シンカー:欧米の中央銀行関係者の堅調な景気拡大を背景とした政策正常化・引き締めスタンスは引き続き強いようだ。FRBは9月の利上げが確実視される中、ECBやBOEも今後、更に政策の正常化・引き締めを行うフォワードガイダンスを打ち出してきている。一方で、急激な政策の正常化・引き締めは金融市場に望ましくない副作用を実質経済に与えるリスクがある。また、現在の景気サイクルが成熟するにつれ、次の景気後退局面は着実に近づいてきていることも意識され始めている。今後の政治イベントや政策導入次第では、金融政策が再度緩和的になる必要性もでてくるだろう。グローバルに中央銀行が現在の政策スタンスをどれだけ維持し、ガイダンスどおりに政策変更を進められるかが注目だろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

FOMCは9月に今年後一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。8月のFOMC後のFRBのメッセージを要約すると「景気の足取りは力強い」「FOMCは基本的に2つの責務を果たしている」「景気動向から、追加利上げを徐々に進めることが必要になるだろう」となるだろう。また経済活動の評価が少し引上げられたことで、9月の25bps利上げ実施がほぼ固まった。

9月のFOMCまでの注目は8月23-25日のジャクソンホールでの「市場構造の変化と金融政策へのインプリケーション」と題した年次シンポジウムだろう。FRBはパウエル議長が出席するかどうかをまだ発表されていないが、トピックを考えると、同議長は出席する可能性は高いだろう。この年次シンポジウムは今後の金融政策の先行きのシグナルとして使われていた面もある。このため、パウエル議長が講演を行うなら、9月利上げ、あるいはIOER(超過準備預金金利)の追加調整(こちらは8月22日発表の8月FOMC議事要旨に含まれるだろう)についての手掛かりを探る必要があるだろう。

ECBは2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBは、初回利上げ時期のガイダンスを「2019年中頃の後」(「2019年夏の間は」金利を変更しない)に変えることに、満場一致で合意した。意図するしないにかかわらず、利上げ開始時期が不確実なこととの共存が、市場には必要となろう。量的緩和(QE)が終了すれば、来年初めに(利上げを巡る)議論が再び白熱しても驚きではない。ECBは2019年6月に「中銀預金金利だけが15bp引上げ」と「テクニカルな」調整を行うだろう。その後、2019年9月には全ての種類の政策金利が25bp引上げられ、中銀預金金利は従来と同じゼロに達する可能性があるだろう。

7月の展望レポートで日銀は物価の予測を下方修正し、2%の物価目標への到達は更に遅れる見通しとなった。緩和政策の長期化による副作用への懸念が大きくなるリスクにマーケットは敏感となるため、日銀は「0%程度」の誘導目標から長期金利が離れるバンドの若干の拡大を許容することを示した。ただ、バンド拡大の容認はあくまで、グローバルな金利上昇や日本の物価上昇についていく形のみの許容という形となり、それ以外の緩和の早期出口の思惑などでの上昇には指値オペなどを使い抑制するという姿勢は維持された。日銀が、「0%程度」の長期金利の誘導目標自体を引き上げでることができるための最も重要な必要条件は、展望レポートのでの経済と物価のリスク判断が「下振れリスクの方が大きい」という下方から中立化されることであるだろう。日銀は、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」というフォワードガイダンスを新たに導入したことなどから、今回の日銀の措置は、早期の緩和の出口ではなく、長期化への備えであると考えられ、日銀の政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換したようだ。日銀の長期金利の誘導目標自体の引き上げは消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。

PBoCは景気減速を避けながらも、金融規制の見直しを続けていくだろう。RRR(預金準備率)の50bpの追加引き下げを2回行うなど、景気動向に注視しながら金融規制改革を進めていくなか、金融システミック・リスクの回避のために複数のツールを使うだろう。BOEは8月に利上げに踏み切り、次回の利上げは2019年2月だろう。ただ、その後は2020年末まで利上げが停止される可能性がある。

米国(Fed)

FFレート(予想:2018年はあと1回の利上げ、2019年には2回の利上げを予想):

