資料作りのポイントは、「数字」と「2段上の視点」

資料作りのコツ,三木雄信
(画像=The 21 online)

やっとつかまった忙しい上司に稟議書を見せたけれど突き返された、何が言いたいのかわからないと言われた……など、資料の手戻りが発生する現場が日本の会社ではよく見られる。果たして上司の一発OKをもらえる資料には何が必要なのか――。ソフトバンク孫正義社長のもとで社長室長を務めた三木雄信氏に、「孫社長も納得する」資料の作り方のコツをうかがった。

孫社長がOKするのは「見て3秒」でわかる資料

ソフトバンクグループを率いる孫正義社長のもとで社長室長を務め、ADSL事業『Yahoo!BB』の立ち上げを始めとする数々の大型案件では、プロジェクトマネージャーとしても手腕を振るってきた三木雄信氏。“世界一忙しい”と言っても過言ではない上司を相手にするうち、「孫社長が一発でOKする資料」のツボを掴んだと話す。

「私が社長室長だった頃の重要な仕事の一つが、孫社長から社内の稟議をもらうことでした。

当時、孫社長は早朝から深夜まで10件以上の会議が続くこともしょっちゅう。しかも熱が入ってくると、『このまま会議を続けるから、あとの予定は全部飛ばせ!』となることも珍しくない。そうすると、孫社長の稟議をもらうためにアポを入れていた幹部たちは、何時間も待たされてしまうわけです。

これでは社内の仕事が進まないので、私が幹部たちから書類を預かり、孫社長の手が空いた隙を見て、代わりに稟議書にハンコをもらうようになりました。いわば“稟議取り代行”みたいな役目をしていたわけです」

預かった資料の中には、孫社長が了承するものもあれば、ろくに読んでもらえないものもあった。その違いは何か。

「孫社長とのコミュニケーションは、“居合い斬り”。最初の3秒が勝負です。資料をパッと見て、一瞬で言いたいことがわからなければ、『あとにしろ!』と言って逃げられてしまう。よって孫社長にOKをもらうには、資料の一番上に結論が書かれていることが大原則です。

同様に、『誰が・何を・いつまでにやるのか』が明記されていない資料も、会社にとって役に立ちません。資料とは、次のアクションを起こすためのもの。どんなに丁寧に作り込んでも、それを受けて組織や人がすぐに動き出せない資料は不完全ということです」

「あの資料作って」と言われたら要確認!

だが多くの人は、次のアクションを提案するために資料を作ったつもりなのに、上司から「これでは決められない」「判断材料が不十分だ」などと却下された経験があるはずだ。そこで三木氏は、「2段上の視点」に立った資料作りを推奨する。

「上司から『あの資料、作っておいて』と言われたら要注意です。日本語で『資料』と呼ばれるものには、実は『データ』『インフォメーション(情報)』『ナレッジ(知識)』『ウィズダム(知恵)』が混在して、それぞれ質やレベルが異なっています。

つまり、『あの資料』では、どのレベルの資料を想定しているのか、作り手と受け取り手で齟齬が発生する可能性があるのです。

では、どのようなレベルかというと、この4つはそれぞれ、組織の階層に対応しています。これが『DIKW理論』と呼ばれるフレームワークです。

つまり、相手が管理職か事業部長なのか、それとも社長や役員なのかによって、求められる“資料”のレベルは変わるということ。自分が管理職で、事業部長から資料作成を命じられたのだとしたら、その資料は、取締役会で了承をもらうためのものと考えられます。その場合、自分のポジションの2段上の『ウィズダム』の視点を入れなければ、読み手の期待に応えられません。

少なくとも、上司に『資料を作れ』と言われたら、どのレベルを求めているのか最初に確認すべきです。加えて、作成の過程でも上司とこまめに方向性を擦り合わせれば、相手が期待したとおりの資料を作れます」

たとえば、売上げ報告書を作るなら、DIKW理論を使って、次のようにレベルアップしていく。

「『データ』とは、それ自体は意味のない数字や記号のこと。『新宿店の月次の売上げ』といった生の数字を報告書に書いても、相手が管理職以上なら、『だから一体、何が言いたいんだ?』と突き返されるだけです。

データを『インフォメーション』に加工するには、『その数字や情報がどんな意味を持つか?』を示さなくてはいけません。たとえば、『過去1年の新宿店の売上げ推移』をグラフ化した結果、『10月は他の月より売上げが50%増加した』とわかったとします。さらに、ここ数年も同じ傾向があったとしら、これを報告書に書けば、上司は来年の10月も売上げが増えると予測できるので、『この月は店舗スタッフを増員しよう』といった戦術を立てることができます。

その上の『ナレッジ』は、『事業をどう展開すべきか?』という戦略です。よって、インフォメーションをさらに掘り下げて分析し、『来年度の店舗売上げを前年比150%にするには、広告宣伝費を3割増やすべきだ』といった提案を、分析した根拠とともに盛り込みます。

最上位の『ウィズダム』は、『なぜこの会社がその事業をするべきか?』という理念やビジョンを示すもの。マーケット全体を分析し、『現在の社会人向け事業に加え、子供向け事業にも参入すべきだ』といった提案にまで踏み込めば、取締役会でも通用する報告書になります」

孫社長が「回帰分析」の習得を命じた理由とは?

三木氏の解説からわかるのは、上が求めるレベルの資料を作るには、数字を使いこなせなくてはいけないということだ。

「『何事も数字で考えろ』が孫社長の口ぐせです。なぜそこまで数字にこだわるかといえば、一番の理由は『数値化すれば、優先順位が明確になるから』。会社のリソースが限られる中、『最大の成果を出すには、何にどれだけ投資するか』を決めるには、数字の裏づけが不可欠です。

孫社長はあるとき、『幹部は全員、回帰分析をマスターしろ!』と言い出しました。これは物事の因果関係を分析する手法で、『気温が1℃上がると、アイスクリームの販売個数がどれだけ伸びるか』といった“原因と結果”がわかります。

つまり、回帰分析ができれば『売上げや利益を最大化するために、この戦略をとっていいのか、悪いのか』が判断できる。資料に『ナレッジ』以上の提案を入れるためにも、回帰分析は必須といえます。

しかも数字という共通言語を使えば、『現場のデータを分析したら、こんな結論になりそうですが、この方向で進めていいですか?』と上司をコントロールして意思決定させることも可能です。

皆さんも、上司に言われるまま資料を作るのではなく、現場の知恵や自分がやりたいことを経営に反映させるために、資料をうまく活用してください」

三木雄信(みき・たけのぶ)トライオン〔株〕代表取締役社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所〔株〕を経て。ソフトバンク〔株〕入社。27歳で社長室長に就任。孫正義氏の側で、「ナスダック・ジャパン市場創設」「Υahoo!BBプロジェクト」をはじめ、取多くのプロジェクトを担当。現在は自社経営のかたわら、東証一部上場企業など複数の取締役・監査役を兼任。内閣府の原子力災容対策本部で廃炉・汚染水対策チームプロジェクトマネジメント・アドバイザーを務める。近著に『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)がある。(取材・構成:塚田有香、写真撮影:長谷川博一)(『The 21 online』2017年11月号より)

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