社会や環境との共存など、企業がさまざまなステークホルダーからの信頼を得るために果たすべき役割や活動として「CSR(企業の社会的責任)」がある。このCSRと関連して、近年よく取り上げられるようになった言葉が「CSV」だ。CSVとはいったいどのような考え方で、CSRとどこが違うのだろうか。

企業としての社会的責任を果たす活動

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(写真=wk1003mike/Shutterstock.com)

日本語で「企業の社会的責任」と訳される「CSR(Corporate Social Responsibility)」。利益を追求するだけでなく、環境面(環境経営、環境に配慮した商品開発など)や社会面(人権問題、地域社会との共生、製品の安全性、従業員の福利厚生など)に配慮して、持続可能性を高める経営を行うという考え方だ。

そのための具体的な活動として企業は、環境保全活動や社会貢献活動、寄付活動に取り組んだり、業務内容が法令や定款に適合しているかをチェックする内部統制システムの構築に取り組んだりする。企業はCSR経営に力を入れることで、ステークホルダー(従業員、顧客、株主、取引先、地域住民、金融機関、政府など企業を取り巻く利害関係者)からの信頼が高まり、それが企業の発展にもつながる。

大企業、特に上場企業にとっては、CSR方針を掲げ、社会的責任に沿った活動を行い、それをホームページや広報誌などでアピールすることが重要な取り組みの一つとなっている。また自社のみならず、サプライチェーンまでを含めてCSRの取り組みを強化している例も多い。

CSRの考え方は1990年代に世に出て以来、環境問題の深刻化や企業活動のグローバル化、企業不祥事の続出などを背景に、世間に幅広く浸透してきたといえる。

社会課題をビジネスで解決する「CSV」

そのCSRを発展させたものとして取り上げられるようになった言葉が「CSV(Creating Shared Value)」だ。2011年に米国の経営学者マイケル・ポーター教授が提唱した概念で、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決し、「社会価値」と「企業価値」を両立させようとする考え方のことを指す。「社会的問題・課題解決のビジネス化」とも言われる。

従来のCSRが、環境保全や社会貢献など、事業とは関係のない活動を対象としていたのに対して、CSVは、企業の事業活動そのものが社会の課題を解決し、社会的な価値の創造を果たすべきという考え方となっている。

マイケル・ポーター教授はCSVでは、「1,製品と市場を見直す」「2,バリューチェーンの生産性を再定義する」「3,企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる」の3つのアプローチがあるとしている。

たとえば、ビールのキリンを中心とするキリングループは、CSVへの取り組みをいち早く本格化させた例として知られる。同社はCSVを経営の根幹に位置付け、グループの強みを活かして社会課題の解決に取り組んできた。具体的には、酒を扱う企業として「適正な飲酒啓発」や「ノンアルコールビールの開発」といったアルコール関連問題に取り組んできた。また、サプライチェーンの持続可能性を強化する取り組みとして、ホップ農家やワイン用ブドウ農家への支援なども行っている。

投資の世界でも企業の社会的責任は注目される

なお、企業経営においてCSRが浸透するにつれて、投資の世界でも社会的責任を果たす企業に投資する「社会的責任投資(SRI)」という考え方が注目されるようになってきた。昨今ではこれに変わる言葉として、「ESG(環境、社会、企業統治)投資」が使われるようになっている。

財務面だけでなく、ESG要素を考慮した投資を行うことで世の中がよくなり、企業が利益を得て結果的に投資家も利益が得られるという考え方になっている。ちなみに日本の年金運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、企業が公開する情報をもとにESG指数を選定し、評価が高い銘柄を組み入れる投資を行っている。株式投資をする際は、CSVやCSRなどの観点から銘柄を選んでみるのもいいだろう。(提供:百計ONLINE

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