経済を考える「ツール」を提供したい
永久:自分で課題を設定して、その解決にみずからチャレンジしていくことが、社会では求められますね。高校の話は出ましたが、大学ではそうした力が培われているのでしょうか。お二人とも大学の現場で教えられているわけですが、実態はどうですか。
川本:専門性を追求して立派な業績を上げている先生や、そうした方々の著作もたくさんありますが、社会に入ってから求められる「考える力」を育むといった観点は軽視されてきたかもしれません。たしかにその道を極めることは重要ですが、学生たちの「考える力」を育むことを軽視してはならないし、そのためには経済学を考えるための「ツール」として捉えなければならないと思っています。経済学は世界共通の知的なツールですから、それを使って学生が相互に自分の考え方を説明し、お互いの違いを認め合い、理解を深め合うことが重要です。
永久:今回、お二人の企画で『世の中の見え方がガラッと変わる経済学入門』という本を出版されました。その狙いは、そのツールをより使いやすいものにしたいというところにありましたね。
矢尾板:そうですね、やはり現実社会を見る上で、しっかりとした思考方法を身に付けることが重要です。それには分かりやすい経済「学」の「教科書」が必要だと思ったんです。
川本:これまでの経済学の教科書は概して専門性が強過ぎてハードルが高い。万人向きではない。一方、世の中にたくさん出ている経済に関する書物は、わかりやすく書いてはあるけれども、一貫した理論にのっとって書かれているかというと、そうでもない。そのギャップを埋めたいというのが動機ですね。
永久:たしかにこの本は大学で使われている教科書に比べたら、とてもとっつきやすいですね。大学に入ったらまずはこれを読んで、そのあとにいささか難しい式も書いてあるような本に取り組むのがいいのではないかと思いました。とはいえ、これでもまだ難しいと思うんですね。もう少し若いというか、子供のときから自然と経済を見る眼を養っていけるようなものも必要だと思いました。
矢尾板:そう思います。例えば、子供のころから買い物はしているし、「ごっこ」遊びで売り手を体験することもあります。そうした体験と経済の動きを結びつけるような本もあってもいいと思います。やはり自分自身体験に基づきながら当事者にならないと経済を実感するのは難しいですから。