旅行代理店のエアトリが2018年6月に発表した「夏のボーナス」に関する調査によると「ボーナスの使い道」の1位は旅行で、その割合は41.7%であった。旅行でリフレッシュするのはもちろんいいが、それだけにならないように注意したい。特に年収850万円以上の高所得者の人は来たる2020年に「年収850万円の壁」が待ち受けているからだ。

年収850万円の壁とは?

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(画像=pathdoc/Shutterstock.com)

所得税が改正され、2020年から給与収入が850万円以上の人(子育て世帯や介護世帯は対象外)は増税になる。財政が逼迫する中「高所得者から取る分には批判を受けず、源泉徴収で取りやすいから」というのが政府の本心だろう。

給与収入がある場合、税金の計算上、給与収入から「給与所得控除」を差し引くことができる。しかし2020年からは、この「給与所得控除額」が一律10万円引き下げになる。もっとも、同時に全ての所得から控除される「基礎控除」の額が38万円から48万円に10万円増額されるので、基本的に税負担は変わらない。

では、なぜ増税になるのかというと、「給与所得控除」の上限が「1000万円超」から「850万円超」に引き下げられ、給与所得控除額も「220万円」から「195万円」に引き下げられるからだ。これによって給与収入が850万円以上の人は増税になる 。

さらに850万円という区切りは「加給年金 」、「振替加算 」、「遺族年金 」などを受けられるかの判断基準となり、配偶者等が850万円以上だと年金が支給されないというデメリットがある。つまり給与収入が850万円を超えると増税されるだけではなく、社会保障の額も減らされてしまうのだ。

年収と金融資産保有率との関係

年収が高いほど金融資産を保有している人も多いだろうと思いがちだが、必ずしもそうとは言えない。

金融広報中央委員会の平成29年「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」によると、金融資産を保有していない人の割合は、「500~750万円未満」の人が「24.3%」、「750~1000万円未満」の人が「16.7%」、「1000~1200万円未満」の人が「11.5%」となっている。年収が1000万円以上の人でも1割以上の人が「貯金0」で、「750~1000万円未満」の人と比べても、それ程大差はない 。

その原因は、人は所得の水準に応じて支出を変えるからだ。誰でも宝くじが当たったら何を買うか夢見るように、人は収入があると使うことを考える習性がある。収入が上がれば外食が増え高い服も買うようになるし、住宅についても人気のあるエリアや広い居住スペースを求めるようなる。人気のあるエリアに住むようになれば、近所も同じような水準の人が住んでいるので、良い車に乗っていたりする。そうすると車も軽自動車というわけにはいかなくなる。このように収入が上がるとそれにつれて支出も多くなるのだ。

また、日本の税制は累進課税となっているので、収入が上がるにつれて税金の額も増える仕組みになっている。サラリーマンの場合、さらに健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保険料が控除されるが、こちらも収入が上がるにつれて保険料が上がる。そのため額面の収入は上がっても手取りはそれほど増えないという実感を持っている人も多いはずだ。

結局のところ、貯蓄できるかどうかは意識の問題であって、貯蓄して残りを使うという発想にならない限り収入が上がっても貯蓄額を増やすことは難しいのだ。

今から始めたい増税への備え

このように、給与収入が850万円を超えるといろいろな不利益が生じることになる。多額の貯蓄がある場合はそれを取り崩せばよいが、貯蓄がない場合にはダメージが大きい。それでいて生活水準は下げることはなかなかできないので、生活が苦しくなってしまう。持ち家の人は住宅ローンの返済があるだろうし、小さな子どもがいる世帯の場合には教育費等の負担にも備える必要がある。もう少し先の老後のことを考えると、最悪の場合には老後破産ということもあり得るので、家計を見直し、老後設計を早く始めるなどの対策が重要になる。

今は夏のボーナスの時期なので、ボーナスの使い方から考えてみるのが良いだろう。たとえばボーナスの一部を「貯蓄」や「投資」に回すということから始めてみるのもよい。気軽に始めるなら「定期預金」でもよいが、長期的に取り組むなら税制優遇のある「つみたてNISA」や「確定拠出年金(iDeCo)」もおすすめだ。

また、資格スクールや語学学校に通いはじめるというのも1つの対策になる。というのも「働き方改革」によって、これからの時代は副業が認められるようになる。その時に自分自身のスキルを高めておけば副収入を得ることができるようになるからだ。投資というのは金融商品に限られず、自分自身に投資することも立派な投資である。

たとえば貯蓄額が「1000万円」というと貯めるには相当の時間が掛かるし、サラリーマンからすると大金だが、生活費で考えると2〜3年で無くなってしまう額である。そう考えると貯蓄や金融資産に投資するより、今の仕事のスキルを上げるための投資や、転職において求められる人材となるための投資にお金を掛ける方が重要かもしれない。併せて、働くためには健康でなければならないので、良い物を食べたり運動したりすることにお金を掛けるのも立派な投資と言える。   今回は高収入だからと安心できないという実態について見てきたが、過度に不安視する必要はない。850万円以上の収入があるということはそれなりに実力あるはずなので、その実力を維持することができればよいからだ。ただ、家計を見直し無駄遣いをやめるということは重要なので、これを機会にボーナスをどのように使うべきかよく考えてみてはいかがだろうか。(ZUU online 編集部)