シンカー: 1-3月期のグローバルな景気停滞から底入れの明確な兆候が見受けられる。パウエルFRB議長は「米経済の拡大が続き、段階的な利上げの継続が最善だ」と表明した。ECBは「QEは今年12月に終了し、2019年6月には金利コリダーの‘テクニカルな’調整が行われる可能性があり、その後の同9月に全体的な利上げが実施される」との見通しだ。米中の貿易紛争は経済とマーケットの重しとなっている。一方で、短期的には景気下振れの影響は大きくはないと考えられる貿易紛争のテーマが、短期的にも景気を支えると考えられる要因へのマーケットの感応度を弱くしているようだ。米国の歳出拡大や減税、堅調な雇用市場、ユーロ圏では力強い民間投資、グローバルに金融引き締めが極めて緩やかなこと、商品価格が安定に向かっていること、そして円が最後までグローバルな流動性供給のファンディング通貨として残るとみられることなどだ。最近のオーバーシュート気味のグローバルな金利低下基調から徐々に距離を置くのが望ましいと考える。
最新のSGグローバル・レポートと要約
●欧州経済(7/18):ECBプレビュー:金利ガイダンスを巡る混乱が残る
コミュニケーションや政策スタンスが金融市場に支持されている中で、ECBが来週の理事会であえて事を荒立てない理由には事欠かない。経済指標はECBの景気に対する楽観的なトーンを総じて支持しており、景気の軟調さが続くのでは、あるいは時期尚早のうちに量的緩和(QE)が終了するのではという懸念を和らげている。しかし、直近の金利ガイダンスが実際に何を意味しているのかについて解釈が混乱しており、初回利上げ時期への疑問が出ると考えられる。来週の理事会では、再投資方針と様々な実行方法が議論されるとも弊社は見込んでいる。
イタリア情勢、トランプ大統領の動きやブレグジット関連の推移が弊社経済見通しの基本シナリオから完全に外れなければ(これは重要な仮定だが)、ECBは来年初めに政策金利について議論すると弊社はみている。弊社は「QEは今年12月に終了する。2019年6月には金利コリダーの‘テクニカルな'調整が行われる可能性があり、その後の同9月に全体的な利上げが実施される」という見方を変えていない。より明確にするために付け加えると、弊社は現時点では、2019年6月に中銀預金金利が15BP引上げられて(引上げ幅の従来見込みは20BP)、他の政策金利は変更無しとみている。QEが終わると、マイナスの中銀預金金利のメリットや、何が信用の伸びを最も強く下支えするのかを議論し易くなるだろう。初回利上げ(およびドラギ総裁の任期終了後)に考えられる金利パスを議論したり、その見方(結果)をコミュニケートすることも必要になるだろう。
●外国債券(7/17):タームプレミアム、汝は何処へ?
米国債券市場を取り巻く状況は、景気サイクル終盤の謎に包まれる機が熟してきたように見える。イールドカーブのバックエンドは、3%前後と想定される中立金利やリスク環境の拡散により、今後も抑制された状態が続いていく見通しだ。一方、フロントエンドは、たとえ米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ予想が「2.75~3.00%で打ち止め」のシナリオに縛られ続けたとしても、FRBの利上げの経路を機械的に織り込んでいく。ユーロ圏のイールドカーブについては、タームプレミアムのある程度の中期的な拡大を論じるのは比較的簡単だが、当面は政治的な不透明感が金利に重くのしかかり続けるだろう。タームプレミアムが上昇していくには、弊社が想定する中心シナリオに沿ってユーロ圏のマクロ経済指標が2018年後半に大きく改善し、政治的な不透明感およびリスクを相殺することが条件となる。経済データに関しては底入れの明確な兆候が見受けられるため、我々は引き続き、最近のオーバーシュート気味の金利低下基調から徐々に距離を置くのが望ましいと考えている。
●アセットアロケーション(7/18):貿易戦争と欧州政治が出会う時: プロテクションのための9つの投資アイデア
貿易戦争とユーロ圏の政治的複雑さ(POLITICAL COMPLEXITY)という現在の市場における2つの懸念材料から欧州資産ポートフォリオを保護する方法を模索する。確かに、どちらのテーマも「目新しいニュース」ではないが、いずれもまだ何ヵ月も話題に上り、市場を動かし続ける可能性がある。従って、本稿では、最も可能性が高そうなシナリオ(弊社はそれを「リスク特定(RISK IDENTIFICATION)」と呼んでいる)と、実際的な投資ヘッジのアイデアに焦点を当てる。この目的のために、弊社のアナリスト、ストラテジスト、およびエコノミストに現物とデリバティブに関する投資アイデアを持ち寄るよう要請した。 その結果、次の3つのカテゴリーに分類される9つの投資アイデアが集まった:(1)政治リスクをヘッジするためのアイデア、(2)貿易戦争をヘッジするためのアイデア、(3)その両方のリスクからポートフォリオを守るためのアイデア(「一石二鳥」となり得るいくつかのトレード)。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司