シンカー: 徐々に注目されてくるのは、FEDが政策金利を中立水準まで戻した後、経済・マーケットがどのように反応するのかだ。貿易紛争を含めた政治の不透明感、そして新興国からの資金流出の懸念などもあり、中立水準に戻った後、グローバルな景気モメンタムが緩やかに落ちていくという見方が多いようだ。一方、ドルの上昇と、減税という形での財政による景気刺激が米国の成長率と企業利益の押し上げにつながり、米国への資金流入の抗い難い力となっている。好調な景気が物価に上昇圧力をかけるが、ドルの上昇はその抑制となる。結果として、FEDの利上げが引き締め領域に入っても止まらないリスクを減じ、それが株式市場を含めたリスク資産価格を押し上げているようだ。新興国経済がドル高・米金利上昇の下押し圧力にしばらくは耐えることができていれば、FEDが政策金利を中立水準まで戻した後も景気モメンタムは衰えないという楽観論がいったんは出てくる可能性がある。その楽観論を一時的と見てFEDが利上げを加速しないのかどうか、そして新興国経済がどれほど耐えることができるのかが、実際の景気モメンタムの行方を左右しそうだ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●中国経済(9/04):今回もインフラ投資を信頼するのか

中国では、相次ぐ緩和策にもかかわらず景気減速を示す経済指標が増えており、中央政府が再び積極的な景気刺激策を打ち出すのではないか、という見込みが金融市場で形成されつつある。だが現在の政策スタンスからは、景気サイクルを速やかに変え得る景気刺激策(暗示的、明示的のいずれにしても、政府借入に支えられた積極的なインフラ・ストラクチュアへの投資)が打ち出されるとは考えづらい。今年のインフラ投資が低調な原因は、影の政府債務やシャドーバンキングの拡大を避けたい、という意向が政府にあることだ。

インフラ投資の伸び率は今年後半には、正式な政府の資金供給が加速することに助けられて、10%に回復すると見込まれる。だが本当の課題はその後に控えており、それは住宅セクターが沈静化して貿易摩擦が実際に影響し始めたときである。弊社の見方では、デレバレッジを追求しながら緩和政策を行っても効果は限定的で、2019年のGDP成長率は6.5%を下回る。インフラ投資は、政府のデレバレッジへのコミットメント、素早い景気回復の可能性、そして何よりも景気拡大の長期的な持続性を示しており、注目すべき重要指標である。

●北米経済(8/31):対米通商関係の不透明さは、おそらく解消

メキシコと米国の二国間合意で、NAFTAの条項が大きく変わることはないと弊社はみている。カナダを除く合意は法的にみて実行が難しくなるほか、(NAFTAに比べると)メキシコが米国やカナダに対して経済面で劣ると見なされる可能性がある。新しく合意したタイミングはややサプライズで(内容はそうではないが)、弊社は米国の中間選挙後、およびメキシコ新政権が発足した時になるとみていた。米国の政治状況を考えると、メキシコとの合意でカナダに合意を批准するよう圧力をかけられる、という考えがあった可能性がある。メキシコの側からすると、米国との合意でNAFTAによる恩恵がほとんど全て確保され、貿易やそれに関する投資決定に伴う不確実性も取り除かれた。

●欧州経済(8/31):主要ポジションを巡る駆け引きが始まった

先週のドイツの報道では、来年行われる欧州主要ポストの任命についての思惑が溢れていた。近年はECBが主に注目されてきたが、ドイツが欧州委員長を望んでいるというシグナルを示す中で、ECB以外のポストの重要さが過小評価されてきたとみられる。次期ECB総裁を推測するためには、今後の数カ月で以下の4点を注目したい。1)ドイツのサビーヌ・ラウテンシュレーガー氏がSSMの議長に志願したのか、2) メルケル首相が、EPP(欧州人民党)の欧州委員長候補にドイツから誰かを推薦するか、3) 2019年6月に退任するピーター・プラート氏の後任、4) 2019年5月23-26日の欧州議会選挙の結果(の可能性)として何が考えられるか、である。サプライズも否定できない。例えばドイツが、要職であるECBチーフエコノミストの奪回を試みることも考えられる。なお次の2点が広まっているが誤解である。それは、①ドラギ総裁退任後はECBの政策が大きく変わる可能性がある、②(ドイツ出身の)ヴァイトマンECB総裁誕生に反対する可能性があるのはイタリアだけ、という見方だ。その代わりに、フランスの野心と目標が今後スポットライトを浴びるとみられる。

●英国経済(8/29):ハスケルMPC新委員の考え方

BOEの金融政策委員会(MPC)の次回会合では、ジョナサン・ハスケル教授(インペリアル・カレッジ・ロンドン)が委員に就任する。ハスケル氏は最近の発言を聞く限り、追加金融引締めは急がないとみられる。同氏はまた、次のように主張してインフレに関する議論を深める役割を果たしている。即ち「無形資産への投資がより重要となったことで、生産と生産能力(有形資産)との関連が弱まっている。このため、インフレ圧力を測定する上で生産ギャップの重要性が弱くなっている」というものだ。

●アセット・アロケーション(9/04):成長重視で「米国第一」

米国は資金の流入先として依然支配的:ドルの上昇と、減税という形での財政による景気刺激が米国の成長率と企業利益の押し上げにつながり、米国への資金流入の抗い難い力となっている。過去3ヵ月間、米国は株式、債券、およびクレジットへの資金フローの行き先として支配的な存在であり続けている。貿易戦争の脅威(「米国第一」)、ドル感応度、および一部の国々に固有の問題(例えばイタリア、トルコ、アルゼンチン)の中で、欧州と新興市場に投資するファンドは大規模な純資金流出に苦しんできた。より最近では、米国以外のフローモメンタムが多少改善している。

成長重視で米国株に資金流入:米国株への資金流入が続き、弊社が前回のHEDGE FUND WATCHで述べたように投資家が再びボラティリティ(VIX)をショートしていることを裏付けている。テクノロジーセクターは投資家の買い意欲を刺激し続け、米国株の組み入れ比率が当然大きいグローバルセクターファンドやグロースファンドへの旺盛な資金流入を生み出している。一方、バリューファンドは資金流出に見舞われている(下左図)。同じ米州では、カナダ株ファンドにもここ1ヵ月間で力強い資金流入が観測されている(20ページ参照)。

米債と米クレジットにも資金流入:ファンド投資家は米債ファンドと米クレジットファンドにも資金を流入させ続けている(下右図)。しかし、正常化後のフロー(純資金流入額/運用資産額)に関する弊社の分析は、その水準が長期平均を依然下回っていることを示唆している。正常化後のフローのZスコアがマイナスとなっているのはそのためである。しかし、米債のフローモメンタムは直近1ヵ月と3ヵ月のいずれで見ても依然ポジティブである。

●債券市場(9/03):季節の移ろい

夏の終わりが近づくにつれ、債券市場の取引は次第に活発化していく見通しだ。リスク資産にとって8月は強い基調で終わろうとしており、債券利回りに8月ボトムからの上昇余地があることを示している。債券市場にとって一つの大きな試練は、9月に大量の供給が見込まれることだ。米国債や英国債では、すでに海外投資家の買い意欲に低下の兆候がうかがえる。一方、ユーロ圏の国債市場では、公的部門資産購入プログラム(PSPP)による買い入れ規模の縮小が主な試練となるだろう。 しかし、利回りの経路は必ずしも直線的であるとは限らない。イタリア問題、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、新興国を取り巻く不安など、各地に多くのリスクがくすぶっている。もちろん、米国絡みのリスクもある。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司