセンテンスが短めで、主語と述語がわかりやすくダイジェストとして簡潔にまとまっている良例。「次回訪問時までに」と、契約に至らなかった対策案の記載もあるため上司も納得する
・「まだ新規受注のお話がない」と、マイナス面まできちんと入れ込む。事実を客観的に分析し、現状を変えようという意欲が伝わる

「上司の忙しさ」に配慮し簡潔な書き方を

報告書を読む相手は上司です。上司は毎日、部下の人数分だけ報告書に目を通しています。簡潔でわかりやすい内容の記述を心がけましょう。とくに業務の進捗状況は必ず記載してください。

業務内容は曖昧な書き方をせず、事実がはっきりと伝わるように記載することがポイント。備考は顧客のニーズの忘備録ともなるので、具体的に記述しておくとのちの資料になります。

所感とは「心に感じた事柄や感想」という意味です。この報告書ではB社に定期訪問しているようですが、気づいた点や懸念点などの、プラスアルファの情報も記入しましょう。業務内容の多くはメールや電話で済ませられる時代ですが、直接見て肌で感じて情報を得ることが訪問するメリットであり、目的でもあるからです。

込み入った用件を伝えるときは、箇条書きにするなどの工夫も必要です。語尾は「ですます調」ではなく「三人称(である調)」で統一。成果と課題を簡潔にまとめて伝えましょう。

【回覧書】回覧内容に合わせた体裁、フォントを使用

●NG例

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・事務的な定型文のため殺伐とした印象を与えてしまう。また、部の歓迎会のなどの場合は「万障お繰り合わせの上」というような堅苦しい言い回しは不要
・終了時間が明記されていない
・会費の徴収方法が不明
・出欠の締め切りは前日ではなく、せめて2~3日前に設定を。当日の連絡先も書いておくべき

●OK例

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・歓迎会や送別会、懇親会などの案内は、少しくだけた前置きの文章を入れると温かみが出る
・フリー素材のイラストを使って楽しげな雰囲気に
・開始時間だけでなく、終了時間や、中締めの時間の記入もあるのが親切
・幹事の名前と連絡先は必須項目。幹事は当日会場へ早めに到着していることが一般的なので、携帯番号を記入したほうが参加者にとっても都合がいい
・紙で回覧する場合は、出欠の○×を記入する欄があると便利。その際回覧日も記入するようにすれば、途中で滞ることが少なくなる

歓送迎会などの案内はやわらかめでもOK!

回覧書の使用用途は、新入社員歓迎会や忘年会・新年会、懇親会や送別会、社員や家族の慶弔などについての、情報を確実に共有することです。

回覧文書とひと目で分かるように、左上に「回覧」の文字を囲んで強調します。最近ではメールで送ったり、社内イントラに掲示することも多いと思いますが、確実に出欠を取りたい場合などはプリントアウトして紙で回覧する場合もあるでしょう。その場合は誰かのところで止まらないよう、回覧者の印鑑欄もしくはサイン欄を設けるなどの工夫もしましょう。日付や場所などは箇条書きが基本ですが、当日の連絡先も含めなるべく詳しく書いておくと、参加する人が戸惑わずにすみます。メールで送付する場合は、店舗のURLを入れてもいいでしょう。

たとえば、上に見本を載せている新入社員歓迎会であれば、社内文書とはいっても少しくだけた文章を入れ込むと、温かみを出すことができます。ただし、文書を読む相手を想像して、柔らかい文章を嫌う人がいる場合は配慮を。

【議事録】欠席者が見てもわかる内容に

●NG例

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・定例会議なので、「第○回」という表記があるほうが良い
・議事録は「記録」。会議の内容を誰が文書として責任を持つか、記録者の名前は必ず記入を
・「その他意見」の項目がない。会議中に出たちょっとした意見を記入できるスペースがないため、あとで役立つかもしれない情報が埋没してしまう

●OK例

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・基本的には出席者の名前と役職名は記録すべきだが、定例会議であれば省略してもいい。ただし、欠席者がある場合は名前を明記
・数字の報告がある場合、文書を配布する際、「詳細は別紙参照」として添付することが基本
・発言者の名前を明記しておくことで、誰がどんな発言をしたか証拠として残すことができる
・企画案の元となったニュース番組や市場調査の引用元を記すことで、発言者と参加者、欠席者のイメージ共有に役立つ

良い意見は、「その他意見」として残す

会議の検討事項や決定事項を記録として残し、情報共有や報告として用いられる議事録。適当に作成されてしまうと、あとで見返したときになんの話だったのかがわからず、まったく役に立たなくなってしまいます。とはいえ、会議に参加しながら必要なポイントを確実に記録するのは実は結構難しいものです。二つのポイントを押さえて作ると良いでしょう。

最も重要なことは、欠席者があとから読んでも会議の概要がつかめる配慮がしてある議事録になっていること。会議の日時、場所、出席者などの事実は間違いのないように注意を払い、決定事項は箇条書きで簡潔にまとめましょう。 会議で出たアイデアの中には、すぐに実行に移せないものの、今後の参考になる意見もあるものです。「その他意見」といった項目を設けて記録しておくと、のちに役立つことがあります。

商品名やURLなどの参考情報が出た場合は、議事録と一緒にメールで共有するといいでしょう。

福島哲史(ふくしま・てつし)〔株〕オフィスヴォイス代表取締役
京都府生まれ。1984年、慶應義塾大学文学部卒業。講演、執筆、プロデュース等、多くの企業のブレーンとしてさまざまな提言および表現支援活動を行なう。ライフワークではヴォイスコミュニケーションの指導と研究を続けている。著書は100冊を超える。近著に、『早引き!ビジネス文書の文例+マナー事典』(成美堂出版)などがある。(『The 21 online』2017年11月号より)

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