シンカー:人手不足を背景とした効率化と省力化が急務なだけではなく、新製品の投入などでの売上高の増加のため、設備投資と研究開発が拡大し始めている。今回初めて公表される2018年度の大企業全産業設備投資計画は前年比+2.3%と、2008年度以来の強いスタートとなった。統計のクセで、必ず低く始まり、上方修正される傾向があり、季節性を除去すると、10-12月期の前年同期比+5.6%から、1-3月期は+7.9%へ、設備投資モメンタムは強くなっていることを示している。個別企業では、設備投資の拡大が、先行きの収益の拡大の可能性が高いことを示す良いシグナリングとなる局面に入ってきているようだ。1-3月期の中小企業の金融機関貸出態度DIは+22と10-12月期の+21から、6四半期ぶりに上昇した。現在のところ、失業率の先行指標である中小企業貸出態度DIは低下トレンドに転じているわけではなく、信用サイクルは堅調、日銀の現行の政策は副作用より効果の方が大きく、デフレ完全脱却への動きは順調であると判断できる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

1-3月期の日銀短観大企業製造業業況判断DIは+24と、10-12月期の+26から若干低下した。ドル・円が2018年度の想定レートである109.7円より若干の円高水準にある。実質輸出は堅調な伸びを見せているが、収益への警戒感の方がより強かったと考える。1-3月期の大企業非製造業業況判断DIも+23と、10-12月期の+25から若干低下した。雇用と冬のボーナスの増加、そして春闘を含めた賃金上昇への期待感が消費活動を支え、インバウンドの需要も引き続き強い。一方、大雪などの天候不順と、人手不足への対応でこれまで上昇してきた利益率が頭打ちになってきていることが下押しとなった。この水準までDIが上昇すると、バブル期もそうであったが、先行きDIは必ず悪化予想となるため、情報価値はない。

日銀展望レポートでは、景気について「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」とし、需要超過の領域に入りながら景気が引き続き上向いていることを示す「拡大」という判断が維持されている。この判断に変更を迫る結果ではないだろう。次回の短観は製造業(一時的な生産調整からのリバウンドを背景)と非製造業(賃金上昇をともなう消費者心理の改善を背景)ともに改善する可能性が高いと考える。リスクシナリオとして、ドル・円が100円を下回る水準で定着すれば、インフレ期待の縮小への対処として、若田部副総裁や片岡審議委員が指摘するように追加金融緩和の可能性が浮上することになろう。その手段は、マーケットが警戒してきたのが緩和の時間軸の短縮であることを考慮すれば、副作用が大きくなるリスクがある金利引き下げより、一定期間は金利引き上げ方向の政策変更はしないことを明確にコミットする時間軸の強化になるかもしれない。

1-3月期の全規模全産業雇用人員判断DIは-34(マイナス=不足)へ、10-12月期の-32から更に低下した。バブル期なみの雇用不足感を示している。そして、人手不足を背景とした効率化と省力化が急務なだけではなく、新製品の投入などでの売上高の増加のため、設備投資と研究開発が拡大し始めている。今回初めて公表される2018年度の大企業全産業設備投資計画は前年比+2.3%と、2008年度以来の強いスタートとなった。統計のクセで、必ず低く始まり、上方修正される傾向があり、季節性を除去すると、10-12月期の前年同期比+5.6%から、1-3月期は+7.9%へ、設備投資モメンタムは強くなっていることを示している。個別企業では、設備投資の拡大が、先行きの収益の拡大の可能性が高いことを示す良いシグナリングとなる局面に入ってきているようだ。

日銀が遂行している「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」による超低金利政策の効果と副作用の評価はまだ定まっていない。マイナス金利で日銀当座預金残高からの収入が減少し、超低金利環境で貸出利鞘の縮小するため、金融機関の収益構造が弱体化し、財務悪化が貸出や投資を消極的にしてしまう悪影響があり、かえって金融緩和の効果が反転(リバーサル)するという指摘もある。最終的に効果と副作用の評価を決するのは、企業が金融機関の貸出態度が緩和したとみるのか、引き締まってしまったとみるのかである。金融機関の経営状態が厳しいと企業が見れば、実際の貸出態度に変化はなくても、将来的に引き締まっていく不安が生まれ、企業活動は弱体化してしまう。信用サイクルの動きを示し、内需の動向を最も敏感に反映する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIが決することになる。中小企業貸出態度DIが上昇すると、信用サイクルが上向き、企業活動が活性化し、失業率が1年程度のラグをもって低下していくことが確認できる。

1-3月期の中小企業の金融機関貸出態度DIは+22と10-12月期の+21から、6四半期ぶりに上昇した。確かに、現在のところ、失業率の先行指標である中小企業貸出態度DIは低下トレンドに転じているわけではなく、信用サイクルは堅調、日銀の現行の政策は副作用より効果の方が大きく、デフレ完全脱却への動きは順調であると判断できる。しかし、その上昇の勢いは既に弱くなっているようにも見える。超低金利環境の期間が長ければ長いほど、金融機関の収益構造が弱体化し、財務悪化が問題となり、中小企業貸出態度DIが悪化して、失業率が上昇してしまう副作用のリスクが大きくなる。円高とDIの大幅な低下が同時に起こった場合、日銀に打つ手はほとんどない。そうなってしまうと、経済政策として手遅れになる。財政政策の拡大で、金融政策の負荷を減じながら、景気拡大の動きを維持する必要がある。2020年度のプライマリーバランス黒字化の先送りが正式に決まる6月前後の骨太の方針の公表までに、大規模な補正予算の策定の方針が示される可能性があろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司