ポイントは「標準化」「評価」「仕組み」の3つ
休暇が取りたいのに取れない……そんな職場には、休めない理由となる慢性的な問題点がいくつも存在する。「行動科学マネジメント」を基礎に人材育成や組織改革のコンサルティングを行なう石田淳氏に、職場でよくある「休めない理由」を指摘し、改善策について教えてもらった。《取材・構成=内埜さくら》
あなたの職場にもきっといる!「休めない職場」の問題点6
1 「休まず働くのが偉い」と思い込んでいる部長
「仕事が第一」「出世と給料アップが何より大事」という価値観で働いてきたので、会社に長時間いることが偉いといまだに思い込んでいる。残業や休日出勤もいとわず、部下にも強制する。
2 会社にしか居場所がない中年社員
仕事以外に趣味がなく、休みを取ってもやることがない。家族ともコミュニケーションを取ってこなかったので、家にも居場所がない。家に帰りたくないので、残業で時間稼ぎをすることも。
3 毎日、会議の予定を入れられてしまう課長
毎日のように会議の予定を入れられてしまうせいで、休暇を取りたくても取れない。そのための資料を作成する時間も必要で、本来の業務に支障を来し、残業続きの毎日だ。
4 部下に仕事が任せられない課長
部下に任せるべきことも、不安で任せきれない。忙しいので、自分がやったほうが早いと考えてしまうことも。キャパオーバーで本人は休めず、部下は仕事を覚えられず、悪いことばかり。
5 仕事を教えてもらえず、モチベーションが下がっている若手社員
上司が仕事をきちんと教えてくれず、マニュアルもないのでどう進めれば良いかわからない。質問しても、「OJTで覚えなさい」と言われ、ムダだと感じ、モチベーションも低下。
6 「この仕事は自分にしかできない」状態のベテラン社員
特定の仕事について属人化していて、「○○さんに訊かないとわからない、進まない」という状況になっている。他人に教えたら自分の仕事を取られるのでは、という恐怖心を持っている。
「休める職場」に変わる3つのステップ
これらの「休めない職場」の理由、「あるある」と思った人も多いのではないだろうか。こうした職場を改善するには「3つのステップ」が必要だと石田氏は言う。
残業も休日出勤もゼロ、でも成果が上がる――そんな「生産性」が高い環境作りは、企業にとって急務です。
現在、多くの企業の経営層が生産性について頭を悩ませています。その理由は、優秀な若手社員の離職率が上昇しているからです。長時間労働を嫌う彼らは、たとえ大手企業に就職できても、休めない環境ではあっさりと退職してしまいます。その結果、企業側は育成コストと優秀な労働力を同時に失うことになり、現場は人手不足でどんどん疲弊してしまいます。
生産性を上げることは、企業の生存戦略の一つ。この問題を後回しにする企業は近い将来、淘汰されていくでしょう。
では、生産性が高くきちんと休める職場はどうすれば作れるのか。たった三つのステップを導入するだけで、それは実現します。
その3ステップとは、
1 「標準化する」
2 「評価する」
3 「仕組みを作る」です。
企業がもっとも苦手とするのが「標準化する」作業。「標準化」とは、業務が誰でも同じように簡単にできて、最速で目的を達成できる、一番良い手順やルールを決めてしまうことです。決めたら必ず、マニュアルや文書などで「見える化」しておきます。標準化の対義語が「属人化」で、同じ作業をするのにも個人のやり方に委ねられている状態を指します。
「企画書を作成する」という仕事の標準化を例に挙げて説明します。大まかに工程を分けると六つのステップになります。
1 企画書を作る目的をヒアリングする
2 チェックを受けるタイミングや完成期限を確認する
3 資料を入手し、データを集める
4 提案したいアイデアやコンセプトを練る
5 文章にまとめる
6 タイトルやキャッチコピーを考える
企画書作成は4が大きなカギを握るためクリエイティブな作業と捉えられがちですが、実は工程の8割が標準化できます。
1と2は「ヒアリング&工程シート」に書き込む形にすれば、短時間で作業が進みます。3は、「目を通す書籍は3冊まで、ネット検索は1時間以内とする」といった共通ルールを作ります。4は「30分考えてまとまらなかったら上司にアドバイスを仰ぐ」などと決めると解決します。5は過去の企画書を使っていいこととし、6はキーワードだけわかればいいと決めれば、標準化の完成です。
「評価」で大事なのはお金以外の報酬
標準化の次のステップが「評価」です。なぜ、評価が重要なのかというと、人は「行動→良い結果を得られる」ということがわかると、その行動を続けることができるからです。逆に言えば、良い結果(ここでは評価、報酬)を得られなければ、それ以上続かないのです。
評価には、昇給や賞与といった「金銭的報酬」と、可視化できない貢献や取り組みを賞する「非金銭的報酬」の2種類があります。このうち、実は後者をうまく使っている会社が、高い生産性を維持しています。
今の部長・課長世代は褒めることが苦手な人が多いようですが、大げさに考える必要はありません。「ありがとう」「よくやってくれたね」「助かるなあ」程度でも、部下は「自分を見ていてくれているんだ」と自己重要感が満たされます。行動と評価の時間差が小さいほど効果が高いので、「すぐに」「こまめに」、気持ちを具体的な言葉で表現しましょう。
最後のステップが、「標準化」と「評価」を進められる「仕組み」作りです。具体的な方法としては、グラフやポイントカード、これらを元にした表彰制度がお勧めです。チーム全員の行動について棒グラフにしたり、行動した数だけスタンプを押し、グラフの優秀者や一定のポイント獲得者を、ゲームのようなノリで楽しく表彰するのです。ここで大事なのは、売上げなどの結果ではなく、訪問軒数などの「行動」にフォーカスすることです。
ちなみにこの方法は、有給休暇を取得しやすい環境作りにも応用できます。部署ごとに取得率をグラフ化すれば、社内での差が明らかになるため、改善のきっかけになりやすいからです。取得率の高い部署やチームを評価する仕組みを作れば、「休めない」職場の意識は変わっていくでしょう。
「休めない理由」の個別的改善案
1 「休まず働くのが偉い」と思い込んでいる部長
→このまま放置すると会社が危ない!
