人口の減少率は、自然減でみると、少し大きくなる。ここには外国人の流入要因が加わると減少幅が小さくなる作用がある。目下、外国人労働力は増加しているが、新興国がさらに豊かになると日本へ来ることを敬遠するかもしれない。また、人口減が国内投資を細らせている問題も規制改革で変えていかねばならない。
人口減をどうみるか
日本の人口はどうなっているのか。毎年10月1日が定点観測のタイミングとなり、直近の人口推計2016年は1億2,693万人と前年(1億2,709万人)よりも▲16.2万人減少している。筆者が目を留めたのは、自然減▲29.6万人に対して、社会増が+13.4万人になっている点である。この社会増は、2013年から4年連続となっている。2013年+1.4万人、2014年+3.6万人、2015年+9.4万人、2016年+13.4万人と加速度的にプラス幅を広げている(図表1)。海外からの人口流入が日本の人口減に歯止めをかけているのかと驚いた。
しかし、社会増減とは、日本に3ヶ月超で滞在している入国者と出国者の差分である。これがすべて定住者とは限らない。一時的に入国超になっている人数をカウントしている可能性もある。だから、日本の人口動態を語るときは、自然増減の方がしっかりした数字だと考えられる。総人口の推移を調べると、2011年▲0.20%、2012年▲0.22%、2013年▲0.17%、2014年▲0.17%、2015年▲0.11%、2016年▲0.13%であった。このペースは、国立社会保障・人口問題研究所が2012年に行った中位推計に沿って計算された予想よりはマイルドである(2015年▲0.20%、2016年▲0.24%)。細かく見れば、2016年の実績は中位推計と比べて出生数が+8.5%予想比上振れしていて、死亡者数が▲2.8%少なかった。新しい2017年の中位推計に基づくと、2020年前後には年▲0.36%まで減少ペースが加速するとみられている。2020年の自然減は人口比▲0.41%なので、総人口ベースでは社会増によって+0.05%ポイント(6万人)ほど人口減が緩和される想定である。もっとも、外国人の流入が上振れすることによって、総人口のマイナス幅が縮小する可能性が十分にある。
増加する外国人労働力
短期滞在を含めた入出国者数は、この数年間で急増している。2013暦年の入国者数は前年比3.9%増となり、2014年8.3%増、2015年15.7%増、2016年12.1%増と増えている。入国者の絶対数が増えたことに伴い、日本に一時滞在する人数も増えている。2016暦年は、入国者数4,048万人に対して流入超17.4万人である。この入国者の中には外国人も日本人もいる。日本人は▲2.8万人の出国超で、外国人が+20.3万人の入国超である。外国人の入国超は、5年連続であり、プラス幅は高原状態である。
この外国人の急増は最近の特徴であるが、その大部分が短期滞在である。法務省「出入国管理統計年報」を使って調べると、短期滞在は入国者の実に98%を占め、わずか2%が長期滞在になる。短期滞在以外の人数は、2011年26.7万人、2012年30.3万人、2013年30.6万人、2014年33.6万人、2015年39.1万人となっている。入国者の側の内訳は、技能実習と技能・人文知識・国際業務が11.5万人、留学10.0万人、興業3.7万人が主になっている※。
※この短期滞在以外の人数は、片道の入国者数。
ここには、人手不足に苦しむ国内企業が外国人労働力に活路を見出そうとしている姿が反映されている。留学生は、相手先の希望もあろうが、国内の大学・大学院が定員不足を何とか補おうと海外から呼び込んでいることがある。国内の需給アンバランスが、外国人の流入で補われている格好である。国別にみると、ベトナムからの流入が実習、留学の内訳では共に急増している。一方で、最も多かった中国は増加ペースが頭打ちになって、ベトナムが急速に増えている。実習、留学ともに中国とベトナムが大部分を占めている。日本にやって来る外国人の流れには波があって、1990~2005 年位まではブラジル人が流入していた(図表2)。当時、東海地区にはブラジル人が多く、製造業に従事していた。ところが、最近はすっかり影をひそめている。事情を聞くと、一時ブラジル本国の方が景気がよくて日本を離れる者が多かったという。残っているのは、日本で住宅を購入して住宅ローンが残っている者だという話もあった。2000~2010 年には中国人が増える。これも中国が豊かになって頭打ちになった。ベトナムも経済発展すれば、日本に向かう流れが弱まるのだろうか。在留外国人数の推移に注目すると、2007 年に200 万人を超えて、2015 年末は223.2 万人である(図表3)。
総人口に対しては、まだ1.76%のウェイトに過ぎない。これはストックベースの数字である。ストックの在留外国人の変化は、2012 年▲4.0 万人、2013 年+3.3 万人、2014 年+5.5 万人、2015 年+11.0 万人と加速している。この中には、外国人労働者の家族も含まれている。この数字は、中長期在留者数の変化である。冒頭、人口統計の社会増について、一時的な外国人の流入とし指摘したが、法務省「在留外国人統計」を使うと、先にみた社会増と在留外国人の増加※※は少し食い違っている面はある。
※※総務省の人口統計は毎年10月で区切った増減、法務省の方は年末で区切っているという違いがある。
人口減少問題を外国人流入で解決できるか
しばしば人口減少社会の潮流は移民によって歯止めをかけられるという提言がみられる。筆者は、欧米の世論における移民政策への反発を考えると、そう簡単に議論はできないと思える。移民の発想は専ら労働力不足に対する対処法として考えられているところに問題がある。例えば、彼らが定住する生活者として従来の日本人と異なる権利を要求し始めたとき、政治的にどう対応するのか。参政権や定住地域へのインフラ投資の要請、宗教問題などが浮上してくるだろう。これらは簡単には解決できないだろう。
筆者はそうした問題には深入りせずに、経済的側面で検討したい。日本人の1 人当たり生産性を上げずに、低賃金労働力の確保ばかりに重点を置くと、新興国が豊かになっていく流れの中では外国人は日本に来てくれなくなるだろう。
すでに、外国人に依存する企業では、他の日本企業からより高い賃金をオファーされて、外国人の人材を引き抜かれることが頻繁に起こっているという。やはり、確保したと思っている労働力に対して、待遇を向上させていく努力をしなくてはいけないということだ。
もうひとつ、日本の人口減少は、内需の空洞化の未来として捉えられる。つまり、将来の日本の成長率が右肩下がりになるという強い予想が存在する点だ。移民によって日本の期待成長率が上向くとは思えない。むしろ、企業がグローバル化して、日本市場がシナジー効果によって拡大するという確信をつくることが、根強くある下方成長の神話を変えていく。そのためには、まずグローバル化すると、国内よりも海外へと向かっていく投資を変える必要がある。
今はまったく聞かなくなったが、日本の規制を海外並みに緩和していこうという目的で国際先端テストがアベノミクスの最初にはクローズアップされていた。最近は、国際先端テストは存在感を消してしまい、規制緩和を進めようという働きかけも小さくなった。グローバル化する日本企業が国内へと投資を回帰させるには、もっと大胆に規制改革を進める必要があるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 熊野英生