先日公表された「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成29年度実績)」によると、2017年度のふるさと納税額は3,653億円であった。

ふるさと納税,3割上限ルール
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対前年増加額は809億円で十分大きな金額だが、ここ数年と比較すると、やや落ち着いた感がある。ふるさと納税に注目が集まる原動力は、豪華な返礼品にある。2016年度以前から総務省は返礼品に関する通知を幾度と出してきたが、返礼品割合の上限について言及したのは2017年度始の通知が最初である。そこで、返礼品割合は3割以下とする通知(以下、3割上限ルール)が自治体や納税者に与えた影響を確認したい。

ふるさと納税,3割上限ルール
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返礼品割合が減った自治体2割強に対して、返礼品割合が増えた自治体は3割強

まず、各自治体別に寄附金受入金額に占める返礼品の調達に係る費用の割合(以下、返礼品割合)の対前年度変化を確認した。その結果、返礼品割合が減った自治体の占率が24.5%にとどまる一方、返礼品割合が増えた自治体の占率は35.0%であった(図表2の左)。2016年度時点で返礼品割合が3割を超えていた自治体に限ると、返礼品割合が減った自治体の占率は45.4%に及ぶ(図表2の右)。返礼品割合が高い自治体ほど、返礼品割合を減らす傾向があると解釈できる。つまり、返礼品割合の高騰を抑える効果が確認できるが、その効果は限定的だ。既に返礼品割合が3割を超えている自治体でも、半数以上は返礼品割合を減らしておらず、ましてや返礼品割合を増やした自治体が21.0%もあるのだ。むしろ、3割上限ルールが、3割までの返礼品の送付に対しお墨付きを与えた効果があったのではないだろうか。全自治体で見た返礼品割合を増やした自治体占率が35.0%に対し、2016年度時点で返礼品割合が3割を超えていた自治体で返礼品割合を増やした自治体占率が21.0%と低いことは、2016年度時点で返礼品割合が3割を下回っていた自治体に限れば、返礼品割合を増やした自治体が結構多かったということである。

ふるさと納税,3割上限ルール
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ふるさと納税に係る総費用の割合は増えている

高い返礼品割合が問題視される理由は大きく2つある。1つ目は、趣旨から逸脱したふるさと納税制度の利用が進むことであり、2つ目が、返礼品を調達する為の費用がかさみ、実質的な財源が減少することである。返礼品の調達費用だけが、実質的な財源減少をもたらすわけではない。返礼品の送付に係る費用や、ふるさと納税ポータルサイトの利用料等もある。特に、ふるさと納税ポータルサイトの利用料は寄附金額11%~12%に及び、決して小額ではない。一括してポータルサイト運営会社に委託していることを理由に、返礼品調達に係る費用をそれ以外の費用として報告する自治体もあり、名目上の返礼品割合だけに着目するのは適切ではない。そこで、寄附金受入金額に占めるふるさと納税に係る全ての費用の割合(総費用割合)についても、対前年度変化を確認した。その結果、総費用割合を減らした自治体の占率は、返礼品割合を減らした自治体の占率よりも更に低い21.3%であった。また、総費用割合を増やした自治体の占率は、返礼品割合を増やした自治体の占率よりも高く46.2%に及ぶ。

ふるさと納税,3割上限ルール
(画像=ニッセイ基礎研究所)

返礼品割合の高い自治体が納税者に選ばれている

次に、返礼品割合や総費用割合の平均を確認した。各自治体の返礼品割合の単純平均は28%で、3割上限ルールを満たしているのに、受入金額で加重し、返礼品割合の平均を取ると38%に上昇する(図表4)。これは、返礼品割合が高い自治体に寄附金が集まっていることを示す。寄附金受領額上位50自治体に限ると、返礼品割合の単純平均は42%に及ぶ。総費用割合についても同様のことが言える。3割上限ルールが導入されても、返礼品割合は前年度とほとんど変わっておらず、総費用割合に至っては、増加傾向が収まる気配はない(2015年度48%、2016年度52%、2017年度55%)。

ふるさと納税,3割上限ルール
(画像=ニッセイ基礎研究所)

現時点において、3割上限ルールには過度な返礼品競争を抑制する効果はなさそうだ。むしろ、それを逸脱した自治体が寄附を集めることになった。その結果、趣旨から逸脱したふるさと納税制度の利用が収束する気配はない。また、ふるさと納税に係る費用は、未だ増加傾向にあり、実質的な財源の減少が収まる気配もない。

3割上限ルールを守らない自治体の問題か、それとも返礼割合の高い自治体に寄附する納税者の問題か。答えはどちらでもなく、そのような行動を誘発する制度の問題ではないだろうか。

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高岡和佳子(たかおか わかこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチ

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