「人生100年時代」の到来に向けて、いつまで働くかを自分で決める時代が来ています。

この「人生100年時代」はリンダ・グラットン、アンドリュー・スコット両氏が著作『LIFE SHIFT』(日本版:東洋経済新報社)で主張したことで広く知られるようになった考え方です。人が100年を健康に生きる時代が来ると、人生のモデルは大きく変容する、すなわち従来の「教育→仕事→リタイア」という3つの一方通行のライフステージから、個人の状況に応じてそれらのステージを行ったり来たりするようになるというものです。

アーリーリタイアは、日本語で早期退職をさす言葉です。いわゆる「定年」するタイミングと考えられる60代を待たずにバリバリと働くことをやめ、より自分らしい生き方を始めることをさします。50代はもちろん、30代や40代といった若い世代でもアーリーリタイアを望む人は増えているようです。

アーリーリタイアの最大の魅力は、若くまだ体力のあるうちにやってみたかったことにチャレンジできる点です。しかし、資金が十分になったときにいざアーリーリタイアしても、うまくいかないケースも多いようです。失敗しがちなパターンについて見ていきましょう。

ありがちな失敗その1 目的を決めずにアーリーリタイアしてしまう

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(写真=Sansoen Saengsakaorat/Shutterstock.com)

医師のように社会的なステータスも高く、やりがいのある仕事に就いている人でも、「働かずに暮らしたい」と夢見ることはあるのではないでしょうか。

そう考えるうちに「アーリーリタイア」自体が目的になってしまうことがあります。具体的に「これがやりたい(からアーリーリタイアする)」と決めずに実行してしまい、「突然生じたあり余った時間をどう過ごすべきか分からない」「社会とのつながりや人間関係がなくなり、人生の張り合いがなくなる」といった状態に陥ることがあるようです。

その結果、せっかくアーリーリタイアしたのにまた仕事を再開するケースも少なくありません。原因は「何のためにアーリーリタイアするのか」という目的をきちんと整理できていないことにあります。サラリーマンの転職市場では「逃げの転職は失敗する」と言われますが、これはアーリーリタイアでも同じことと考えられます。

具体的にやりたいことは人それぞれでしょう。「世界各地を旅行したい」「海外に移住して趣味のゴルフをやりたい」「大学に戻って研究をしたい」など、アーリーリタイアを成功させる人には、明確な目的があります。

アーリーリタイアするのであれば、その目的を考えることは欠かせないことです。それを実現するためにはリタイアしなければいけないのか?と自問することが必要です。

ありがちな失敗その2 資金が不足する

資金を十分に蓄えたつもりだったのに不足してしまうこともあるようです。その原因は大きくは次の2種類に分けられます。

(1) そもそも試算が不十分だった
(2) 試算は十分だったが、予期しない出費が発生した

(1)は専門家に相談せず、「預貯金が◯◯円あれば大丈夫」と思い切ってアーリーリタイアしてしまったパターン。医師のみなさんは仕事が忙しく、お金について時間をかけて検討できていない場合もあるのではないでしょうか。十分に検討しないままアーリーリタイアし、現役時代の生活水準を維持しながら、あり余った時間で趣味にお金を投じ続けた結果、貯金が想定よりも早く目減りする場合があります。

アーリーリタイアのために必要な資金がどれぐらいかは、不動産投資や株などの仕事以外での定期収入があるか、結婚や子供の有無、リタイア後の生活レベルなどで人により異なります。アーリーリタイアを視野に入れ始めた時点から、資産運用の専門家に相談して試算し、計画的に準備を行うことが必要です。

(2)の一例として、ある男性をご紹介しましょう。

筆者の知人は、温暖な気候で物価も安い東南アジアのある国に憧れ、アーリーリタイア後に妻とともに夫婦でその国にマンションを買って移住しました。しかし実際に住んでみると、友人はおらず言葉も満足に通じないため次第に孤独を感じるようになり、1年後には男性は体調を崩してしまいました。しばらくは滞在しながら治療を続けたものの、予定外の海外での治療費が痛手となり、これ以上の海外在住は困難と判断。最終的に住まいを売却し、日本に戻って慎ましい生活を送ることを決めました。

アーリーリタイアを成功させるには、万が一の場合に備えた資産を計画的に準備することや、変化に柔軟に素早く対応するために、いつでも相談できる相手を作っておくことが必要なようです。

ありがちな失敗その3 事業承継がうまくいかない

開業医の方の場合、アーリーリタイアした後に自身の経営する病院やクリニックの事業を承継するのか、廃業するのかの選択は避けられません。承継を検討する場合、中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、承継先は「(1)親族内承継、(2)役員・従業員承継、(3)第社外への引継ぎ(M&A等)」の3類型に分けられるとされています。

(1)でのよくある失敗は、親族内での話し合いが足りないことに起因する親族間の財産分配に関するトラブルや、後継者への教育不足による承継後の経営悪化です。特に今まで経営に全く携わっていなかった親族を経営者とすることで、病院・クリニックの経営が存続できない事態に陥る恐れがあります。

(2)の場合、今まで経営に近い役割を担ってきた部下、いわゆるナンバー2などを後継者にすることが多いでしょう。しかし勤務医である候補者を説得し、病院経営を行う覚悟を持たせるのには時間がかかる場合があります。親族外への承継に対しては、親族から理解が得られずトラブルに発展する場合もあります。

(3)のM&Aの場合には、最適なマッチング候補を見つけるだけでも「数ヵ月から数年かかる」といわれています。(1)や(2)の場合も同様ですが、内外装や機器のメンテナンス、従業員教育などを怠っていると、クリニック・病院の事業としての価値が低く評価され、後継者がいつまで経っても見つからず、リタイアしたくてもできない場合があります。

後継者が見つからず廃業を選ぶ場合にも診療録の保管や引き継ぎなど、考慮すべきことはたくさんあります。事業承継の専門家に相談しながら、円滑な引き継ぎ、もしくは事業のクローズなどを目指したほうがいいでしょう。

親族や後継者、従業員、患者など自分の人生には多くの関係者がいます。こうした関係者の理解を得てアーリーリタイアを無事に達成するには、専門家の手助けを借りながら計画的に準備する必要があります。(中嶋亜美・中小企業診断士 / d.folio

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