「動機付け」「目的意識」、もしくは「やる気」といった意味で使われることが多いモチベーションという言葉。経営者や管理職の中には社員や部下のモチベーションを引き上げようと、日々躍起になっている人も多いのではないでしょうか。
しかし、実は多くの一流経営者が「経営者や管理職はモチベーションを引き上げる努力をするべきではない」と明言しています。ここでは3人の一流経営者の言葉を引用しながら、なぜ社員や部下のモチベーション管理が必要ないのか、経営者や管理職はモチベーション管理をやめて何をするべきなのかを解説します。
部下の行動は「わかりやすいメッセージ」で作る
「モチベーション」は上げない
やる気のない人はプロ失格
LINEの元代表取締役社長であり、退任後は動画を利用した女性向けファッションWEBマガジン「C CHANNEL」という新事業をゼロから立ち上げた森川亮氏。彼は著書『シンプルに考える』の中で、モチベーションややる気を誰かに引き上げてもらわないと行動できないような人はプロとして失格であり、責任ある仕事や新しいものを生み出す仕事はできないと断言しています。そしてそのような人材は、組織がいい成果を生み出すために必要のない存在であるとも言っています。
経営者や管理職が社員や部下の行動を促すためにやるべきなのは、彼らの迷いを取り除いてやることです。例えば「いい商品を作る」が組織全体の目標なのに上司が売上至上主義を掲げていれば、その上司の部下は「どちらを優先すればいいのか」と悩んでしまいます。経営者や管理職の役割は、こうした迷いを取り除くためによりわかりやすいメッセージを発信し、社員や部下が迷いなく行動できるようにすることなのです。
「モチベーションを引き上げてやりたい」は傲慢
マネジャーはどうやって部下にやる気を起こさせるか。一般的に、このことばには、何かを他人にさせるというような含みがある。 だが、私にはそういうことができるとは思えない。モチベーションなるものは人間の内部から発するものだからである。
ロバート・ノイスとゴードン・ムーアが設立したインテルに、三番目の社員として入社したアンドルー・スティーヴン・グローヴ氏は著書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』の中で、モチベーションを外部からコントロールしようとするのは本質的に無理なことであり、「社員のモチベーションを引き上げてやりたい」「部下のモチベーションを引き上げられる」と思うこと自体が間違っていると指摘しています。
では経営者や管理職にできることはないのかというと、そうではありません。グローヴ氏は同著で「マネジャーにできることは、もともと動機づけのある人が活躍できる環境をつくることだけ」と書いています。モチベーションがない人のモチベーションをどうにかすることはできなくても、モチベーションのある人がやる気をなくすことなく仕事ができる環境を作る。それだけが社員や部下に対して経営者や管理職ができる唯一の働きかけなのです。この点において、森川氏とグローヴ氏はほぼ同じ見解を持っているといえるでしょう。
「モチベーション管理」は無駄であり、自己満足
喉が渇いたら馬は自ら水を探します。その時は馬は真剣に水の匂いを嗅ぎ分け道を覚えるのです。水が要らない馬を川に引っ張ることは無駄なことであり、自己満足です。
成人後に来日した外国人として、初の日本証券市場上場を果たしたソフトブレーン株式会社を創業した宋文洲氏は、社員や部下を馬に例えて「喉が渇いたら(=モチベーションがあれば)馬は自然と水を探す。喉が渇いていない(=モチベーションがない)馬を川に引っ張っても意味がないし、それは馬主が水を飲ませたいという自己満足に過ぎない」と断言しています。モチベーションは自分の中から湧き上がってくるものであって、誰かにどうにかして引き上げてもらうものでも、誰かがどうにかして引き上げてやれるものでもないのです。
公平にチャンスを与え、成果をあげた人をきちんと評価する。やる気があっても要領を得ていない人に丁寧に指導する。これがマネージャーの王道です。
やはり宋氏も、経営者や管理職がやるべきなのは、モチベーションのある人がパフォーマンスを発揮できるような環境を整えることだと言っています。
社員や部下を動かすのは「明確な目標と評価」
「モチベーションが上がる=やる気が上がる=気持ちよく働くことができる=ストレスなく働くことができる」。モチベーションはこうした文脈で語られることが多いですが、ストレスのない仕事に成長はありません。したがって経営者や管理職が社員や部下のモチベーションを管理するということは、彼らの成長を邪魔していることにもなりかねません。
確かに組織には無駄なストレスも存在します。この無駄なストレスの排除こそが経営者や管理職の役割です。ここで紹介した三人の一流経営者も指摘しているように、経営者や管理職は社員や部下が迷いなく行動するために「こうやって行動するのが正しいという基準=明確な目標と評価」を提示するべきなのです。(提供:マネジメントオンライン)
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