相続対策のひとつに収益不動産を保有することがあげられます。しかし、収益不動産を相続した世代が資産の管理や処分を行うときに、過分な労力や金銭的な負担が生じるようでは元も子もありません。つまり、収益不動産を取得するなら、最終的な出口戦略まで考えておく必要があるのです。以下では、相続における収益不動産の在り方を出口戦略まで含めて検討します。

相続対策に収益不動産を持つ意味とは?

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(写真=PIXTA)

収益不動産が相続対策に有効だと言われる理由について考えてみましょう。まず、相続財産を預金や有価証券で保有するより、不動産で保有するほうが相続税評価額を抑えられる点があります。

国税庁が定める「財産評価基本通達」によると、建物は「固定資産税評価額」、土地は「路線価」をもとに評価すると決まっています。いずれの場合も実勢価格より相続税法上の評価額のほうが低くなります。それに加えて、収益不動産として保有している建物は「貸家」として、土地は「貸家建付地」として評価されるため2割から3割程度評価額が下がります。

さらに、一定の要件を満たす土地の相続では「小規模宅地等の特例」が適用できます。貸付事業用宅地等に該当すれば200平米まで50%減らすことができます。

また、収益不動産は資産運用の観点から見ても利益を得やすいのが特徴です。毎月安定した家賃収入を得られるので、相続人にとっても収支予測が立てやすいのです。収益不動産は目に見える資産のため、株式等に比べると無価値になる可能性が低いので、これまで収益不動産を保有したことのない人でも資産運用しやすいといえます。

相続を検討する企業オーナーが不動産に資産分散するのは、単純に資産圧縮、資産運用するという切り口だけではなく、相続した相続人が扱いやすい資産だと加味した結果だと言えるかもしれません。

収益不動産にまつわるリスクとは?

一方、収益不動産には注意したほうがよい面もあります。まず、いくら価格が大きく値動きしづらいとはいえ、収益不動産は良質なものばかりとは言えません。管理会社への手数料や固定資産税などの経費を控除すると利益が出ない物件もあります。また、経年劣化により空室率が増えたり、修繕費や改修費がかさむおそれもあります。

また、相続人が収益不動産を売却したいと考えた場合、譲渡所得に対する課税が負担となる場合があります。相続した不動産の取得価格が分からない場合、みなし取得費(売却額の5%相当)が適用される場合があります。例えば3,000万円で売却できた場合は150万円が取得費とみなされるため、課税額の負担の大きさが想像できるでしょう。

さらには不動産の所有期間が5年超の場合であれば所得税率15%(2013年から2037年までは、復興特別所得税がかかるため15.315%)、住民税率5%で済みますが、所有期間が5年以下の場合であれば所得税率30%(2013年から2037年までは、復興特別所得税がかかるため30.63%)、住民税率9%と税率が変わります。そのため、あらかじめ所有期間をシミュレーションし、収支がどうなるのかを把握しておくことが肝心なのです。

収益不動産は相続を見据えて出口戦略を

それでは相続を見据えて収益不動産を購入する場合、相続人に対してどのような出口戦略を検討するのがよいでしょうか。大きく分けて3つあります。

1.通常の使用収益や売却
まず、収益不動産を保有し続け家賃収入を得る方法があります。建物が老朽化した際には建て替えたり、駐車場にするといった選択肢を別途検討することも必要です。また、売却して現金化するのも一案です。この場合には上述した取得費の計算や所有期間による適用税率の違いなどにも留意する必要があります。

2.資産管理会社を作る
また、資産管理会社の設立を検討するのもよいでしょう。資産管理会社とは株式や不動産などの資産を管理することを主な目的として設立される会社を指します。具体的には、収益不動産を相続させる代わりに、収益不動産や自分が経営する会社の株式などを管理する資産管理会社の株式を相続させるというスキームです。また、相続人が資産管理会社を設立して不動産や株式を買い取るという方法も考えられます。こうした方法により相続税が抑えられる可能性があります。

3.不動産小口化商品に投資する
現物の収益不動産ではなく、収益不動産が信託受益権として小口化された商品を保有するのも一法です。収益不動産を現実に保有するより管理の手間がかからず、売却も比較的容易にできます。また、相続税法上は収益不動産を保有したときと同様の減額効果が見込めます。

このように、相続人の活用方法も検討したうえで収益不動産を保有することは有用です。遺される相続人にも相続前から不動産の活用方法をレクチャーし、出口の選択肢を広げておくことが大切です。

相続人のために収益不動産の出口戦略の検討を

以上のような選択肢のうちどれが適しているかは、推定相続人や保有資産の状況によって異なります。加えて、資産を受け継ぐ相続人にも収益不動産の特徴や運用方法、出口戦略を伝えておくことで、いざ相続したときにも親族が戸惑わなくて済むはずです。やみくもに収益不動産を相続対策に活用するのではなく、自分がいなくなったあとのことも見据えて長い目で検討してみてはいかがでしょうか。(提供:企業オーナーonline

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