要旨

●失業率が2.8%と94年以来の低水準になった。しかし、性別・年齢階級別にみると、改善幅に濃淡がある。改善が遅れているのは25-54歳男性で、特に遅れている35-44歳男性の失業率水準は全体の失業率が4.7%だった2000年の水準程度と、雇用の回復を実感しにくい状況になっている。

●25-54歳の男性失業者では半数以上が失業期間が1年以上となっている。同世代の8割の失業者が正規雇用の職を希望しており、雇用形態によるミスマッチの深刻化が雇用改善を抑制している。

●同世代では不本意非正規雇用者も多い。男性不本意非正規雇用者は146万人にもおよび、改善ペースも鈍い。35歳以上の広義の失業率は、昨今の労働市場改善の中でもあまり改善が見られない。

●25-54歳男性の雇用環境改善は、雇用形態ミスマッチの解消が必要だ。短期的には新卒以外にも正規雇用の道を開くことが必要だ。長期的には、正規非正規の壁が無くなり、非正規でも安定した所得環境を得られる労働市場作りが求められる。こうした対応は消費や少子化対策としても有効だ。

失業率は94年を割り込んでいく見通し

 失業率がとうとう3%を割り込んだ。失業率は2、3月と連続で2.8%となり、労働市場の好調さや逼迫度合いの高さを見せつける結果となった。2.8%という水準はバブルの残り香が労働市場にはまだあった94年度以来の低水準となる。

 日本経済研究センターが取りまとめているESPフォーキャストによれば、2017年度の失業率見通しのコンセンサスは2.8%、18年度は2.7%となっており、16年度の3.0%から一段と下がる見通しとなっている(図表1)。予測通りとなれば、失業率は94年度の水準を割り込んでいくことになる。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

 このように人口減少下での景気拡大に伴い失業率はすでに構造的失業率並み、もしくは下回った状況にあるにも関わらず、家計への好影響がなかなか実感されない。本稿では、94年当時と比較しながら、現在の労働市場の状況を確認し、現在の労働市場の課題を見て行きたい。

現役ど真ん中世代で低下しにくい失業率

 まずは失業者数についてみていきたい。失業者数は94年が192万人、16年が208万人といずれも200万人程度で大きな差はない。年齢.性別にみてみると、男性では15~24歳の若年層が減少した一方で、25~54歳の増加が目立つ(図表2)。また、女性では、男性同様に若年層が減少したものの、その他の世代はわずかながらも増加している。女性の失業者数増加は、女性の労働参加率上昇の副産物でもあり、必ずしも後ろ向きの評価とはならない。しかし、いわゆる働き盛りであり、現役ど真ん中である男性25~54歳の失業者数の増加は、人手不足が指摘される現況にそぐわない結果である。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、人口ボリュームの影響を除くために、失業率でみてみたい。失業率でみても、25~54 歳は94 年対比十分に低下していないことが確認できる(図表3)。失業者数の増加が目立った男性について年齢階級別にみてみると、15~24 歳、55~64 歳の失業率水準は、全体の失業率が2%台であった1992 年や1994 年以来の低水準となっている(図表4)。人手不足に伴う新卒採用活発化や定年延長の影響で、15~24 歳や55~64歳では急激に失業率が低下しているものと思われる。一方で、25~34 歳および45~54 歳の失業率水準は全体の失業率が4.1%であった1998 年の水準であり、35~44 歳に至っては全体の失業率が4.7%であった2000年の水準であり、いずれも改善こそしているものの全体の回復感に対して鈍い状況に留まっている。アベノミクス開始時にすでに就労していた者の割合が高い25~54 歳では労働市場の硬直性を前に環境変化の影響が限定的なものになり、失業率低下幅は抑制されてきたと考えられる。全体で見れば、94 年以来の好調と評価される労働市場であるが、年齢階級によって改善の濃淡はかなり異なっている。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

新卒一括採用が男性の壁に

 回復の遅れている男性失業者をより詳細にみてみると、25~54 歳では、失業期間が2年以上の長期失業者がおよそ3割を占めており、その割合は15~24 歳や55~64 歳と比較しても目立って多い(図表6)。半数以上の人が1 年以上の失業期間となっており、需要不足失業や転職待機など摩擦的失業ではなく、より根本的なミスマッチを抱えた失業者と考えられる。男性失業者に聞いた就労しない理由について年齢階級別にみてみると、全年齢で仕事の内容の不一致が多い。また、35 歳転職天井説を裏付けるかのように、35 歳以降は年齢の不一致が拡大していく(図表7)。70 歳まで現役社会を目指す中、35 歳にして年齢制限にかかるとは悲しいところである。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

