転職の壁となる「嫁ブロック」とは?

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(画像=The 21 online)

既婚男性が転職する際に壁となる「嫁ブロック」。その理由として、会社の知名度や生活環境変化への漠然とした不安といったことが挙げられるが、なかでも多いのは年収が下がるから。ではどうしたら嫁ブロックを防ぎ、乗り越えられるのだろうか。昨年度のヘッドハンター・オブ・ザ・イヤーを受賞し、プロフェッショナルバンクで3、40代を中心に転職支援を行うカリスマヘッドハンター高本尊通氏にうかがった。

ベンチャーへの挑戦 妻から猛反対

有名国立大卒で大手コンサルティングファームに勤めていたAさん(男性・30代半ば)。ITサービスのコンサルティングをしてきた経験をいかして、事業所側に移りキャリアを構築しようと転職活動を始めました。設立5年未満のベンチャー企業を受け、無事に内定を獲得。「ここでなら仕事の裁量が大きく、自分の可能性を広げながら成長できる」と確信し、希望に満ちあふれながら妻に転職の意思を打ち明けました。

ところが予想外に妻からの猛反対に遭いました。ネックになった一番の問題は年収が大幅に下がるということでした。現職ではおよそ1000万円なのが、転職後はいったん200万円下がる約800万円にまで落ちることがわかっています。

「わざわざ年収が下がる会社に移るなんて考えられない」「それであなたは本当にいいの?」となかなか妻は納得しません。最終的にAさんは「妻が反対するので内定を辞退します」と泣く泣く断りました。

このように既婚男性が嫁ブロックに遭い、転職を断念するケースをよく見かけるようになりました。その要因の一つは女性が自立するにつれて、パートナーのキャリア形成に対しても意見をはっきりと主張するようになってきたからではないでしょうか。ましてや高学歴で高収入のAさんのようなビジネスパーソンは、奥様も同じように高学歴で高収入の場合が多くあります。お互いの収入により将来の安定が保障されるなか、夫の突然の決断に妻は強い拒否反応を示します。

「まず奥様に相談してください」

続いては大手メーカーで20年働いていた40代前半のBさんのケースです。彼は同じ業界の技術部門からの依頼により移籍のターゲットとなり、私から話を聞きに会いに行きました。駅前のホテルのラウンジで約1時間、現職の詳しい仕事内容や転職に対する意識を確かめながら、家族構成も詳細にヒアリングしました。

その会話の中で私は、Bさんの奥様の影響力の強さに気がつきました。この先内定まで事が運んでも、年収が下がることが原因で嫁ブロックに遭う可能性が高そうだと思い、Bさんに「まず奥様に転職を検討したいと相談されたほうがいいですよ」と促しました。

その後Bさんは「やはり妻と話し合った結果、現職で引き続きがんばることにしました」と話してくれました。転職を断念され残念でしたが、話がさらに進んだあとでのブロックではなくてよかったのかもしれません。

このように私たちヘッドハンターは転職候補者と話すとき、現在の仕事だけでなく家庭内の状況も聞き出し、家族にも納得してもらえるよう依頼企業の魅力をお伝えしています。

嫁と新しい社長との会食をセッティング

もともと有名大手商社に勤めていた40代前半のCさんは、事業の将来性に期待し100人以下のメーカーへの転職を決めました。しかし内定が出たあと妻に相談したところ、あえなく嫁ブロックが発動。Cさんは夫婦間で話し合いを重ねましたが埒があかず、ヘッドハンターに状況を説明しました。

奥様が反対する要因は、会社の規模が小さくなるというところに不安を感じていたことにありました。それを聞いたヘッドハンターはすぐ、移籍予定の会社の社長とCさん、そして奥様を交えた会食をセッティングしました。

その場で奥様は社長の人柄の良さを感じ、会社への理解も格段に深まっただけでなく、小規模の会社に移ることへの不安も払しょくされました。「すごくいい社長ね。いい会社なんじゃない?」と無事に嫁ブロックを乗り越え、転職にいたりました。

ヘッドハンターは移籍の際の面接に対するアドバイスや立ち合いだけでなく、このように転職者の家族と新しい上司や社長を引き合わせて、スムーズに転職の話を進められるように働きかけることもあります。

ヘッドハンターが直接奥様を説得

IT業界に勤める30代前半のDさんの場合は、WEB関連のベンチャー企業への転職を検討していると奥様に告げたとき、社名を聞いたことがないという理由で嫁ブロックに遭い、転職のステップを踏めずにいました。Dさんから奥様に説明しても一向に話が進まず、ヘッドハンターが自ら奥様に会いにいき、懸念点などを洗い出していきました。

Dさんの場合、奥様との交渉の段になるとなかなか本音を伝えられませんでした。このように第三者が転職したい理由や次の仕事内容、会社の風土などをイメージしやすいように話すことで解決するのではと、ヘッドハンターが自ら嫁ブロックに向き合うこともあります。

今回は4つのケースを紹介しましたが、嫁ブロックを未然に防ぎ乗り越えるコツは

1 早い段階で奥様に相談して“一緒”に考え進めていく
2 新しい上司や社長と奥様との話し合いの場や会食をセッティングする
3 必要に応じて転職をお手伝いする第三者が説得する

と大まかには3つお伝えしました。

ある程度キャリアを積んだ30代、40代の男性には妻子がいることが多く、家族全体で大きな決断を迫られます。女性の場合、年収や会社の規模が変わることへの不安はありながら、配偶者が自分の全く知らないところで転職という大事な話を進めている事実に対して特に拒絶感を示すようです。

“奥様の影”が強い家庭でも、上記のように転職活動をスタートする最初の段階から家族を巻き込んで相談したり、転職先の会社がどういうところか理解してもらう場を設けたりすることで嫁ブロックを乗り越え、キャリアアップの可能性を広げられるかもしれません。

高本尊通(たかもと・たかみち)プロフェッショナルバンク ヘッドハンター
1972年3月7日生まれ。大学卒業後、大手総合人材会社に入社。大手特別法人営業グループ責任者を経て、ソリューションコンサルティング担当マネジャーとして活躍後、2004年、株式会社プロフェッショナルバンク設立に参画。これまで約7千人あまりのキャリアに携わり、特に30代、40代の転職市場の現場に長く携わってきた。2012年にビズリーチ社の日本ヘッドハンター大賞、同年から2年連続でリクナビNEXT AWARD MVAを受賞するなどし、16年にはビズリーチ社によるヘッドハンターランキングで約1500人中第1位を獲得している。(『The 21 online』2017年11月13日公開)

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