FOMCは9月に今年後一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。8月のFOMC後のFRBのメッセージを要約すると「景気の足取りは力強い」「FOMCは基本的に2つの責務を果たしている」「景気動向から、追加利上げを徐々に進めることが必要になるだろう」となるだろう。また経済活動の評価が少し引上げられたことで、9月の25bps利上げ実施がほぼ固まった。

8月23-25日にはジャクソンホールで「市場構造の変化と金融政策へのインプリケーション」と題した年次シンポジウムが開催される。FRBはパウエル議長が出席するかどうかをまだ発表していないが、トピックを考えると、同議長は出席する可能性は高いだろう。。この年次シンポジウムは今後の金融政策の先行きのシグナルとして使われていた面もある。このため、パウエル議長が講演を行うなら、9月利上げ、あるいはIOER(超過準備預金金利)の追加調整(こちらは8月22日発表の8月FOMC議事要旨に含まれるだろう)についての手掛かりを探る必要があるだろう。

6月のFOMC声明ではフォワードガイダンスも含まれており、見たところ、今後の経済や利上げに対して従来よりも強い自信を示していた。今後の金利パスは3月に比べてややタカ派的になったようだ。FFレートのFOMC参加者予測の中間値は、2018年(の年末時点)が2.1%から2.4%に上昇して、年内にあと2回の追加利上げがあると示している。これにより、2018年中の合計利上げ回数の予測が、3月時点の3回から4回に増えたことになる。また2019年末時点の予測の中間値も2.9%から3.1%に上昇したが、これが示す2019年中の利上げ回数は従来と同じ3回だ。だが2020年末時点の予測中間値は3.4%で変わっておらず、2020年中の利上げ回数が(従来の2回ではなく)わずか1回だと示している。

ただ、2018年と2019年のドット(FOMC参加者の予測)が、1個下方に動くだけで、3月時点のドットチャートが示していた金利パスと全く同じになる。現段階で今後の金利パスを強く確信することはできず、ドットチャートはFOMC内で見方が非常に分かれていることを示している。FRB高官達は、Q2の実質GDP成長率が4.1%、コアインフレ率が2.0%、雇用者数の増加も2015年以降で最大、という状況のなか、貿易を巡る緊張、米国外での景気軟化、6月FOMC以降のイールドカーブフラット化に対する懸念も強めている可能性がある。SGの予想は(早ければ)2019年遅くに米国がリセッション入りすると見込んでおり、これによりFRB利上げ回数の見込みは限定される。ただ、インフレ加速懸念により、2018年遅くと2019年早くに追加利上げ実施の余地があるだろう。

FOMCメンバー(予想:過度にタカ派になることは無いだろう):

4月中旬にはトランプ大統領が、リチャード・クラリダ氏をFRB副議長に、ミシェル・バウマン氏をFRBのコミュニティバンク担当理事に各々任命しており、上院の承認待ちとなっている。2017年11月にFRB理事に任命されたマービン・グッドフレンド氏はまだ承認されておらず、承認される可能性小さくなった可能性があり。

ウイリアム・ダドリーニューヨーク連銀総裁の後任にはサンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ総裁が任命された。同氏の今までの発言から推測すると、FOMCでは中立的または若干タカ派的なスタンスを取る可能性が高いだろう。Fedのエコノミスト出身である同氏はFOMCの常任委員になることで、今後の利上げ局面で大きな役割を果たす可能性がある。注目は今後のFOMCの政策金利が見通し通り引き上げられると、同氏が提唱してきた実質均衡金利モデルが示す水準を大幅に上回り金融政策の大幅な引き締めを意味することをどう説明するかだろう。サンフランシスコ連銀総裁の後任は発表されていない。

FOMCのメンバー構成は、2018年にはタカ派色が強まった。非常にハト派だった地区連銀総裁(シカゴ連銀エバンス総裁、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁)が、よりタカ派的な地区連銀総裁(クリーブランド連銀メスター総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁)に交代した。トランプ大統領が今後更に比較的タカ派的なFRB理事を指名しても、政策スタンスへの具体化は時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高いため、FRBの政策が過度にタカ派的になる可能性は低いだろう。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和政策(予想:2018年末に量的緩和終了。2019年6月には「テクニカルな」利上げを行い、9月にすべての政策金利の利上げに踏み切るだろう。):

