シンカー: 貿易紛争への懸念は燻り続けている。各国の中央銀行も景気の先行きリスクとして指摘している。一方で、貿易紛争の源となっているポピュリズム的な政策は、財政緩和などとして、足元の景気を押し上げている。各国の中央銀行は堅調な景気に沿う形で、引き締め方向の金融政策を続けている。一方で、貿易紛争への懸念が燻れば、足元の景気の堅調さに対して、利上げのペースはより緩やかにならざるを得ない。貿易紛争が実際にグローバルな貿易縮小としてファンダメンタルズに大きな影響を及ぼすリスクがあるのはまだ1・2年後であるとみられる。一方、緩やかな利上げと財政緩和は足元の景気の堅調さにつながり、株式市場を支える形になっている可能性がある。景気の強さが、貿易紛争の懸念を差し置いても、利上げペースの加速につながらない限り、株式市場はしばらく堅調であるとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(7/31):GDP…Q2は強かったが、今後の見通しは控えめ

2018年第2四半期(Q2)の米国GDPは力強かったが、純輸出に押上げられた結果で今後の再現は考えづらい。年後半は個人消費と在庫投資の伸びが上方バイアス要因だ。だが2018年通年のGDP成長率は、3.0%を上回るより下回る可能性の方が高いと、弊社は見込んでいる。

●米国経済(7/30):FOMCプレビュー…ほぼ変化なく通過しそう

7月31日と8月1日に実施される8月 FOMCは、退屈なものになりそうだ。FFレートの誘導目標は現行の1.75%-2.00%で据置かれる見込みで、記者会見や経済見通しの更新も無い。声明の修正もわずかになると、弊社では見込んでいる(特に、6月に声明が全面的に変更されたため)。声明により、さらに少しづつ利上げを進めることが(現時点では)適切、という考え方が裏付けられるだろう。

●米国経済(7/25):生産過程で投入コストが上昇…CPIへの影響は

コモディティ価格や輸送コストの上昇と関税引上げで、消費者物価上昇のおそれが出ている。今のところCPI(消費者物価指数)への波及効果は限定的だが、これが変わる可能性もある。投入価格の上昇圧力(関税、中間財も含む)が強まることで、生産コストがさらに上昇することも考えられる。CPIの上振れリスクも考えると、生産パイプライン全体にかかる圧力に注目することが、これまでにないほど重要になるだろう。弊社は本レポートで、生産の各段階を通じた投入コストを示す、PPI(生産者物価指数)の一部分について議論する。これが、生産者、最終的には消費者が直面するコスト上昇圧力に光を当てる一助になると考えている。

●欧州経済(7/27):ECB理事会:見通しや政策メッセージの変更はなかった

フランクフルトほか各地で気温が急上昇する中、ECBのドラギ総裁が26日の記者会見で、ECBの金融政策を長々と議論したくはないと思っても、仕方のないことだったかも知れない。弊社が理解した要点は以下の通りだ。1) 経済指標は総じてECBの見込み通り推移しており、6月の決定通りに進むことは変わらない、2)ドラギ総裁は、翻訳の問題や金利ガイダンスの意味に入ろうとはしなかった。「2019年夏までは(金利を据え置く)」という意味になる英語版が正当で、市場の理解も理事会と(利上げは「2019年夏の後」で)完全に一致している、3) 再投資方針について議論はされなかった(議論がいつ行われる可能性があるか、も提示されなかった)、そして4) 貿易戦争で生じる可能性がある意味合いについての追加分析はなかった。またドラギ総裁は、直近の米国とEUの話合いの内容を評価するのは時期尚早と考えている、というものである。このため弊社では、ECB理事会(のメンバー)や読者の皆様がゆっくりと夏休みをお過ごしになり、9月にこの問題に再び戻られることを願っている。

●英国経済(7/30):BoEプレビュー…利上げを実施すべき時

8月2日に実施されるBOEの次回MPC(金融政策委員会)会合で、政策金利が25BP引上げられて0.75%になると、現在の市場はほぼ完全に織り込んでいる。MPCによると、5月のインフレ報告発表後、実体経済は非常に順調で、GDP成長率も修正後の第1四半期(Q1)の前期比0.2%に続き、Q2は同0.4%のペースで推移している。これでMPCには、待望の利上げを正当化する材料が与えられた。このほか、いま動く(8月に利上げを実施する)インセンティブには、秋にはブレグジットを巡る動向が強い逆風となり、不確実性が増し実体経済が落着かなくなる可能性があることが挙げられる。弊社でも、8月の利上げが満場一致で決定されるとはみていない。カンリフ、ラムスデンの両氏は金利据置きに票を投じ、7対2での利上げ決定になると見込まれる。他に、BOEがインフレ報告の中で中立金利の推定値を発表するという報道も出ている。弊社では、名目ベースで高くても2.5%、それより大幅に低い可能性もあるとみている。また、これが短期的に政策金利の十分なガイダンスになるかを疑問視している。

●外国債券(7/30):行間を読んで真意を探る

中央銀行が金融政策の長い「巻き戻し」の道をたどるなか、債券利回りは上昇に向かうはずであると我々は主張してきた。金融政策が引き締まることに疑問を差しはさむ余地はまったくない。むしろ、問題は次の二つである。金融引き締めはいつ実施されるのか? そして、それはどの程度の規模になるのだろうか? 中央銀行の漸進主義や先延ばしを格好の理由として、我々は債券利回りのレンジ取引やキャリー・トレードを選好してきた。しかし、市場は折に触れて中央銀行のレトリックに転換点を見いだそうとする。先週の日本国債の動きはフォールス・アラーム(誤った警報)かもしれないが、市場の視線は週明けの日銀(BOJ)の金融政策決定会合に注がれるだろう。欧州中央銀行(ECB)の政策理事会は、例年この時期の会合に特有の傾向として、市場に波風を立てるような決定を下さなかった。一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)や英イングランド銀行(BOE)が、世界全体および国内のテールリスクに対してどのような評価を下すかは、投資家にとって有用な道しるべとなるかもしれない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司