要旨
●9月に公表される見込みの2016年度の概算医療費が、14年ぶりに減少した可能性がある。既公表の統計をみると、「調剤」の減少が大きく寄与。2016年度の薬価改定、かかりつけ薬剤師や「お薬手帳」制度、ジェネリック医薬品の利用促進など、一連の政策効果が顕れたと考えられる。今後、医療費が高齢化によって再び増加へ向かう蓋然性は高いが、医療費効率化に向けた取り組みが一定の成果を挙げていることは確かだろう。
●GDP統計において2016年度の政府消費(名目)が前年度比0.0%と、近年の推移に比べて明確に鈍化した(2017年1-3月期2次QE時点)。医療の保険給付分が含まれる項目であり、医療費増加の一服が影響していると考えられる。
2016年度の医療費は減少した可能性
9月にも公表される見込みの2016年度の概算医療費が、14年ぶりの減少となった可能性がある。既公表分の概算医療費や社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険中央会などの統計を用いて試算した結果だ。資料1で示すとおり、2016年度の概算医療費額は41.3兆円前後と2015年度の41.5兆円から僅かながら減少したものと見込まれる。仮に増加したとしても、微増に留まるだろう。
「調剤医療費」が減少
2016年度の医療費のうち既に2016年度分が公表されている国民健康保険分(概算医療費全体に占めるシェア:29%)と後期高齢者医療制度分(同:37%)について、種類別に医療費の変化幅をみたものが資料2だ。ともに今回減少に転じているのが「調剤医療費」(=薬やその調合にかかる医療費)である。
2016年度の診療報酬改定において、薬価は▲1.2%の引き下げとなっている。また、2016年4月以降は過剰投薬の抑制を主な目的に、かかりつけ薬剤師制度や「お薬手帳」制度(過去の処方箋履歴を持参した場合に1回あたりの薬代が安くなる)がスタートした。政府が医療費抑制のために促進している後発医薬品(ジェネリック医薬品)についても、2016年度の数量シェアは65.5%(日本ジェネリック製薬協会公表の速報値(2017.6.29)。数量シェア=(後発医薬品)/(後発医薬品+後発医薬品のある先発医薬品))(前年度59.5%)と上昇傾向にあり、2017 年央に70%、2020 年度までの早い時期に80%を目指す政府目標に近づいている。こうした政策の効果が複合的に顕れたものと考えられる。今後の医療費が高齢化の進展とともに再び増加へ向かう蓋然性は高いものの、その増加を抑制したという意味で、医療費効率化に向けた取り組みが一定の成果を挙げていることは確かであろう。
2018 年度は2年に一度の診療報酬改定と3年に一度の介護報酬改定が重なるダブル改定の年だ。今年の年末にかけて行われる2018 年度予算編成において、その内容が詰められていくことになる。6月に公表された骨太方針では歳出額の伸びを抑える目標の継続が明示されており、社会保障費は削減方向での議論が予想される。その内容に注目が集まることとなろう。
GDPにも影響か
内閣府のGDP統計において、2016 年度の政府消費(名目)は前年度比0.0%と、近年の推移に比べて明確に鈍化している(2017 年 1-3 月期2次QE時点)。
政府消費が毎年増加してきたのは、主に医療介護費の政府給付分を中心とした「現物社会移転」が高齢化の中で増加し続けてきたためであった。2016 年度の政府消費の具体的な内訳は今年12 月頃に公表される年次推計値の公表までわからないが、今回の医療費の増加一服は、政府消費を通じてGDP統計にも影響を与えていると考えられる。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 副主任エコノミスト 星野 卓也