要旨

●人手不足の深まる産業において、存在感を高めてきたのが外国人労働者である。近年急増しているのは外国人留学生の労働者であり、特に卸小売業や宿泊飲食サービス業において大幅に増加している。

●「国内の労働集約産業における人手不足」と「学費の工面や日本・新興国間の賃金差を目的とした出稼ぎニーズ」がマッチしたことで、外国人労働者は飛躍的に増加している。日本の最低賃金を近年急増している「ベトナム」の最低賃金で除した値は21.1 倍に上り、日本で働く大きな誘因となっている。

●ただし、単純労働者の不足を外国人に頼れる状況はいつまでも続くとは限らない。出稼ぎ労働のインセンティブである他国との賃金差は、新興国の賃金水準の上昇に従って縮小していくからだ。現在は外国人労働者が人手不足産業における雇用の担い手になっているが、企業が低賃金労働者に依存しない事業体系への移行を迫られている点は変わらない。

既に+10 万人/年ペースで増加する外国人労働者

 人手不足環境下で、近年際立っているのが外国人労働者の増加である。外国人労働者数は2012 年時点の68.2 万人から、直近調査の2016 年時点では108.3 万人と、この間+40.1 万人増加している。

 総務省「労働力調査」によれば、国内の就業者数は2016 年平均値で6,465 万人であり、ここから計算される外国人労働者比率は1.7%程度とわずかだ。だが、2012 年から2016 年の外国人労働者の増分(+40.1 万人)は就業者全体の増分(+185 万人)の21.7%に上る。この間の就業者数の増加は、医療・福祉業を中心に女性就業者数が+152 万人増加したことの影響が最も大きいが、外国人労働者の増加も相応の規模感にあったことが確認できる(総務省「労働力調査」は、外国政府の外交使節団,領事機関の構成員(随員を含む。)及びその家族,外国軍隊の軍人・軍属(その家族を含む。)を除いた国内に居住する全ての世帯を対象としている。世帯ごとに調査票を配布する標本調査であるため「外国人の非回答割合が多い」などのサンプルバイアスが生じている可能性はあるが、定義上は国内に居住する外国人労働者を含んだ調査である)。

人手不足が変える日本経済②
(画像=第一生命経済研究所)

 在留資格別にみてみると、「留学」が+11.6 万人とトップ、「身分に基づく在留資格」が+9.4 万人、「技能実習」が+8.1 万人、高度人材と認定された労働者などが含まれる「専門技術的分野の在留資格」が+8.0 万人となっている。国別に見ると、「ベトナム」が+14.5 万人と突出しているほか、「フィリピン」+5.5 万人、「中国」+4.8 万人、「ネパール」+4.4 万人の増加が大きい。

留学生、技能実習生がマンパワーの不足を補う

 特に近年際立って増加しているのが、外国人留学生の就労増である。外国人留学生は、とりわけ人手不足の深刻な宿泊飲食サービス業、卸小売業の雇用下支えに貢献してきた(資料2)。数値を確認すると、「外国人留学生の就労率が高まっていること」、「外国人留学生そのものが増えていること」の両者が増加要因となっている。日本学生支援機構調査によれば、2016年5月時点の外国人留学生数は23.9 万人に上り、年々増加している(資料3)。日本への留学が増加している要因としては、東南アジア等における経済発展に伴い、留学の初期費用を支払うことができる家計が増加していることや、日本の高いレベルの教育を希望する学生が増加していること、留学中のアルバイトに対する規制が比較的緩く(週28 時間まで)、学費を留学先で稼ぎやすい国であること等が考えられる。

人手不足が変える日本経済②
(画像=第一生命経済研究所)

 技能実習生は、主に製造業と建設業での就労者が多数を占めている。国際研修協力機構の業務統計で、職種別の技能実習第2号への移行申請者数(技能実習は、職務に就くための技能検定に合格する前の第1号技能実習と、合格後の第2号技能実習に大別される)をみたものが資料4だ。2015 年をみると、衣服の製造や溶接工、耕種農業の値がとくに大きい。建設業でも、とびや塗装などの建設技能労働者の数が多くなっている。専門・技術分野の労働者数は情報通信業に所属者数が多く、企業がIT スキルの高い外国人材を積極的に採用していることがわかる。

人手不足が変える日本経済②
(画像=第一生命経済研究所)

「低コスト」要因として扱うだけでは、いずれ日本は見限られる

 このように、外国人労働者は様々な分野で存在感を高めている。特に単純労働や肉体労働に従事する外国人留学生や技能実習生は近年大きく増加しており、国内の人手不足産業を支える担い手となっている。ここには、サービス業、小売業、建設業など人手不足に悩む企業と、学費の工面や技能習得、出稼ぎのために日本で働きたい外国人労働者のニーズのマッチングがある。

 日本で働く大きな動機付けとなっているのは、日本と外国の賃金差だと考えられる。資料5は「各国通貨建てでみた日本の最低賃金」を「各国の最低賃金」で除したものを「日本への出稼ぎ魅力度指数」として定義し、その推移をみたものだ。指数は「最低賃金を前提とした場合、同じ時間労働した場合に日本で働くことによって自国よりも何倍の賃金が得られるか」を示す。近年労働者が急増している「ベトナム」の値は2015年時点で21.1倍に上り、日本で働く大きな動機になっていると考えられる。

 一方で、このグラフは外国人労働者にいつまでも労働力を依存できるわけではない、ということも暗示する。新興国の賃金水準の上昇によって、出稼ぎ労働のインセンティブとなる賃金差は徐々に縮小していくことになるからだ。同指数の2005年と2015年の値を比較すると、ベトナム2005年:46.1倍→2015年:21.1倍、ネパール:30.1倍→11.7倍、フィリピン:6.6倍→3.7倍、中国:14.4倍→3.4倍とこれまでの値も明確に低下している。日本で働くことのメリットが、自国の経済成長と共に薄れていることの表れだ。アジア新興国の経済成長に伴って、外国人労働者が日本に来て働く誘因は薄れていく。

人手不足が変える日本経済②
(画像=第一生命経済研究所)

 「単純・肉体労働の人手不足は外国人に」という発想のみでは、長期的には限界が訪れよう。人手不足に直面している企業は、いずれ設備投資による省力化、ビジネスモデルの変革、販売価格の引き上げなどによって労働生産性の改善を求められることになる。国内の外国人労働者を巡る議論は、「門戸を開くか開かないか」の議論レベルにとどまっている印象も拭えない。門戸さえ開けば外国人労働者に来てもらえる状況が今後も続くとは限らないという認識で、人口減少時代をどう乗り越えていくか考えていくべきである。(提供:第一生命経済研究所

(参考文献)
志甫(2015)「外国人留学生の受入れとアルバイトに関する近年の傾向について」 日本労働雑誌 No.662 独立行政法人 労働政策研究・研修機構

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也