18歳選挙権で何が変わるのか
永久:ところで、選挙権年齢が18歳以上になりました。社会保障でいうと高齢者の人口比が大きいので彼らの利益が過大に守られている、18歳から選挙に行けるとなるとこのバランスも変わるのではないか、と言われています。ですが、新しく参政権を得た若者は有権者全体の2%でしかなくて、影響はあまりないような気もします。
それよりむしろ、経済学というきちんとしたツールを使って状況を分析すると、年配の人たちにこそ、自分たちの利益を守っていくだけでは世の中が回らなくなることが分かるようになる。そして、回らせるにはどうしたらよいか、これからの自分の将来設計や社会のあり方も考えられるようになる。そういった意味で、ツールを身に付けることの意義は非常に大きいと思います。
矢尾板:私のゼミの学生が去年の秋に16歳から29歳の約1000人を対象にアンケート調査を行いました。すると大体70%の人から、社会に対する疑問や理不尽さを感じているという答えが出てきました。ですが、それを訴える手段をもっていないんですね。投票にも行かない。何で投票へ行かないのかというと、一番多いのは「自分が一票入れてもしようがない」という回答です。ですから、18歳選挙権といっても、実際の投票行動にはなかなか結びつかないだろうと思います。
では、どうするか。教育を通じて「未来を主体的に選択する力を身につける」ようにすることが大事なのではないでしょうか。たとえ彼らの投票が過半数に届かなくても、投票率が高くなれば、やはり無視はできないと思うんですね。
永久:それはおっしゃるとおりですが、ものが冷静に見えるようになったら余計に動かないかもしれない。選挙に行くことは、自分の持つ一票の影響力を考えたら、数学的に「非合理」なわけです。むしろ、なにかに対する情熱や強い危機感が人を政治的に動かすほうが多い。それが結果的に思わぬことにつながることもある。考えるツールを獲得し、それをもって自分の利益も踏まえながら全体最適も考えるといった良識的な判断をし、政治的なアクションにまでつなげていくのは大仕事ですね。
川本:確かに政治にはそういう側面がありますね。とりわけ、現在のアメリカの大統領予備選挙を見ているとそう思います。最終的には良識に基づく結果に至ることを期待するわけですが、その前段階で極端に走るといった、予期せぬことが起きるかもしれない。我われの願いは、そういう良識的な中間層が政治参加する場合に、良識的な判断をするための共通のツールを提供できたらというところにあります。