金融業界を知るのに、金融小説は非常にお勧めである。金融の持つダイナミズムやリアリティが、人間模様も含めて忠実に描かれている。金融に精通している方はもちろんであるが、そうでない方にも是非お勧めしたい金融小説を6作品紹介しよう。秋の夜長や通勤時間など、空いた時間に手に取ってみてはいかがだろうか。
ドラマも大ヒット 『半沢直樹シリーズ』（池井戸潤著）
大ヒットドラマ「半沢直樹シリーズ」の原作に手を伸ばしてみてはいかがだろうか。同シリーズは2018年9月現在で、下記の4作まで出版されている。
『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』（以上、文藝春秋）『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』（以上、ダイヤモンド社）
出世競争、出向、事業会社の再生等、バブル期に入行した銀行員のドラマが映し出されている。多くの争いやしがらみに巻き込まれていく様は、華やかな銀行員の裏側とも呼べるだろう。金融小説の堅い部分をストーリー性で中和した作品であり、読み応えのある内容となっている。
サスペンスとしても秀逸 『マネーロンダリング』（橘玲著、幻冬舎）
香港在住のコンサルタントである主人公・工藤秋生が、仕事の依頼を持ちかけてきた女性と消えた50億円を追う。
注目すべきは、国際金融の深い部分まで詳細に記載されている点である。マネーロンダリングの具体的な手法にまで突っ込んで書かれている。著者である橘玲氏は「海外投資を楽しむ会」という団体を主宰するなど、その金融知識は深く、著者の知見が大きく活かされている作品だ。
また単なる金融小説ではなく、ストーリーの部分でも読み応えがあり、サスペンス小説としても十分に楽しめる作品となっている。
人間描写も読みごたえあり 『ハゲタカ』（真山仁著、ダイヤモンド社）
直近のTVドラマでもおなじみの『ハゲタカ』は、過去にもTVドラマ化や映画化もされており、金融小説の超人気作と呼べるタイトルだ。
ニューヨークの投資ファンドのマネージャーである主人公 鷲津政彦は、不景気に喘ぐ日本企業を次々と買収し、成果を上げていく。外資ファンドによる買収は、投資回収のみを目的としたドラスティックな改革を行うため批判も強く、多くの利害関係が衝突するものの、主人公は自身の正義と信念を貫いていく。
スケールの大きな話であるが、その裏にある人間描写やストーリー性が非常に読みごたえがある。『バイアウト』（講談社）を始め続編も複数出版されており、併せて読む価値があろう。
未読なら読んでおきたい 『金融腐蝕列島』（高杉良著、角川書店）
1997年に出版された同タイトルは、総会屋、不正融資、日銀や大蔵省の汚職といった金融業界の裏の部分について書かれた作品である。総会屋への利益供与事件などを予見していたのではないかとも言われたほどであり、当時の金融情勢がリアリティを持って描かれている。
同シリーズは、複数の続編も出版されている。さらに、著者は経済紙の編集を行っていた経験を活かし、金融業界以外のタイトルも含め、多くの経済小説を出版している。手に取る価値は十分にあろう。
ウォール街は変わらない？ 『巨大投資銀行』（黒木亮著、角川書店）
日本の都市銀行から転職し、ウォール街の投資銀行で働く主人公の物語である。外資の巨大投資銀行は実力が全ての世界である。主人公は、日本企業との違いを乗り越え、成り上がり、邦銀の再生にまで取り組むストーリーだ。
単行本の発売は2005年であるが、事実に基づいたリアリティのあるストーリーは読みごたえがある。外資との企業文化の違いについては、今もなお日本企業全体に問題を投げかけているようだ。
現代金融・経済へのアンチテーゼ 『希望の国のエクソダス』（村上龍著、文藝春秋）
これまで紹介した作品と毛色が異なるが、こちらもお勧めの小説だ。金融機関にフォーカスしたものではないが、現状の金融・経済界のアンチテーゼとなる作品である。
希望の見えない日本で、80万人の中学生が学校を捨て、「ASUNARO」という組織を蜂起、ネットワークビジネスを駆使して社会を築き上げ、日本からの独立を企てるというストーリーだ。
ストーリー性もさることながら、若年層が抱く社会制度への不満は、現行制度の問題を浮き彫りにしている。2000年の発売から18年が経過しているが、今もなお新鮮に読める作品となっている。
文・MONEY TIMES編集部／MONEY TIMES
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