この考えは時代錯誤。今の若手社員の多くは、「給料アップ」や「出世」よりも、プライベートの時間が大事だと考える傾向があります。優秀な若手社員が辞めてしまうと、育成コストが無駄になるうえに、人手不足に陥ることが確実。こういうタイプの上司を変えたい場合は、そうした最近の若手社員の傾向についてデータや専門家の意見などを見せたうえで「その考えを押しつけると若手は平気で辞めてしまう」ことを知ってもらいましょう。
2 会社にしか居場所がない中年社員
→会社の外にコミュニティを見つけよう
趣味がなく、家族との関係も良くないので、会社にしか居場所がないので休みも取る必要がない――現在40代~50代の男性に多いタイプです。定年退職後に困るのは本人。人生は長いので、今から趣味や会社以外のコミュニティを見つけておきましょう。釣りでも料理教室でもなんでも、興味がある分野にトライして、不向きなら別の分野に目を向ければいいのです。人生後半をどう生きていくかを視野に入れつつ、休日を過ごすことをお勧めします。
3 毎日、会議の予定を入れられてしまう課長
→「アジェンダ」で先手を打ち会議を減らす!
まずは無駄な会議を極力減らせないか検討してください。たとえば、よくある数字を報告するだけの会議は見直しの対象です。見直す必要があると他の人たちにも認識してもらうためにも、自ら率先して事前にアジェンダを作成し、会議を開く理由を参加者で共有しましょう。そして着地点も明確化し、会議を「見える化」するのです。そうすれば、無駄な会議を減らせるだけでなく、必要な会議の時間も短縮できるでしょう。
4 部下に仕事が任せられない課長
→「2週間休む」と想定してリストを作ってみよう
このタイプは部下に教えても、不安でつい手出し・口出ししてしまいがち。「もし、自分が2週間出社せず、そのあいだ連絡も取れないとしたら」と想定し、「引き継ぎ用チェックリスト」を作成してみましょう。具体的な方法をなるべく詳しく記述します。言葉で伝えるだけでは、教えられる側は忘れてしまいますし、教える側も不安が残ります。文書に残っていれば、任せる側としても安心できるうえに、実際にやりながら改善していくこともできます。
5 仕事を教えてもらえず、モチベーションが下がっている若手社員
→丁寧すぎるくらいきちんと教えよう!
「仕事は自分で考えてするもの」という自分とは育ってきた時代背景が違うと認識し、「きちんと教える」ことが鉄則です。たとえば、「電話応答の仕方を知らない」という話を聞きますが、彼らは固定電話に慣れていないだけ。トレーニングすればできるようになるので、「そんなことも知らないのか」などと突き放さず、きちんと教えましょう。ポテンシャルは高いので、きちんと教えればモチベーションを失わず、戦力になってくれます。
6 「この仕事は自分にしかできない」状態のベテラン社員
→プライドを傷つけず、マニュアル化のお願いを
事務系のベテランや技術者系、トップ営業マンにも多い、属人化の悪例です。本人もベテランとしてプライドを持って仕事をしているので、そのプライドを傷つけないように。たまには長期休暇を取ってもらうよう上司から勧めたうえで、「休み中に君がいないと会社が混乱するから、仕事内容を文書にしてほしい」と、マニュアル作成の仕事をお願いしましょう。できたマニュアルについては、本人の実績として評価することも重要です。
石田淳(いしだ・じゅん)社団法人行動科学マネジメント研究所所長
アメリカのビジネス界で絶大な成果を上げる行動分析、行動心理学を軸にしたマネジメント手法を、日本人向けに改良し、「行動科学マネジメント」のメソッドとして体系化。意志の力に頼らない再現性の高い方法論として、人材育成や組織活性化に悩む企業にとどまらず、教育、スポーツの現場でも幅広く成果を上げている。
社団法人行動科学マネジメント研究所所長。株式会社ウィルPMインターナショナル社長兼CEO。米国行動分析学会会員。日本行動分析学会会員。
著書に、『教える技術』(かんき出版)、『なぜ一流は「その時間」を作り出せるのか』(青春出版社)、『行動科学マネジメント入門』(ダイヤモンド社)などがある。(『The 21 online』2017年12月号より)
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