マンガーとバフェットの出会い

バフェット・クラブの金言
(画像=Chinnapong/Shutterstock.com)

バフェットクラブ第7弾。今回はバフェットさんの右腕と称されるバークシャー・ハサウェイの副会長チャーリー・マンガーさんです。「グレアムの考え方の限界を超えるためには、チャーリー・マンガーの思考の力が必要だった」バフェットさんにそう語らせたマンガーさんとはどのような人物なのでしょうか。

マンガーさんは1924年1月1日にバフェットさんと同じネブラスカ州のオマハで生まれました。バフェットさんが1930年生まれですから、マンガーさんは6つ年上ということになります。父親が弁護士を務めていたこともあってか、バフェット家とは昔から交友があったようです。

バフェットさんご本人との初対面は1959年までさかのぼります。マンガーさんが父親の遺産整理をするために実家へ帰省しているときに友人の紹介で知り合ったようです。

軽い挨拶を交わしたのち、2人はすぐ打ち解けたそうです。マンガーさんが彼の投資について質問すると、バフェットさんは25歳のときに立ち上げたパートナーシップについて話しました。1957年に市場平均株価が8%以上下落したにもかかわらず、バフェットさんのパートナーシップは10%以上の利益を挙げたことなどを聞き、大いに関心を持ちました。

マンガーさんは既に弁護士として好調なスタートを切っていましたが、「私にも同じことができるかな」とバフェットさんに尋ねたところ、バフェットさんは、「できるだろう」と答え、熱烈なラブコールを繰り返したそうです。こうしてマンガーさんがバフェットさんを支える体制ができあがり、マンガーさんは1976年にバークシャー・ハサウェイの副会長に就任。名実ともにバフェットさんのパートナーとして、バフェットさんに新たな投資の地平を切り開くことになるのです。

ブランドの価値を気づかせたシーズ・キャンディーの買収

マンガーさんのブランド論について考えるのならば、1972年のシーズ・キャンディー社の買収を忘れてはいけません。

マンガーさんは「年に10%値上げしても誰も気にしないで買い続けてくれる商品が存在することが分かった。この経験がバークシャーを変えた」と言い残しています。シーズへの投資を通して、その後のバフェット投資の土台を築く「ブランド力を貨幣価値におきかえて、企業の実態価値を測る手法」ができ上がっていったのだと思います。

シーズ・キャンディーは1921年に創業した老舗で、今でも西海岸を中心に人気のあるチョコレートキャンディーメーカーです。シーズを買収した理由は何だったのでしょうか。

シーズの企業価値の源泉は、簡単には消えない競争優位性を持つビジネスモデルにあります。チョコレートはアメリカ人にとってコンフォートフード、日本語で言うと「家庭の味」と呼ばれる食べ物です。つまりシーズは味が良いだけではなく、シーズのチョコレートを楽しむという経験を売っているのだと思います。「これを食べて育った」という強烈な共感がブランドとしてでき上がっていたのです。

ブランドが定着すると、顧客は心地良さを求めて製品を買います。安いからではなく、シーズ・キャンディーだから買うのです。マンガーさんの言葉を借りれば「ブランドには、かなり高い情報の優位性があります。規模の経済性も情報の優位性になり得ます」「みんなが買っているものは他よりも良いだろうと考えるのです。それに、自分だけがみんなから外れるのもいや」といったところでしょうか。マンガーさんはこのブランド価値に投資したのです。

その結果、シーズは、販売数量を増やさなくても値上げによって利益を大きく増やすことができるビジネスモデルを作り上げたのです。数量を増やすための新工場を作るなどの設備投資の必要性も限定的です。

余談ですが、シーズ・キャンディーの店舗に行くと、店員はとてもフレンドリーです。バフェットさんが株主であることを自慢してくる店員さんたち。生き生きと働く姿を見ていると、株主も立派でなくてはいけないと思うのです。

ブランドとは顧客との約束である

マンガーさんは「ブランドとは期待される質とサービスを提供する顧客との約束である」と言っています。

マンガーさんからブランドのマネタイズ(貨幣価値化)について学んだバフェットさんは強いブランド力を持つことを、企業の長期的成長力を守る"堀(モート)"にたとえてきたと前回、お話ししました。

最近、このモート(堀)について、テスラのイーロン・マスクさんがバフェットさんに「堀だけでは駄目だ」と反論したそうです。

それに対しバフェットさんは、「経済的な堀はいまだ存在する」とし、事例としてシーズ・キャンディーを挙げたそうです。年初に、バフェットさんにお会いした時に、おみやげにシーズ・キャンディーをいただいた私には、この論争、バフェットさんに分があるように感じます。

※こちらは2018年7月13日に掲載されたものです

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