企業などがサービスや製品などを開発するための新たな仕組みとして、数年ほど前から「ICO」と呼ばれる資金調達方法が日本を含む世界で注目を集めています。

株式を新規発行して資金を集める「IPO(新規株式公開)」とは異なり、仮想通貨の中核技術であるブロックチェーン技術を活用した「トークン」を発行、投資家に販売し、開発資金などを調達する仕組みです。開発するサービスの業種はさまざまですが、医療に関連するプロジェクトで注目されている案件もあります。

なぜいまICOへの関心が急速に高まっているのでしょうか。ICOの合法性などにも触れながら、日本や世界におけるICOに関する状況について説明します。

ICOの仕組み——トークンを投資家に販売して資金調達

ICO
(写真=Who is Danny/Shutterstock.com)

ICOとは「Initial Coin Offering」の頭文字をとった略語で、日本語では「新規仮想通貨公開」と呼ばれたり、「仮想通貨技術を使った資金調達」などと説明されたりしています。

企業や研究チームなどがICOを実施する場合、例えば「◯◯コイン」などという名称がついた独自トークンを投資家やICOに関心がある人たちなどに販売し、調達した資金を元手に、あらかじめ公表しているロードマップに従ってサービスや製品の開発を進めていきます。

トークンの購入を希望する人は、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨をインターネットで指定の電子口座に送金することで、トークンを購入することができます。購入したトークンは、プロジェクト内で開発されたサービスの利用や製品の購入などに使うことができるのが一般的です。

ICOが注目される理由——実施の自由度やトークン価値の上昇

ICOが注目される理由の一つは、世界を相手に広く資金調達を行いやすいことです。トークンの購入はインターネットを通じて仮想通貨を送金すれば完了するため、さまざまな国の人にトークンを購入してもらえる可能性があります。IPOよりも資金調達までに掛かる時間が短いというメリットもあります。

近年、ICO実施に関する法的枠組みの整備が各国で進んでいますが、ICOは当初は誰でも実施しやすいという自由度の高さに注目が集まっていました。IPOの場合は上場承認などが必要ですが、ICOはこれまで審査を伴わない状況で実施件数が増えてきた経緯があります。

またICOで販売されたトークンの一部は、仮想通貨のように仮想通貨取引所で広く売買されることもあり、ビットコインのように価値が急速に高まることがあります。この値上がり益(キャピタルゲイン)を狙って多くの投資家が有望なICOに投資をしたがり、ICOを実施する側にとっては資金が集まりやすいという状況となりました。

世界のICOをめぐる状況——投資家保護に向けた規制強化の流れ

ICOをめぐっては近年、さまざまな法整備が進んでいます。その目的は主に投資家保護です。

ICOはその資金調達のしやすさから、「スキャム」と呼ばれる詐欺案件も横行するようになりました。資金調達をしたあとに投資家に約束していたサービスや製品の開発をせずに、集めた仮想通貨を持ち逃げする事例も増え、世界的に投資家保護のための規制強化の気運が高まりました。

アメリカでは、米証券取引委員会(SEC)の認可を受けないICOは既に証券取引法規制の対象となるとされており、実質的に実施にはSECへの登録が必要となっています。韓国では2017年に政府がICOの実施禁止を発表しています。欧州やほかの国でもICOの法的規制に乗り出している例が増えています。

日本における状況——金融庁が注意喚起、取引所も取り扱いに及び腰

日本においては2018年7月現在、仮想通貨に関しては2017年4月の資金決済法の改正で法的枠組みができましたが、ICOに関してはまだ規制枠組みが明確にはなっていません。

ただし、金融庁は2017年10月に「ICOについて〜利用者及び事業者に対する注意喚起」という文書を公表し、トークンの価格が急落したり無価値になったりする可能性や、詐欺の可能性について指摘しています。その上で、不審な勧誘などには十分に注意するよう呼び掛けています。

こうした状況もあり、金融庁への仮想通貨交換業としての登録を済ませて仮想通貨取引所を運営する日本国内の企業も、ICOトークンの取り扱いには慎重な姿勢を示しています。

一方で日本企業の中では、アメリカで米証券取引委員会への登録を済ませ、アメリカを拠点に合法的にICOを実施するケースも出てきています。しかしこのようなケースでも、日本居住者へのトークン販売には慎重な姿勢を示しています。

「日本でICOを実施することは合法なのか」「日本居住者へトークンを販売することは違法なのか」といった疑問には、まだ明確な答えが出ていない中、日本国内ではICOを実施する側もトークンを扱う側も、本格的な取り組みを行っていないのが実情です。

黎明期にあるICO、医療業界とも無縁ではない存在に

ICOはまだまだ黎明期にあると言えますが、今後の法整備が進めば合法的な枠組みの中で、ICOがより一般的になっていく可能性もあります。医療に関連したICOプロジェクトも出始める中、今後は開業医の方々など医療関係者にとってもICOは無縁のものではなくなっていくでしょう。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio

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