2016年2月に設立されたAIベンチャー企業のエルブズが、TIS、大阪大学大学院の石黒浩教授、Gunosy取締役CFOの伊藤光茂氏などから総額8450万円の資金調達を実施したと発表した。これにより資本金は1億円を超えた。出資者には他に、大阪大学ベンチャーキャピタルを無限責任組合員とするOUVC1号投資事業有限責任組合、同特任講師の小川浩平氏も名を連ねている。(丸山隆平、経済ジャーナリスト)

エルブズは設立と同時に京都府唯一の村である南山城村と協定を結んだ。“買い物難民”の高齢者から生活上の困りごとやニーズをインタビューし、「御用聞きAI」のアルファ版を開発。高齢者へのインタビューの結果を大阪大学の石黒浩教授のもとに持ち込み、機械学習や自然言語処理などの技術を応用した選択式ユーザーインターフェースを採用、16年11月、ベータ版による実証実験を開始していた。

田中秀樹・エルブズ社長は「過疎地連携経済圏構想」の今後について、「『御用聞きAI』により過疎地の高齢者300万人以上、3年後に全国基礎自治体1700の10%に当たる170の自治体に導入を目指す」と語った。

ATMやコンビニがない地域でも電子マネーを利用した決済処理を実現する計画も

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(画像=(左から) 手仲、柳井、田中、 石黒、神保の5氏(写真=筆者))

エルブズはTISの新規事業として設立された会社。11月30日に東京・西新宿で開いた記者会見で田中社長は、「(エルブズは)社会性エージェントで幸せを提供する」をビジョンに、「社会性を持つAIを開発し、高齢化社会が加速する日本の課題解決に取り組んできた」と紹介した。

「御用聞きAI」はタブレットを使い、エージェントである人型のインターフェースが画面内を移動するので、高齢者にも親しみやすいシステムだという。2017年1月にはバス実証実験を実施。また4月には南山城村の道の駅がオープンしたため、ここでの利用も目指し、Bluetooth技術を応用した非接触簡易決済技術も開発。今後、エルブズコイン(電子マネー)により、ATMやコンビニがない地域でも電子マネーを利用した決済処理を実現する計画。

2017年9月には愛媛県八幡浜市で伊予銀行が、徳島県三好市で福祉団体、地域ケーブルネットワークが「御用聞きAI」の実証実験も行なってきているという。

石黒教授は「御用聞きAI」の技術について解説した。「人と関わるロボット工学、認知科学の研究から生まれたタッチパネルの技術をエルブズの『御用聞きAI』に応用した。対話における理解とはストーリー性の共有であるということが分かり、これを応用したUIは高島屋で3年間で人間の販売員より多くの洋服を販売という成果を上げた」と述べた。

大阪大学ベンチャーキャピタル社長の神保敏明氏は「当社は官民ファンドであり、資金の源泉はかなりの部分税金で賄われており、投資対象は利益性のほか社会的意義のあるものが求められている。今回、新規領域への投資を民間のTISと一緒にできたことは大変光栄なことだ。また、ファンドの設立目的に沿った形で大学の研究成果を民間の知恵と一体化させることに貢献でき、成功していくことを期待している」と語った。

TISの常務執行役員柳井城作氏は「TISはエルブズの誕生時に出資し、今回、追加の投資となった。TISは事業会社であるが、エルブズの生み出そうとしているものは、既存の組織からなかなか生み出せないものだ。エルブズの対話型AIを高く評価している。新しいビジネスを生み出せると期待している」と語った。

次いで、個人投資家を代表してGunosy取締役CFOの伊藤光茂氏からのメッセ―ジが紹介された。伊藤氏は自身が過疎地域で生まれた経験から「エルブズが社会課題に取り組まれている姿に強く共感して接点を持った。財務的にみてベンチャー企業だけで解決するのは非常に挑戦的だと思っていたが、今回、有力な企業の支援でそのビジョンの実現が大きく前進した」とした。

最後に南山城村村長の手仲圓容氏が同村のビジョンについて紹介した。手仲氏は「当村の職員が田中社長とお会いしたことがご縁となった。京都府の最南端・高齢化率が40%を超え、コンビニもない当村では、買い物にも行けない人が少なくない」と背景について話したうえで、経緯や今後の見通しについて「田中社長からタブレットを使った買い物の提案を受けて、実証実験を行ったが、おばあちゃんにも使えるように、何度も改良を加えていただいた。いよいよ、実用化が始まる。将来的には見守りなども含めて、地域の人々が安全・便利に生活できる村づくりを目指していく」と述べた。

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