デモクラシー教育と地方分権への期待
川本:さきほどもお話がありましたが、選挙に行かないほうが経済的には合理的なんですね。ではなぜ人は選挙に行くかというと、市民としての義務であるという認識があるからです。こういう人たちを大切にしないといけませんね。
永久:経済的な合理性、つまり選挙に行くことで直接的な利益を得られると信じて投票する人たちもいるわけですが、義務感をもって選挙に行く人たちは多いですね。
矢尾板:アンケート調査でも圧倒的に「行く理由」として多かった回答は義務感でした。選挙に行くことは市民としての権利、もしくは義務だからというのが多くて、応援している候補がいるからと答える人は全くいなかったですね。
永久:ただ、義務として、冷静な判断で投票をしても、その結果は国民全体の意思の反映とは言えますが、政策を実行する段階で、社会全体として合理的な結果をもたらすという保証があるわけではない。
川本:おそらく政治のあり方についても判断のツールが必要ということでもありますね。
永久:そうですね。経済を見る力と同時に政治を見る力も必要かと思います。それには、本を一冊二冊書くだけではまったく不十分で、子供のころから民主主義に対する理解を深める努力が必要なのだろうと思います。
矢尾板:スウェーデンの若者の投票率は80%を超えていますね。それは子供のころから、学校教育の場も含めて、社会参画を通じて常にフィードバックを受けるという「民主主義」を経験しながら成長しているからなんでしょうね。
永久:それには、人口が少ないうえに地方分権も進んでいて、政治参加の結果が見えやすいということの影響もあるでしょうね。
川本:政治参加を高めるには、地方分権はやはり重要ですね。日本の地方の財政は経済学でいう「ソフトバジェット」なんです。地方が困ったら必ず国が助けてくれるので、普段はいい加減になってしまう仕組みがある。だから、いつまでたってもみんな真剣になれない。
永久:たしかに、PHPの創設者・松下幸之助も同じことを1960年代からうったえていました。一時はとても盛んになった地方分権や「地域主権」の議論がいまはなぜか下火になりました。政治参加という文脈からも、また改めて議論を盛り上げていかなければなりませんね。今日は、ありがとうございました。
(『政策シンクタンクPHP総研』より転載 2016年05月26日公開)