不動産を所有する場所で地震や水害などの大災害が発生すれば、身に危険が及ぶばかりか、資産価値が台なしになる。

2018年は6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、9月の台風21号、北海道地震などと相次いで大災害が発生した。不動産を取得する際に災害が発生しやすい場所かどうかを見分けるため、過去の歴史を調べることが欠かせない。

地方自治体への問い合わせやハザードマップの入手で分かることもあるが、災害の歴史を伝える石碑やその地域に残る地名がヒントをくれるときもある。西日本豪雨の被災地では過去の災害発生を伝える石碑や地名があちこちに残っていた。

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(画像=PIXTA)

岡山、広島の被災地で過去の災害を記録した石碑

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(岡山県倉敷市の川辺小学校校庭に建てられた水害の石碑。不動産取得の際には地域の歴史にも気を配る必要が出てきた(写真=筆者))

岡山県倉敷市真備町川辺の川辺小学校校庭。その片隅に小さな石碑がひっそりと建てられていた。

よく見ると大人のひざ下ほどの高さに線が刻まれている。1976年の台風17号で浸水した際の水位を示す線だ。7月の西日本豪雨に伴う水害に飲み込まれたせいか、石碑の下部が土砂の中に埋もれていた。

石碑は先人が水害の記憶をとどめるために設けたもので、児童たちが社会科の授業で地域の歴史を学ぶ教材になってきた。しかし、西日本豪雨では小田川が決壊して町内一帯1200ヘクタールが水没、51人が命を落とした。

近くの男性(71)は「まさかこの水位を超す水害が発生するとは思わなかった」と暗い表情を見せる。

石碑の多くは公共施設や寺社の境内に多く、不動産購入候補地の周辺を散策すると見つかりやすい。過去の被災地であったことが分かれば、その経緯を自治体に問い合わせ、課題が解決済みかどうか確認する必要がある。

西日本豪雨による土石流で15人が死亡した広島県坂町小屋浦にも、100年以上前の土石流被害を記録した石碑が公園内に建てられている。坂町史によると、明治時代末の1907年に土石流が発生し、44人が死亡するなど大きな被害が出た。これを記録するために建てられたのが2基の石碑だ。

石碑には被災当時の状況と死没者の名前が刻まれている。もともとは天地川の河口付近にあったが、その後現在地に移転されたという。地区の女性(87)は「子どものころに100年に1回は災いが起きると聞かされていた」と振り返る。

特定の漢字が使われる災害地名に注意

石碑のような明確な記録が残っていなかったとしても、災害の危険性を示唆してくれるものがある。地域に残る地名だ。

香川県さぬき市のオレンジタウン、埼玉県越谷市のレイクタウンなど新たに命名された地名に変わっている場所も多いが、図書館にある市区町村史を開けば昔の地名がすぐ分かる。

真備町は奈良時代の学者吉備真備の出身地であることが町名の由来となり、過去の災害が関係した名前ではないが、川辺は川のそばを意味する。坂町は町名からして傾斜地であることを示している。

「川」や「坂」の名があるからといって、その場所で過去に大災害があったとは限らない。しかし、川のそばなら水害、傾斜地なら土砂崩れの発生地であってもおかしくない。地域の歴史を調べるきっかけとするには良いだろう。

地名にはその土地の歴史や地理が集約されている。先人が被災の歴史を伝えるために命名したケースもある。一般に災害地名と呼ばれているもので、特定の漢字が使われることが多い。

中央防災会議の「1982長崎豪雨災害報告書」や「市町村名語源辞典」(東京堂出版)などによると、「竜」や「蛇」は川の蛇行や激流、「河内」や「川内」は洪水被害地、「谷」は低湿地、「浦」は昔の海、「窪」は窪地か川の合流点を意味することがある。

漢字が持つ意味だけでなく、音の当て字として使われる例も見られる。「梅」は埋める、「馬」は崩壊地形のウバの代わりに使用されたといわれる。やすらぎが丘団地の名前で住宅開発された広島市東区の馬木地区では、西日本豪雨で土砂崩れが発生した。たかが地名と侮ることはできない。

不動産取得時には災害のリスク計算が必要

東日本大震災以降、日本は地震活動が活発化してきたといわれる。地球温暖化の影響からか、台風の大型化や集中豪雨、ゲリラ豪雨の多発が目立つようになった。大災害発生のサイクルが短くなり、被害が拡大する可能性も否定できない。

地震による被害は日本中、どこにいても避けられそうもない。海に近ければ津波、埋立地なら液状化の被害が出る可能性がある。地震以外でも水量の多い河川沿いなら水害、急傾斜地は土砂崩れが心配だ。

仮に取得した不動産が資産運用のためだったとしても、地震や水害で被災すれば資産価値が著しく低下する。被災地にならなかったとしても土地やマンションの価格が大きく低下することもある。東日本大震災後には、被災地ではない西日本の太平洋側で住宅地やマンションの価格が急落した。

新たに不動産を取得する際は、居住用であろうと資産運用用であろうと、地名や地域の歴史に気をつけ、しっかりとリスク計算することが求められる時代になったのではないだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。