自分の会社を親族などの後継者に譲り渡す場合でも、M&Aを通じて第三者に売却する場合でも、課税関係がどのようになるのかは気になるところです。以下では、主として個人である会社オーナーが第三者に対して会社を売却するケースを念頭に置き、どのような税金がかかるのかを解説します。

会社を売却するとはどういうことか?

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(写真=PIXTA)

一般に「会社を売る」とは、保有している会社の株式を譲渡することを意味します。実務的には、株式を保有している会社オーナーと買い手との間で株式譲渡契約書を取り交わすことになります

株式を譲渡した場合、会社オーナーに譲渡所得が発生すれば、個人に対する所得税が課されます。一方、買い手側である第三者としては個人のケースと法人のケースが考えられますが、いずれの場合も株式が適正な価額で譲渡されている限り、課税は生じません。

所得税はどのように算定されるか?

それでは、会社オーナーに対して課される所得税はどのように算定されるのかを確認してみましょう。譲渡所得は一般的に「譲渡対価」から「取得価額」と「譲渡にかかる経費」(売却手数料)を差し引くことにより算定されます。

このうち「譲渡対価」は株式譲渡契約で決められた株式の譲渡価額を指します。また、「取得価額」は株式売却における「原価」を意味します。自身で設立した会社であれば、資本金等として払い込んだ金額が「取得価額」ということになります。

これに対して、他者から譲り受けた会社であれば、株式の購入対価が「取得価額」になり、親からの相続などにより取得した会社であれば、被相続人の「取得価額」を引き継ぐことになります。また、「取得価額」が不明の場合には「譲渡対価」の5%相当の額を「取得価額」とすることも認められています。

算定された譲渡所得に対して申告分離課税によって所得税が課税されます。その際の税率は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)となります。申告分離課税は他の所得との通算などを行わないため、金額が多額となっても税率は変わりません。つまり、金額の多寡にかかわらず譲渡所得の約20%の税金がかかると覚えておけばよいでしょう。

税金を安くする方法は?

一律約20%の税率で課税されることから、譲渡対価を安くすれば、それに比例して所得税も安くなります。しかし、単に譲渡対価を安くするだけだと、売り手である会社オーナーの手取りも減るのであまり意味がありません。

そこで、会社オーナーの手取りはそのままで税金だけ減らす方法を紹介しましょう。それは、譲渡対価を減らした分、会社から役員退職金を受け取る方法です。

役員退職金には退職所得として所得税が課される一方で、老後資金としての性格を有することから、一定の配慮がなされています。具体的には、役員退職金の額から「退職所得控除額」を差し引き、さらに1/2を乗じた金額に税を適用するようになっています。

この「退職所得控除額」は、勤続年数20年までの期間については年40万円、20年を超える期間については年70万円となっています。例えば、勤続年数30年の場合、1,500万円(=20年×40万円+10年×70万円)を控除することができます。控除額が80万円に満たない場合は80万円とします。

仮に、株式の譲渡対価が1億円(譲渡価額はゼロ)とすると、通常は約2,000万円の所得税が課されます。しかし、役員退職金1,500万円と譲渡対価8,500万円に分けて合計1億円を受け取ることで、役員退職金にかかる所得税はゼロとなり、所得税は約1,700万円(=8,500万円×約20%)に減少します。なお、役員退職金は会社側でも損金として処理することができます。

売却時の税金で注意すべき点は?

上記のような節税策はあるものの、譲渡対価や役員退職金の額を決める際には注意が必要です。

まず、譲渡対価に関しては、適正な時価より低くすると、買い手が個人の場合には贈与税、法人の場合には法人税(受贈益)が課される可能性があります。逆に、適正な時価より高くすると、売り手である会社オーナーに贈与税や追加の所得税が課される可能性が生じます。

役員退職金に関しても、金額が「不相当に高額」と判断されると、法人の損金として認められないなどの不利益が発生します。

M&Aは専門家に相談をしながら対策を

こうした譲渡対価や役員退職金の適正額の算定には専門的な判断が伴います。また、今回ご紹介した株式譲渡の方法以外にも、第三者割当増資や事業譲渡といった方法が存在します。会社オーナーの現状に即した承継対策は、専門家を交えて検討することが現実的と言えるでしょう。(提供:企業オーナーonline

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