シンカー:9月の自民党総裁選挙で安倍首相が勝利し、アベノミクスの政策の枠組みが維持される可能性が高まった。注目なのは、マーケットで観測があったのと反して、安倍首相はデフレ脱却宣言をして、政策の成果をアピールし、総裁選を有利に運ぼうとすることがなかったことだ。総裁選で勝利をすれば、3年間の新たな任期の中で、デフレ脱却を宣言できる経済環境を整えることを目指すことになる。デフレ脱却は、今後の景気後退局面でもデフレに戻らないことが定義とされるが、安倍首相は日本経済の再生というより大きな意味で考えているとみられる。結果として、日本経済の再生にはまだ成し遂げなければならないことが多いため、総裁選前にデフレ脱却宣言をすることはなかったと考えられる。AI、ロボティクス、IoTなどの産業革命の波にのり生産性の向上に成功した国、または国内貯蓄が過多である日本のような国は、インフレと金利上昇圧力は強くなく、財政政策の余地が大きいアドバンテージがある。市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出の増加の余裕があるということになる。そして、ポピュリズムの抑制も可能となり、「若者が希望をもちやすい社会、努力をする人が報われる社会、そして弱い人が相応の保護を受けられる世の中をつくる」ことができる。そのために「経済のことを重視する」政策にまい進すれば、最終任期であることのリスクであるレームダック化は避けられ、任期の最終局面で日本経済の再生を見届け、デフレ脱却宣言がなされると考えられる。
9月の自民党総裁選挙で安倍首相が勝利し、アベノミクスの政策の枠組みが維持される可能性が高まった。
注目なのは、マーケットで観測があったのと反して、安倍首相はデフレ脱却宣言をして、政策の成果をアピールし、総裁選を有利に運ぼうとすることがなかったことだ。
総裁選で勝利をすれば、3年間の新たな任期の中で、デフレ脱却を宣言できる経済環境を整えることを目指すことになる。
デフレ脱却は、今後の景気後退局面でもデフレに戻らないことが定義とされるが、安倍首相は日本経済の再生というより大きな意味で考えているとみられる。
結果として、日本経済の再生にはまだ成し遂げなければならないことが多いため、総裁選前にデフレ脱却宣言をすることはなかったと考えられる。
安倍首相のスピーチライターとして知られる谷口智彦内閣官房参与が、著書の「安倍晋三の真実」(悟空出版)で、安倍首相がスピーチに込めている思いを明らかにしている。
安倍首相は、「若者が希望をもちやすい社会、努力をする人が報われる社会、そして弱い人が相応の保護を受けられる世の中をつくるという施策に邁進しようと」している。
「経済のことを重視する」目的は、「あらゆることを試みて、日本を強くし、若い世代に引き継ぎたい」と考えているからである。
そして、「日本人をもう一度元気にし、日本を活力あふれる国にした総理大臣だった、と、記憶されたいと」思っている。
デフレ脱却宣言はこれらの思いが成し遂げられた時になされるものであり、中途半端な状態で、選挙のための手段として使われるものではなかったと考えられる。
グローバルな経済の大きな潮流を読めば(8月13日のアンダースロー「グローバルな経済の大きな潮流を読む」を参照)、そのような政治的立ち位置は有効であると考えられる。
AI、ロボティクス、IoTなどの産業革命の波にのり生産性の向上に成功した国、または国内貯蓄が過多である(企業貯蓄率が異常なプラスであるデフレ構造の強い)日本のような国は、インフレと金利上昇圧力は強くなく、財政政策の余地が大きいアドバンテージがある。
市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出の増加の余裕があるということになる。
そして、ポピュリズムの抑制も可能となり、「若者が希望をもちやすい社会、努力をする人が報われる社会、そして弱い人が相応の保護を受けられる世の中をつくる」ことができる。
そのために「経済のことを重視する」政策にまい進すれば、最終任期であることのリスクであるレームダック化は避けられ、任期の最終局面で経済の再生を見届け、デフレ脱却宣言がなされると考えられる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司