シンカー: 米連邦準備制度理事会(FRB)が極めて積極的な政策運営を手掛けると同時に、世界各地で政府が機能不全状態に陥っているという見方が一部に広がっている。投資家はどのように行動すべきか今ひとつ確信が持てず、様子を見ようという向きが多い。EUでは難民流入危機はが一部の国でより困難な課題となっており、政治問題として浮上している。しかし、6月の欧州首脳会議では、非正規移民の削減、難民定住管理の改善を目的に人口流入問題で合意し、シェンゲン協定も再確認した。また、移民に関する合意に加え、EU首脳は、銀行同盟完成や欧州安定メカニズム(ESM)の改革関税に向けて進むこと、ユーロ圏共通財政へとシンボリックではあるが歴史的な一歩を踏み出すことを考慮することで合意した。来年5月のEU議会選挙の前に、移民問題での合意の深化、ユーロ圏共通財政に向けた進展、銀行同盟の完成がそれぞれ実現する可能性があり、欧州の政治不透明感が後退していく可能性があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●欧州経済(7/24):EU財政ルールに関して、何が控えているのか

イタリアの財政スタンスに関するニュースは、最初は非常に慌ただしかったが、最近は安心できる内容となっている。特に財務相はEUのルールを破らないと約束している。 市場や政治家はGDP比3%という財政赤字ルールに注目していたが、これはEU財政ルールの最低条件である。実際には他の項目も順守しており(中期目標パス、支出基準、債務ルール)、財政引締めが最低GDP比0.6%相当になると示唆している。その上にイタリアは、構造改革、投資、景気変動により(財政目標に)柔軟性が付与される条件には該当しない、とみられる。 秋に2019年予算が発表されると、イタリア政府の立ち位置が明らかとなり、歓迎されることになるだろう。最大でGDP比5%の大規模な景気刺激策(複数年にまたがる可能性もある)か、(過去数年と同じく)財政目標からの小幅逸脱か、どちらかの選択になると見込まれる。 そして、政府が前者を選ぶリスクは依然として高いと弊社は考えている。そのときは、欧州委員会もイタリアに強い圧力をかける以外の選択肢は無くなり、場合によっては制裁を科すことになる。一方、市場のストレスもさらに強くなる。穏健な(後者の)シナリオでは、EUとの緊張は比較的弱くなるが、イタリアの債務残高が高水準であり今後数年で縮小する見込みも低いことを、EUと市場は引続き懸念することになるだろう。

●欧州経済(7/23):統合は、緩やかだが確実に前進

大きな困難にもかかわらず、過去数週間で、EU(欧州連合)統合のプロセスは実質的にもある程度進展した。フランスとドイツはメーゼベルク声明を発表、6月21日にはユーログループ(ユーロ圏財務相会議)、29日には欧州首脳会議が開催された。移民に関する合意に加え、EU首脳は、銀行同盟完成やESM(欧州安定メカニズム)の改革関税に向けて(非常に緩やかではあるが)進むこと、およびユーロ圏共通財政へ、シンボリックではあるが歴史的な一歩を踏み出す方向で考慮することで合意した。こうしたトピックは、12月の欧州首脳会議で再び議題になるだろう。来年5月のEU議会選挙の前に、移民問題での合意の深化、ユーロ圏共通財政に向けた進展、銀行同盟の完成がそれぞれ実現する可能性もあると、弊社ではみている。しかし後の2点は、政治的協定の域をほとんど出ないで(ロードマップに留まり)、詳細では合意しないかも知れない。

●欧州経済(7/20):人口流入は減少、難民問題の政治的合意も視野に入る

ドイツのメルケル首相が語ったように「(EUが)人口流入問題に共同して対応できなければ、EUの根幹が危機にさらされる」。ただ現在は、難民申請者の流入は減っている。認可率が50%近いことを考えると、現時点では各年の難民流入がEU人口の0.06%に相当、差引ベース(ネット)の人口流入合計が同じく0.3%となっている。これは(全体的には)EUが吸収可能な水準で、中期的にはEUのGDPを0.2%程度押し上げるとも見込まれる。 とはいえ難民流入危機は、一部の国(イタリア、ギリシャ、ドイツ、オーストリア)ではより困難な課題となっており、政治問題として浮上している。6月の欧州首脳会議では、非正規移民の削減、難民定住管理の改善を目的に人口流入問題で合意して、シェンゲン協定も再確認された。これは長い道のりの第1歩だが、2019年5月の欧州議会選に先立つ人口流入問題改革の深化(EU加盟国に難民を割り振る、いわゆるダブリン規制も含む)も可能だと、弊社は考えている(可能性は80%とみる)。またこれにより、EU懐疑派政党の支持は弱まるだろう。

●外国債券(7/23):強さの中の不安

米連邦準備制度理事会(FRB)が極めて積極的な政策運営を手掛けると同時に、世界各地で政府が機能不全状態に陥っているという見方が一部に広がっている。そうした中で、長期的な不安、すなわち、貿易戦争がエスカレートするのではないかという恐怖が、引き続き市場を支配している。しかし、米国の財政赤字が拡大する中で、我々は未踏の領域に突入している。今回の米景気拡大局面は史上最長に達しようとしている。一方、債券の追加発行は根強い需要を満たす公算が大きい。世界的な低金利が投資家をデュレーション長期化へと突き動かし、過大な信用リスクを負わせている。

債券利回りにこうした相反する力が作用しているため、投資家はどのように行動すべきか今ひとつ確信が持てず、しばらくはベンチマークに近い運用で様子を見ようという向きが多い。我々もこの夏の強気ムードにあらがうつもりはない。確かに、利回りがこれ以上大きく低下する可能性は考えづらく、債券はインフレの衝撃に対して脆弱な状態にあるが、マクロ経済的なリスクが顕在化してくるのはもう少し先だと考えている。それまでの間は、資金の流れに任せて進むことにしよう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司