 35 歳で年齢制限にかかる背景には、正規雇用における新卒一括採用が挙げられる。実際に、男性失業者の希望する雇用形態をみると、25~54 歳ではおよそ8割の人が正規雇用の職を希望している。新卒採用枠に入り込むことのできる15~24 歳や、非正規での職を探すものが半数を超える55~64 歳では、希望する雇用形態での職を見つける可能性が高い一方で、25~54 歳層では雇用形態のミスマッチが深刻化しており、そのことが同年代の失業率低下を抑制していると考えられる。

中堅男性不本意非正規雇用者82 万人の活躍推進を

 前節で問題点として浮き上がってきた雇用形態のミスマッチについてもう少し見ていきたい。雇用形態のミスマッチについては、労働者側が譲歩し非正規で就労するか、企業側が譲歩し正規で採用を行うかになる。そこで、正規雇用を希望しながらも非正規雇用についたいわゆる不本意非正規雇用者について見て行くことにする。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

 男性非正規労働者に現在の職についた理由を聞いた結果をみると、全年齢階級で「正規雇用の職がなかった」という回答が目立つ(図表8)。特に、25~54 歳で多くなっており、前節で見たのと同様に、同世代で雇用形態のミスマッチが深刻化していることが分かる。人手不足を背景に、正規登用が進む中、以前と比べるとその割合は若干低下したものの、依然ダントツのトップである。また、一口に非正規雇用といっても、契約社員からパートまで雇用形態は様々である。女性においては、比較的正規雇用に近い契約社員で「正規雇用の職がなかった」と回答した人の割合が高まるものの、パートでは「正規雇用の職がなかった」と回答した人は非常に少なく、非正規雇用者全体に不満があるわけではない。一方、男性では、現在の雇用形態が契約社員でもパートでも同様に「正規雇用の職がなかった」と回答した人の割合が高く、いわゆる不本意非正規の人数が多い。

 ここで、年齢階級別に不本意非正規と失業者を合わせた広義の失業率1を試算してみると図表9の通りとなる。2013 年以降、15~24 歳で▲5.4%pt 改善したのに対して、35~44 歳、45~54 歳では▲1%pt 程度の改善に留まっている。

 図表10 のように、失業率と不本意就業率(不本意非正規/労働力人口)をみると、15~24 歳では失業率、不本意就業率がともに大きく下がる左下がりの曲線となっている。25~34 歳では失業率こそ低下したものの、不本意就業率の低下が鈍く、同じ左下がりでも傾きはかなり緩やかになっている。35~44 歳、45~54 歳になると、失業率こそ改善したものの、不本意就業率の改善がほぼ見られないため、左方にほぼ水平方向の動きとなっている。

 25-54 歳男性の不本意非正規雇用者は2016 年に82 万人であるが、この人数は2013 年以降3年間で18 万人減少したに過ぎず、この間の労働市場改善の恩恵が届いていない。

改善遅れる男性雇用
(画像=第一生命経済研究所)

中堅男性の雇用安定対策は消費、人口減少にも好影響の公算大

 正規非正規の壁や新卒一括採用など労働市場の抱える硬直性の問題は女性就労の観点から語られることが多い。しかし、本稿で見てきたとおり、昨今の労働市場改善で最も取り残されているのは男性のど真ん中世代である。同世代の多くは、家庭との両立や健康との両立といった条件がかかる女性やシニア層と比べて、戦力の中心となるための障害要因が比較的少ない労働力だ。シニアや女性の余剰労働力が少なくなる中、25-54 歳男性では82 万人の不本意非正規雇用者や40 万人の男性1 年以上失業者がいる。彼らが十分に力を発揮できる社会に出来るかどうかも、人手不足対応への対応策となってくるのではないだろうか。

 雇用形態ミスマッチの解消には、非正規雇用者の正規登用を拡充し、新卒者以外にも正規雇用者への道を開くことが必要だ。非正規雇用者からの正規登用が浸透すれば、まずは非正規での就労をとなり、失業から就労への架け橋となるだろう。企業にとっても、非正規期間を経ての正規登用はリスクが少なく、受け入れやすいと考える。もちろん、長期的には正規・非正規間の待遇格差を縮小し、同一労働同一賃金が実現する柔軟な労働市場の構築が重要であるが、非正規雇用から正規登用への門戸拡大はこうした長期的なゴールに繋がるだろう。

 また、改善の遅れている25~54 歳男性は、世帯主であることが多い。こうした世代の雇用回復の遅れが家計部門への好影響波及を阻害している可能性も指摘できる。昨今、家計の将来不安を背景にした節約志向の強まりが消費を抑制しているが、こうした世代で安定した正規雇用での就業が増えれば将来不安の軽減にも繋がり、消費への好影響も大きくなることが期待される。さらに、所得基盤の安定は、未婚化、少子化の対策としても非常に有効であり、人口減少・少子高齢化の対策にもなるだろう。人口減少は今後も解消しない中、人手不足への対応としても、消費や人口減少への対応としても、本丸である男性労働者への働きかけが急務となろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主任エコノミスト 柵山 順子