ドル円予想レンジ110.00-112.16

武部力也,週間為替相場見通し
(画像=PIXTA)

「IrememberPearlHarbor(わたしは真珠湾(攻撃を)忘れない)」―。これは8/28の米紙電子版が報じた一文だ。6/7の日米首脳会談においてトランプ大統領が安倍首相に対し、米国の対日貿易赤字への不満、難航している通商協議への苛立ちを露わにした際に述べたとされる。

1941年12月8日未明、日本海軍による米ハワイ州真珠湾奇襲攻撃によって太平洋戦争が始まったのは周知の通り。異例とも思える今回の発言報だがその後に、「日本も、昔はもっと戦っていただろう。日本もアメリカと同じように、周辺国ともっと戦うべきだ」とも米大統領が述べたとされている。このウラには、77年前の戦史を掘り起こし、米国の立場の理解、そして良好な日米関係を踏まえ、通商交渉での譲歩を安倍首相に迫る焦燥、とも読み取れそうだ。

トランプ大統領を利用する安倍首相。犠牲は円か

筆者は8/13週号で“トランプ政権は9/20・自民党総裁選を控えた安倍首相を今夏は追い込まず、「安倍3選決定」、総裁選後の内閣改造・党役員新人事決定の初秋・政権安定化以降に本格的な通商交渉を始める”とした永田町関係者の観測を紹介した。しかし、今般の報道から伺えるのはトランプ政権側のなりふり構わぬ姿勢だ。

理由は何か。自身への疑惑やスキャンダルで11月6日の米中間選挙での苦戦が指摘されるトランプ大統領が「3選確実」とされる“シンゾー”に、救いを求めていた、との推考である。トランプ大統領は8/23に「仮に(自分が)弾劾されれば、市場はクラッシュ」と警告。恫喝とまでは言わないまでも、中間選挙で共和党が大敗すれば「大統領弾劾」への現実味が高まり、政策停滞と相まって景気後退圧力、2020年の米大統領選再選のハードルも高くなるだろう。そこで筆者が睨むのは、8/9-10の日米新通商協議の中身が詳らかになっていない点である。つまり、9月自民党総裁選以降に具体的交渉を先延ばしするよう日本側が願い出た格好で、「3選決定後」に安倍政権側は円安抑制など為替も含めた分野でトランプ政権に譲歩、支援する姿勢を鮮明に示すシナリオだ。仮に通商交渉が難航すれば安倍政権も一定の円高を甘受し、ドルの強弱に委ねかねない、とも読める。対して第2次安倍政権・第5次安倍内閣は2020年の改正憲法施行を優先する筈であり、「改憲」の後押し役に米政権を利用するとした深慮遠謀を邪推している。9月上旬は米国による第3弾対中関税発動に関する動向も留意しておきたい。

9/3週ドル円焦点

上値焦点は8/3、8/29-30高値圏111.77-90、8/1高値112.16。越えれば112.50近傍、そして7/20高値112.635意識。

下値焦点は110円台後半維持、8/23安値110.51、8/22安値110.02。テクニカル観点では日足一目均衡表雲の帯(110.64-111.576)が意識され200日線(109.85近傍)が最後の砦と推考。

武部力也,週間為替相場見通し
(画像=岡三オンライン証券)

武部力也
岡三オンライン証券 投資情報部長兼シニアストラテジスト