ECBは6月14日の政策会合で、2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBのバランスシートの拡大は非常に急速で、2017年末には、バランスシート規模がGDP比40%に達している。ドラギ総裁がこの(再投資に関する)方針は非常に重要だと6月に述べたことで早期発表への期待が過度に高まった可能性がある。しかし、再投資の満期、行うタイミング、資産クラスの変更は主にテクニカルなもので、各国への影響はほとんど無いとだろう。今秋にユーロ圏長期債利回りの上昇がさらに目立ち始めるなら、比較的長期債への再投資が可能だと外部に伝えることへの興味が、ECBでは深まるかも知れない。

初回利上げ時期を15カ月間も示しても情報としての価値はほとんど無く、過度に意欲的な策だとみている。それよりも期待できるのは、QE終了で、マイナスの中銀預金金利の「調整」を考慮する機会が得られることだ。政治的な不確実性の高まりや、ユーロ圏の景気軟調が2018年Q2まで長引くことに対処する必要があるだろう。

政策金利(予想:2019年中に2回の利上げを実施):

意図するしないにかかわらず、利上げ開始時期が不確実なこととの共存が、市場には必要となろう。量的緩和(QE)が終了すれば、来年初めに(利上げを巡る)議論が再び白熱しても驚きではない。ECB理事の一部はマイナス金利を快く思っておらず、「早期利上げ」と「金利の道筋のフラット化(利上げは緩やかに進める)」の間で妥協が成立すれば、満足するとみられる。いずれにせよ、来年の初回利上げが近づくにつれ、ECBが考える金利パス(金利の道筋)の見通しがますます興味深くなるだろう。

ECBは2019年6月に「中銀預金金利だけが15bp引上げ」と「テクニカルな」調整を行うだろう。その後、2019年9月には全ての種類の政策金利が25bp引上げられ、中銀預金金利は従来と同じゼロに達する可能性があるだろう。ただ、その後は、米国のリセッションがが始まると見ているため、2019年遅くの追加利上げは無いと見込んでいる。想定している2019年後半の米国リセッション入りの後、ECBが小幅利下げを実施し、2020年3月には預金金利がマイナス0.15%になると見込んでいる。その後、2020年後半に利上げサイクルが再開するにつれて、中銀預金金利、主要リファイナンシング・オペ金利、貸出金利のコリダーは、最低の50bpに戻ると見込んでいる。

日本(日銀)

誘導目標(予想:政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換。次の政策変更は2020年中頃に長期金利の誘導目標を引き上げ。):

7月の展望レポートで日銀は物価の予測を「経済・雇用情勢に比べて弱めの動きが続いている」との判断と整合的な水準まで大きく下方修正し、2%の物価目標への到達は更に遅れる見通しとなった。そうなると累積的な副作用への懸念が大きくなるリスクにマーケットは敏感となるため、日銀は「0%程度」の誘導目標から長期金利が離れるバンドの若干の拡大を許容することを示した。ただ、バンド拡大の容認はあくまで、グローバルな金利上昇や日本の物価上昇についていく形のみの許容という形となり、それ以外の緩和の早期出口の思惑などでの上昇には指値オペなどを使い抑制するという姿勢は維持された。

日銀は成長率について「2019年度以降は下振れリスクの方が大きい」とし、消費税率引き上げのリスクが大きいと意識している。日銀が、「0%程度」の長期金利の誘導目標自体を引き上げでることができるための最も重要な必要条件は、展望レポートのでの経済と物価のリスク判断が「下振れリスクの方が大きい」という下方から中立化されることであるだろう。日銀は、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」というフォワードガイダンスを新たに導入した。今回の日銀の措置は、早期の緩和の出口ではなく、長期化への備えであると考えられ、日銀の政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換したとみられる。日銀の長期金利の誘導目標自体の引き上げは消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。

マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2021年となろう。

中国(PBOC)

銀行間金利(予想:RRRの50bpの追加引き下げを2回行うだろう。今後、景気動向に注視しながら金融規制改革も進めていくだろう):

PBoCは6月24日に大半の銀行を対象に預金準備率(RRR:required reserve ratio)を50bp引下げると発表した。金融システミック・リスクの回避が、PBoCの優先事項の1つだ。このためには、銀行の流動性状況を安定させる必要がある。同時に、金融レバレッジの大幅な拡大を抑制するという政策目的も、銀行の資金調達コストが低すぎるとする論拠になる。PBoCは(預金準備率の追加引下げを含む)複数のツールを使った良く計算された流動性管理を通じて、銀行間金利を安定したコリダー内に留め置くと見込んでいる。

6月のRRR引下げが最後の動きだとは考えていない。PBoCは今後、50bpの追加引き下げを2回行うだろう。これまでの政策では、信用拡大の急減速、借入コスト増加、信用リスク上昇から見込まれる景気拡大トレンドの悪化を抑制するには不十分だろう。さらに、最近は米国と中国の間で貿易を巡る緊張が非常に強まっており、景気見通しの不確実性が高くなっている。PBoCが「(金融政策は)中立的なスタンス」と繰返した理由は、「金融規制の全面的見直しから後退した」という誤った印象を与えないためだろう。中国政府もこうした良い改革は、痛みが相当ひどくならない限り止めないだろう。ただ、見込み通りに景気減速が深刻化すれば、シクリカルな金融・財政政策の緩和が実施される可能性は十分にあるだろう。シクリカルな金融緩和の方は、RRR(預金準備率)の追加引下げ、PBoC流動性管理ツールの金利引下げ、および今年後半の金利コリダー下方シフトという形になるだろう。

英国(BOE)

政策金利(予想:次回の利上げは2019年2月。ただ、その後は2020年末まで利上げが停止される可能性がある。):

8月のMPCは、事前に市場にシグナルを示していた通り、政策金利を正式に25bp引上げ0.75%とした。票決が満場一致だったことはサプライズだった(最近の講演を受けてカンリフ氏、とラムスデン氏は、現状維持に票を投じるとみていた)。MPCは少しずつ緩やかに利上げを進めるだろう。第1四半期(Q1)のGDP成長率は少し落ち込んだことは異常な結果であり、第2四半期以降は見込み通り前期比0.4%での安定成長ペースに戻ると自信を持っているようだ。また、BoEは、労働市場のタイトさやそれがインフレに及ぼす潜在的インパクトを、強めにみる傾向がある。現在見込みどおりに安定成長が続くと、MPCが推定する潜在生産力の成長率を少し上回り続けることになる。その場合、MPCは今まで示してきた年1回の利上げより速いペースで引締めを進める意向のようだ。

Q1の経済指標が不安定となる前には、昨年11月の初回利上げに続き5月に利上げが実施されるとみていた。その後、2019年中は6カ月に1回のペースで利上げを実施、というペースが維持された後、2020年末にかけて(2019年末から2020年初頃に、米国が緩やかなリセッションに入ることで)グローバル景気が多少減速するとの予測のもと、利上げは停止されると見込んでいた。計画していた5月利上げを遅らせたことでスケジュールは1四半期あとにずれたが、現時点で、次回利上げが2019年2月になると見込んでいる。これは6カ月後という意味では従来と同じだが、それが金利のピークになると可能性があるだろう今サイクルでの最後の利上げは、少し遅れ、2019年5月になるリスクもある。

また、利上げに踏み切るためには、MPCも適切に強調している通り、ブレグジットを巡る騒動が発生しないことが条件になる(ブレグジット交渉は、今年後半に終盤に入る予定)。予期しない結果となるリスクも依然として高いが、SGの想定する基本シナリオは「メイ首相が非常に穏やかな交渉のかじ取りに成功して、ハード・ブレグジット(強硬なEU離脱)派は激怒するが、英国経済にはベターな結果になる」で変わらない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司