資料の「ノイズ」を徹底除去すること!

ムダのない資料作成のコツ
(画像=The 21 online)

日本のビジネスマンは、作らなくてもいい資料を「念のため」に作ったり、社内会議なのにプレゼン資料のような立派な資料を作り込んでしまう傾向があるという。そこには大いなるムダがあり、かえって資料の質を下げていることも。そこで、清水久三子氏に、外資系企業も実践するムダのない資料作りのコツをうかがった。

その資料は、本当に必要か?

資料作成という作業は、良くも悪くも「頑張った感」を覚えさせるものです。図や表を多用した資料は立派に見えますし、そうしたビジュアル効果を高めるツールも多くあります。

しかし、それらが職場における「ムダ資料」の量産を招いていることもまた事実。凝った資料を作るために時間をかけ、その実、「何が言いたいのかわからない」資料ができあがる、といったことも起こりがちです。 そのデメリットは、作り手の時間のムダだけではありません。資料自体も情報過多でピントが曖昧になり、相手に読ませる時間が長くなるわりに次の行動決定にはつながらない──といった、ムダの連鎖が起こります。

このような情報過多の分厚い資料を作るのは日本企業の悪しき伝統ともいえます。日本のビジネスマンは、今後、資料は、「頑張って作る」ことよりも、「ムダなものは作らない」ことを念頭に置くべきでしょう。

そこでまず、考えるべきは、「そもそも資料を作る必要があるのか」ということです。

それを検討する基準は2つあります。1つは、「口頭ですむのでは?」というポイント。会議の席で話されるすべての情報に資料が必須なわけではありません。わざわざ用意して読み上げるより、口頭で伝えてメモを取ってもらえば十分なケースも多々あるはずです。

2つ目のポイントは、「資料が必要な段階かどうか」という点。

たとえば、自由に意見を交わし合うブレストの段階で、緻密にまとめ上げられた資料は必要ありません。こうした場面で役に立つのは、参考になりそうな雑誌の切り抜きやウェブページのプリントアウトなどです。それらの「生データ」をわざわざ転記して分析し、資料にまとめ上げてしまうと、情報が間違って加工されたり、自分のフィルターがかかって、ミスのもとにもなりかねません。

目的に合わないツールがムダを生む

「作る必要のある資料」に関しても、多くのムダが発生しています。その原因の1つは、目的とツールが合っていないこと。

代表的なツール、「ワード」「エクセル」「パワーポイント」について考えてみましょう。

ワードは図や表も作成できますが、基本は文章作成用のソフト。ですから、報告書作成に適したツールといえます。

対して、エクセルは表計算ソフト。したがって、説明文やグラフを伴う文書を作る用途には適していません。エクセルを使う人は、セルの幅を調整したり結合したりして自分なりのフォーマットを持っている場合が多く、訂正が必要になったときに他の人が作り直そうにも入力方法がわからない、となることもよくあります。こうした「メンテナンス」の難しさも、余計な手間暇のもとです。

一方、パワーポイントはプレゼンテーションソフト。もともとは「ビジュアルエイド」という名称で開発されたもので、言葉による説明を「ビジュアルで補助(エイド)する」ことが目的。つまり、キーワードやイメージを見せるものであり、文章を書くには向いていません。

ですから、プレゼン資料のパワーポイントに長文を書き込むのはムダ作業。会議の場で、受け取り手がパワーポイント内の文章を黙読してしまって、本来聞かせるべき話に集中してもらえなくなり、伝えるべきメッセージが届かないこともあるのです。

「カッコいい」グラフはムダの代表!

