「ゴルディロックス(適温)相場の復活か?」ウォール街の市場関係者の間で、そんなムードが広がっている。きっかけはジャクソンホールのパウエルFRB議長の講演だ。詳細は後述するが、過度な引き締めによる景気腰折れを心配していた市場関係者にとっては「うれしい誤算」となったようだ。

ただし、マーケットは依然として「トランプ砲」のリスクを内包している点にも注意が必要だ。ゴルディロックス相場の復活を想定するには、9月の「FOMC後」のイールドスプレッド(長短金利差)を見定める必要もあり、その結果次第で秋口から年末にかけての相場展開が決定づけられる可能性が高い。

パウエル発言「バブルへGO!」を示唆?

米株式,見通し
(画像=Getty Images)

カンザスシティ連銀が主催する毎年恒例のシンポジウム、通称「ジャクソンホール」が8月23日から3日間の日程で開かれ、24日にはパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が講演した。

ウォール街では、今回のパウエル議長の講演について、FRBが進める金融政策正常化の動きにブレはないと考えられていたことから「ほとんどノーマークに近かった」(ウォール街の市場関係者)のが実情といえる。ところが、実際の講演でパウエル議長は「物価が過熱する兆候はない」と述べ、過度な引き締めは不要として利上げの打ち止めを示唆したのである。

この講演でパウエル議長は米政策金利について「中立的な水準に近づいてきた」とも指摘している。中立的な水準とは景気を過熱することも冷ますこともない水準のことで、現在は「2.9%」と考えられている。実際の政策金利は1.75~2.00%なので、少なくともあと「4回利上げ」をすると到達する計算である。つまり、年内にあと2回、さらに来年前半の2回の利上げによってパウエル議長の指摘する「中立的な水準」に達する公算が大きい。

ここで問題となるのは、6月のFOMCにおける「金利見通し」である。この見通しでは2019年の政策金利は3.1%、2020年は3.4%であり、「インフレの加速を未然に防ぐ」ために前述の中立水準(2.9%)を超えて利上げを継続する必要性が示されていた。

ジャクソンホールでのパウエル発言「物価が過熱する兆候はない」は、6月のFOMCで示した「インフレの加速を未然に防ぐ」と明らかに温度差がある。つまり、金融政策の大前提を修正するニュアンスを含んでいるようにも受け止められるわけで、ウォール街の市場関係者からは「早ければ来年前半にも利上げは打ち止めとなる可能性がでてきた」との意見も聞かれる。

景気の「熱くも冷たくもない」状況の継続は、米国株式市場にとって文字通り「ゴルディロックス相場」復活を意味する。実際、パウエル議長はこの講演で1990年代後半のニューエコノミーにも言及し「生産性の向上により、低インフレ下でも高成長が可能である」と景気に対して強気な見方も示している。この発言についてウォール街では「『バブルへGO!』と言っているようなものだ」と苦笑する向きもある。

「トランプ砲」で大混乱に陥るリスクも

ところで、トランプ米大統領は8月20日、ロイター通信のインタビューでパウエル議長の利上げ継続方針について「気に入らない」と発言していた。この発言に対する忖度が、24日のジャクソンホールのパウエル発言に反映されたのでは……との憶測も一部で囁かれている。ただし、トランプ大統領は7月にも同様の発言をしており、FRBの金融政策に横ヤリを入れるのは今回が初めてではない。

トランプ大統領は米中貿易戦争に踏み切るなど、通商政策で世界を敵に回しており、「中国とEU(欧州連合)は貿易を有利にするために為替操作をしている」と非難している。加えて、米国ではFRBが利上げをしてドル高を招き「不利な戦いを強いられている」とも批判している。

だが、トランプ大統領のFRB批判については「的外れだ!」と疑問視する声も多い。利上げによるドル高の進行が関税による輸入物価の上昇を抑制している面もあるからだ。逆にトランプ大統領の望むドル安が進んだ場合、インフレが加速してFRBも利上げを急ぐことになりかねない。「ドル安はインフレと利上げを同時に招く恐れがあり、最悪のシナリオだ」(ファンドマネージャー)との声も聞かれ、市場が大混乱に陥るリスクを内包している。

9月の「FOMC後」の長短金利差に注目

ジャクソンホールでのパウエル発言は、過度な引き締めによる景気の腰折れを心配していたウォール街の市場関係者にとっては「うれしい誤算」となった。だが、現実に「過度な利上げ」を回避出来るかはマーケットの判断にかかっている。そのマーケットの判断材料として、まず「イールドスプレッド(長短金利差)」が注目される。長短金利差の逆転は景気後退のサインの一つと考えられており、実際に逆転するようであれば「金利は上げ過ぎ」とマーケットが判断していることになるからだ。

米10年債利回りから米2年債利回りを差し引いた長短金利差は、ジャクソンホール後に一時0.19%にまで縮小した。2月には0.70%台だったが、その後の2回の利上げを経てほぼ0.50%ポイントその差が縮小している。残された約0.20%は1回の利上げの「射程圏」といえるだろう。

次回FOMC(連邦公開市場委員会)は9月25日、26日に開かれる。予想通り利上げが実施された場合、長短金利差がどこまで縮小するのか? ここで長短金利差が逆転するようであれば「金利は上げ過ぎ」と判断して、年明けを待たずに利上げが打ち止めになるかもしれない。

加えて、来年以降の金利見通しと中立的な金利水準の確認も重要となる。現在「2.9%」としている中立的な金利水準が引き下げられれば、利上げ回数は自ずと減ることになるからだ。現在のイールドスプレッドから判断すると、あと4回利上げを実施してなお長短金利差が逆転しないとは考えづらい。したがって、長短金利差の逆転を許さないのであれば、中立的な金利水準を引き下げる必要が出てくるだろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)