中小企業においても、新規事業を立ち上げるために別会社を作ったり、他の会社を買収したりするなどして、グループ会社を有するケースはめずらしくない。そのようなグループ会社を売ったり、買ったりした場合、決算書にはどのように表れてくるのだろうか。今回は企業を売買したときの会計処理を確認してみたい。

アンドビズ
(画像=PIXTA)

売り手の会計処理

会計基準では、株式などを含む有価証券は「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式および関連会社株式」「その他有価証券」の4つに分類するのが一般的だ。

通常の事業会社が株式を保有するケースでいえば、「子会社株式および関連会社株式」か「その他有価証券」に分類されることがほとんどである。たとえば、冒頭で触れたグループ会社を保有するような場合は「子会社株式および関連会社株式」、証券会社に法人口座を開いて上場会社株式を購入するような場合は「その他有価証券」と考えればよい。

子会社の株式を売却する際には、決算上、売却損益を計上することになる。具体的には、売却価額が帳簿価額(つまり買ったときの値段など)を上回った場合には「子会社株式売却益」が、売却価額が帳簿価額を下回った場合には「子会社株式売却損」が計上される。決算書のうち収益や費用を集計する損益計算書では、子会社株式売却益は「特別利益」として、子会社株式売却損は「特別損失」として、それぞれ計上されることになる。

売り手における税務上の取り扱いはどうなる?

税務上の処理も、通常は会計上の処理と同様になるが、売却価額と時価が異なる場合には注意を要する。というのも、税務上は実際の売却価額にかかわらず時価で売却したとみなされ、取得価額と時価との差額が譲渡益として法人税の課税対象になるからだ。

仮に売却価額が時価を上回った場合、その差額は買い手から経済的利益を与えられたものと取り扱われ、「受贈益」として法人税の課税対象となる。逆に、売却価額が時価を下回った場合、時価と売却価額との差額は、買い手に対する「寄付金」として取り扱われ、一部しか損金に算入できない可能性がある。

買い手の会計処理

次に、企業の売買を買い手の側から考えてみよう。上述のとおり、企業を取得した側では対象企業の株式を子会社株式などの科目で決算書に計上することになる。その際の取得価額には株式取得に至るまでの付随費用も含められる。

M&Aにより株式を取得する場合には、ファイナンシャルアドバイザーに支払った報酬やデューデリジェンス費用なども取得価額に含まれることが考えられるため、その点は注意されたい。

買い手における税務上の取り扱いはどうなる?

買い手の方でも、税務上は実際の購入価額にかかわらず時価で購入したとみなされ、時価をもって取得価額とされる。つまり、売却の場合と同様、購入価額と時価が異なる場合には注意が必要となる。

たとえば、購入価額が時価を上回った場合、購入価額と時価の差額が売り手への「寄付金」として取り扱われ、一部しか損金算入できない可能性がある。逆に、購入価額が時価を下回った場合には、時価と購入価額との差額は「受贈益」として法人税の課税対象となる可能性がある。

「のれん」とは?

大手企業が買収などを行った際に「のれん」が発生するということをニュースなどで見聞きしたことがあるかもしれない。のれんが計上されるのは、原則として、グループ全体の決算書を集約して作成される連結財務諸表での話だ。

のれんは、取得対価が、受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合の超過額のことである。つまり、帳簿上の価額より「高い買い物」をした場合にのれんが計上される。

のれんは、会社の信用力やブランド力、ノウハウなどといった目に見えない収益力を表していると言われる。これらの超過収益力や企業結合のシナジー効果などの総称がのれんになっているという訳だ。

のれんの会計処理

会計上、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果が及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却するとされている。

なお、取得対価が帳簿上の純資産より低かった場合には「負ののれん」が生じることもある。負ののれんは、一定の条件のもと利益として処理することになる。

税務上は、個別の決算書を基礎に税額計算を行うため、連結財務諸表で生じたのれんは特に影響を与えない。

以上のように、中小企業の場合、のれんの処理が問題となることはないが、株式の譲渡価額が時価と乖離している場合には課税上の問題が生じることもある。売買の際には専門家のアドバイスも得ながら検討することが適切な対応といえるだろう。