少子高齢化による人手不足感が強まる中、日本でも近年、働き方改革が活発に議論されている。中でも、政府与党と経団連をはじめとする経営者団体が導入にこだわるのが「高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制、高プロ)」だ。制度のあらましやメリット、懸念される問題点などを見ていこう。

「高度プロフェッショナル制度」の概要

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(写真=Klever LeveL/Shutterstock.com)

「高度プロフェッショナル制度」は、専門職で年収の高い人を労働時間の規制の対象から外す仕組みだ。年収1,075万円以上のアナリストなどの専門職が当初の対象となる。対象となる労働者は、残業や深夜・休日労働に対する割増賃金が一切支払われなくなる。制度の適用には、本人の同意や労使委員会との決議が必要だ。

「高度プロフェッショナル制度」は、労働者を働いた時間ではなく成果で評価して賃金を支払う仕組みになっている。そのため、成果を出せば数時間で帰宅が可能になるという声もあるのだ。これまで日本では長時間労働が蔓延し、先進国の中での労働生産性の低さが指摘されてきたことから、導入に賛成する向きもある。

「高度プロフェッショナル制度」と混同されやすい制度に「裁量労働制」がある。既に導入済みの企業も多いかもしれない。裁量労働制では、労基法の下、労働時間の概念が残っているのが大きな違いだ。裁量労働制では、実労働時間ではなく、あらかじめ決められた「みなし時間」を労働時間としているため、超過分については残業代が支給される。また、裁量労働制の対象となる業務は専門業務型及び企画業務型とされており、年収要件もない。一部は重複するものの、裁量労働制のほうが広範囲にわたる。

10年越しの法案提出、採用意向は100社中わずか6社

安倍首相は、第1次政権時代(2006~2007年)から類似の制度の導入を目指している。当時は「ホワイトカラー・エグゼンプション」という名称だったが、働かせすぎにつながるとして導入が見送られた。2015年にも労働基準法改正案を提出し高プロの新設を盛り込んだが、野党の猛反発で審議入りできなかった。ついに、2018年4月6日、政府は高プロを柱とする働き方改革関連法案を国会に提出したが、過労死した方の遺族や野党からの批判が強まっている。

朝日新聞が全国の主要100社に対し、「高度プロフェッショナル制度」の導入意向について聞いたところ、採用する方針を示したのはわずか6社だった。31社は「採用するつもりはない」と答えたという。

成果が見えないまま「働かせ放題」に

政府や財界は「高い付加価値を生み出していく経済を目指す」といった理由から、「高度プロフェッショナル制度」の導入を訴えている。労働時間の柔軟性を高めることで、イノベーションを引き出すという。

ただ、日本企業の多くは職務範囲があいまいだ。外資系や海外企業では一般的に導入されているジョブ・ディスクリプション(職務記述書)がないことも多く、各人の業務の範囲と責任、賃金、成果の因果関係が見えにくい。これは専門職も同様だ。日本では長年、組織全体のパフォーマンスを向上させるため労働時間と賃金をリンクさせ、働き手のモチベーションとパフォーマンスを維持してきた。こうした企業文化の中で、労働時間と賃金を切り離すことは、成果が見えないまま「働かせ放題」につながるとの指摘もある。

「高度プロフェッショナル制度」は中小企業には関係なし?

「高度プロフェッショナル制度」の対象となる労働者は今のところ、高度専門職で一定の収入(年収1,075万円以上)がある人とされているため、直接関係ないと静観している中小企業経営者も多いかもしれない。ただ、制度に反対する意見の中には「そのうち年収要件を段階的に引き下げて適用を拡大するだろう」との見通しもある。実際、同様の制度が導入されている米国では、週455ドル(年収200万円程度)までが適用範囲だ。しかし、米国でも残業代が支払われない労働者が多すぎるとの批判が強く、制度の見直しを迫られている。

「高度プロフェッショナル制度」は労働時間の規制がゆるいため、会社側にとっては使いやすい制度だ。しかし、過労死やパワハラに対する社会の目は厳しさを増しており、昨今は若年層を中心に採用活動に苦戦する企業も多い。制度を利用していた労働者の健康問題などが発生すれば、ワークライフバランスを欠いた働かせ方をしている企業として、ブランディングにも悪影響を及ぼす恐れがあるだろう。(提供:百計ONLINE


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