大学は変革を迫られている
永久:我われは経験からくる直感みたいなもので経済現象を理解している部分が大きいような気がします。ですが、それでは視野が狭くなる。経験から学んだものを普遍化する訓練がなされず、理論はまた別のところにある、そういう印象です。そのギャップを埋めていくことが大事なのではないかと思います。それには本だけではなく、教育のあり方全般を考えなければいけませんね。
川本:本当にそのとおりです。投資教育家の岡本和久さんがブタの貯金箱を使って子供たちにお金に関する教育をされていますね。お金を使ったり貯えたりする意義が子供のころから分かるようになる内容です。
矢尾板:教育再生実行会議や文科省では高校を対象にアクティブラーニング(ディスカッションなどを通じた能動的な学習)を進めていこうという話が出ていますが、高校側としては「でも、大学受験が変わらない限りは無理だよね」という感覚があると思います。ですから、大学の入試改革の議論も進んできています。日本の大学は入学は難しいのですが、卒業はそれほどでもない。アメリカなんかでは逆です。高校と大学の接続を工夫していく必要があるように思います。
永久:それはけっこう昔からある議論ですね。ヨーロッパの国々の多くではそもそも日本のような受験という仕組みがないとか。アメリカでも、学部に入る時にはSAT(大学能力評価試験)でしたか、それと高校時代の成績と自分をアピールするエッセイの提出で入学が決まりますね。日本の仕組みもそれに倣ってきたような感じがしますが、どうも受験勉強の厳しさは変わらない。
川本:産業として教育をとらえ、「サービスプロバイダー」としての学校がそういう体制をつくっていかないと難しいですね。
矢尾板:これからは18歳人口が減少してきます。そうなると大学としても、学生の取り合いになるわけで、教育改革を迫られています。4年間の中で、進路である産業界や社会から正当に評価される学生をつくっていかなければならない。日本の大学は、本気で変わらざるを得ない状況にあります。
永久:その時に、偏差値を高めようといった競争ではなくて、世の中に出る時にすぐに役立つような教育、問題を見極めそれを解決する力が身につくような教育に努めるべきではないかと思いますが、どうでしょうか。
川本:文部科学省も多分そう考えていると思います。経済学の基礎を学ぶということは、まさに経済を見るツールを身に付けることであり、社会に入ったら大いに役立つと思うんです。経済学部にかぎらず、別の学部の学生にもきっちりとそのあたりを学んでほしいですね。
永久:別の言い方をすると、現在の大学ではそういう教育があまり熱心になされていないということですよね。
川本:大学で社会的な価値をきちんとつくっていかないと、ある年代の人が、ある一定の期間を通過するだけの場所になってしまう。教室があって、先生だっているわけですから、ちょっと教え方を変えればいいんです。若者の人口は減っていきますが、お年寄りだって学びたいという人は少なくない。そう考えると、大学のような知的なインフラはむしろ成長産業だと思いますね。