「ノブレス・オブリージュ」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。高貴なる者に課せられた責務といった意味合いです。医師・歯科医師は財政的に豊かで、社会的地位が高く、社会・コミュニティに対する貢献という意味での期待も高いといえます。クリニック経営による納税という社会貢献もありますが、今回は「寄付」という貢献について考えてみたいと思います。

寄付とは——金銭や物品を贈ることによる社会貢献

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(写真=Victoria 1/Shutterstock.com)

改めて、寄付とはどういった行為のことを指すのでしょうか。広辞苑は「公共事業または社寺などに金銭・物品を贈ること」と説明しています。三省堂の大辞林では「金品を贈ること。特に、公共の団体や社寺などに金品などを贈ること」とされています。

東日本大震災や熊本地震といった災害への支援、世界の貧困な国の救済など、さまざまな目的があり、寄付金の使われ方もそれぞれです。寄付の方法にも、街頭での募金活動に応じたり、コンビニのレジに置いてある寄付金箱へお金を入れたりと、いろいろあります。

ほかの業種と比べて収入が高いと言われる医師ですが、その中でも開業医、クリニック経営者などの方々は、寄付についてどのように考えるべきなのでしょうか。寄付に対する考え方は人によってそれぞれですが、前述の通り「ノブレス・オブリージュ」という考え方もあります。

ノブレス・オブリージュ——「富裕層は義務も大きくなる」という考え方

ノブレス・オブリージュとは、富裕層や社会的地位が高い人々は、そうではない人々より多くの義務を負う、または、財産や身分に応じて果たすべき責任や義務が大きくなる、という考え方です。

医師や歯科医師は、社会では富裕層や社会的地位の高い層に属すると言えます。ノブレス・オブリージュという考え方は一例ですが、こうした理由から寄付をする方もいるでしょう。

また金銭や物品ではなく、行動で社会貢献をされている方もいます。そうした方は「プロボノ」と呼ばれる人たちです。プロボノとはラテン語が語源で、専門技術を活かしてボランティアを行う医師や弁護士などのことを指します。

このように社会貢献の方法もさまざまですが、日々忙しい開業医の方などにとっては、寄付は忙しい中でもできる社会貢献の方法の一つと言えそうです。

寄付白書2017——日本の寄付比率はアメリカの10分の1?

私たち日本人は寄付にどう向き合っているのでしょうか。認定特定非営利活動法人・日本ファンドレイジング協会がまとめた「寄付白書2017」を見ていきましょう。

日本、韓国、イギリス、アメリカの4カ国で比較した場合、2016年度の名目GDPに占める個人寄付総額の割合で、日本は最も低い数値となっています。アメリカは名目GDPの1.44%を個人寄付が占めていますが、日本はわずか0.14%となっており、10倍もの開きがあることが分かります。

日本国内では個人寄付額(2016年 7,756億円)と法人寄付額(2015年4月~2016年3月 7,909億円)ともに徐々に増えていますが、それでもアメリカなどと比べるとまだまだ少ないです。

寄付の動機とタイプ——開業医は「チャリティサンタ型」?

寄付白書2017では寄付の動機を7分類し、その一つとして「チャリティサンタ」という動機を紹介しています。「見返りを求めず、社会で困っている人の幸せを願って」寄付をするもので、特に年配の方に多いタイプだと説明しています。医師などとして社会的に成功を収め、収入の一部をこうした方法で寄付する方々は実際にいるでしょう。

また「まちの見守りママとパパ」というタイプもあり、自分の子供以外の幸せを願うという動機で寄付する人たちのことを白書ではそう呼んでいます。その土地に根ざしたクリニックなどを経営する方などは、このタイプに属する方も多いかもしれません。

このほか、災害時に寄付をする「ザ・リトルヒーローズ」タイプや、興味のある団体に寄付をする「ぷちソーシャル系」タイプという分類もあります。

寄付と節税——所得控除や損金算入になる日本の寄付税制

寄付を「節税」という観点から見てみましょう。国税庁の刊行物であるパンフレット「暮らしの税情報」(平成30年度版)には、個人が国や自治体、特定の公共法人などに対して寄付を行った場合は、確定申告によって所得税などが還付されるケースがあると明記されています。つまり個人が寄付をすると、条件によって所得金額から「寄付金控除」が差し引かれるということです。

開業医が経営するクリニックなどの法人として寄付をした場合はどうでしょうか。法人の場合については「国や地方公共団体への寄附金と指定寄附金はその全額が損金になり、それ以外の寄附金は一定の限度額までが損金に算入できます」と説明しています。損金算入の限度額は、資本金額などによって計算されます。

このように、個人で寄付をした場合も法人として寄付をした場合も、節税につながる控除制度があるのが日本の寄付税制なのです。

寄付に対する価値観は人それぞれ

医師や歯科医師に限らず、寄付をどう考えるかは人それぞれの価値観であって、押し付けられるべきものではありません。そもそも寄付行為以外にも、社会やコミュニティなど、他者に貢献する方法はあります。

日本の寄付税制やその節税効果、寄付を取り巻く状況、また世界中で起きているあらゆる問題の解決のために自分ができることは何か、具体的にどういう形で貢献できるのか。そして、その行為を通じて、自分が何を得られるのか――。これらについて、一度考えてみてもいいかもしれません。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio

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