さて、メッセージと言いましたが、そもそも資料に「メッセージがない」ケースも多く見られます。

たとえば、「顧客ニーズをとらえることが大切」「最適なソリューションを提供します」などの表現。ふわっと結論を述べているようですが、そこには具体性も方針もありません。こうした資料は、伝えたいメッセージを自分の中で結論づけられていない状態で作っているので、図や表を多用して作り込むことで体裁を整えたように見せていることが多いのも特徴です。

こうしたゼロメッセージの文章は、資料上の「ノイズ」になります。ノイズとは、伝達の障壁となるもののこと。多すぎるページ数や、情報の重複や不正確性もノイズとなり、本当に伝えたいことが薄まってわかりづらくなってしまいます。

図表によく見られるノイズは、表の罫線。「枠線は太く」「ここは細線」「1行おきに色をつけて」などと凝りたいポイントですが、桁がそろっていて適度に余白を設けていれば、本来罫線は必要ないもの。作り込みすぎるとメンテナンス性も低くなります。主役は表中の項目や数字であることを忘れてはいけません。

また、グラフも、作り込みがアダになってノイズの発生源となりがちです。その代表格が、棒グラフや円グラフを立体的に描く「3D機能」。

なぜなら棒グラフは、棒の面積で数値を比較するために使うものであり、3Dではその情報に歪みが生じるからです。円グラフも同じく、扇形の面積で内訳を表わすのが目的。3Dで遠近をつけると正確性が失われます。

ここを踏まえず、「見栄えがいい」という理由で3Dを使うと、「デキない人」認定される危険も。グラフの目的を理解せず、正確性を損ねる作業にわざわざ時間をかける人、と思われるので要注意です。

このように、資料を作っていると知らず知らずのうちにノイズを取り込むリスクがあります。とくに、パワーポイントのようなツールは「色をつけたい」「アニメーションを使いたい」といった誘惑に満ちています。

しかし、経営者や役員などの決定権を持つ人たちは、演出過多な資料を嫌う傾向にあります。多忙な中、最短で情報を得たいと思っているときに「飾り」だらけの資料を見せられてはかなわない、という反応をよく目にします。今後は、ムダ削減のニーズもあり、資料は「カッコよく」から「シンプル」へと転換していくことが予想されます。

シンプル資料の秘訣は「文章力」にあり

では、過剰演出を卒業して「シンプル資料」を作るコツは何でしょうか。

その答えは、意外かもしれませんが「文章力」を上げることにあります。図の助けを借りずにどれだけ説明できるか、正確性と具体性を備えたメッセージをどう明確化するかがカギです。

したがって、資料作成時に最初からパワーポイントを立ち上げるのは厳禁。まずは、紙の上に目的や構成を書き出すことから始めましょう。

内容を「箇条書き」で書く訓練もお勧めです。問題提起、解決策、結果、とプロセスを区分けして項目ごとに一行ずつ伝えたいことを書き、それを文章につなげていくと、明確なメッセージが浮かび上がってきます。

途中までラフに作った段階で、それに合わせて「しゃべってみる」のもお勧め。これは「ウォークスルー」といって、若手コンサルタントによく実践させていた方法です。うまく話せない部分が見つかるたび、そこをピンポイントでブラッシュアップしていけば万全です。

このプロセスを踏めば、短時間で「伝わる資料」を作れるスキルがついてきます。資料作りに時間がかかってプレゼン時の語りの準備ができず、本番でしどろもどろ──という、よくある失敗も回避できます。

つまるところ、図作成やレイアウトの能力を磨くよりも大事なのは「文=メッセージ」を固めること。その基盤があってこそ、骨太で信頼性の高い資料が作れるのです。

清水久三子(しみず・くみこ)〔株〕AND CREATE代表取締役社長
お茶の水女子大学卒業後、大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現・IBM)入社。企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、新規事業戦略や人材開発などのプロジェクトを推進。これまでに延べ7,000人のコンサルタントやマーケッターを育成。2013年に独立し、法人研修やセミナー、個人指導も行なう。近著に、『外資系コンサル流「残業だらけ職場」の劇的改善術』(PHP研究所)。(取材・構成:林 加愛)(『The 21 online』2017年11月号より)

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