要旨
● 2017 年春闘の妥結状況について足元までの結果を見る限り、ベア鈍化が想定されていた事前予想対比で強く、昨年並みの賃上げが実現している。また賃上げの牽引役は製造業から非製造業に移っている。
● 企業規模間格差についてみると、昨年までの動向を踏まえると春闘における中小企業の賃上げ率は大企業を下回る結果となるだろう。非正規社員に対する待遇改善も進んでいるものの、賃上げ率は前年並みとなり、引き続き正規社員の賃上げ率を下回る見込みだ。
● 中小企業の春闘結果は期待はずれとなったが、中小企業の賃上げに悲観的になるのは早計だ。中小企業では組合のない企業が8割にのぼる。今回の想定外に堅調な春闘結果が、春闘を経ない中小企業の賃上げに繋がることが期待される。
意外と強い2017春闘
2017 春闘の妥結結果が出始めた。本年の春闘においては、4年連続となるベア実施が実現するのか、その額は前年対比どうなるのかというベアの状況に加えて、大企業と中小企業の間の規模間格差、正規と非正規の間の雇用形態間格差の縮小が実現するかどうかが注目されている。本稿では、3/24 までに連合より公表された妥結結果をもとに、賃上げ動向と格差縮小の実現性について注目していきたい。
まず、全体の賃上げ動向についてみていく。連合より公表された春闘妥結結果の2次集計によると、3月23 日までに妥結した企業の賃上げは+2.05%となり、1次集計(3月17 日)の+2.06%からほぼ横ばいとなった。前年3月24 日集計(公表日は3/25)と比べてみても、前年差▲0.05%pt(前年+2.10%)とほぼ同率にとどまった。事前の予想では、17 年春闘は16 年春闘を下回るとの予想が目立っていたが、足元までを見る限り、ほぼ前年をとらえている。妥結済み企業の割合をみても昨年を小幅上回る好調な推移となっており、事前予想に反し、昨年並みのベアが実現する可能性が出てきた。業種別の数値が公表されるのは3月31 日になるとみられ、詳細は不明ではあるものの、個社ごとの妥結結果からみると、製造業でベアが縮小する一方で、小売・流通などで賃上げが加速し、全体でみれば前年並みとなった模様だ。
春闘では大企業賃上げ率が中小企業を上回る見込み
規模間格差についてみていく。300 人未満の中小企業についてみれば、+2.00%と、1次集計(+2.06%)から低下する結果となった。前年同時期と比べると、前年差▲0.07%pt(前年+2.07%)となった。一方で、300 人以上の企業は+2.05%と1次集計(+2.06%)からほぼ横ばいであった。過去を見ると、中小企業については妥結時期の遅い企業ほど賃上げ率は低く、最終集計に向け平均妥結賃上げ率は低下する傾向にある。一方で300 人以上企業についてはすでに7割強の企業が妥結に至っており、最終集計までの変動は小さい。以上を考慮すれば、最終集計では、賃上げ率は引き続き大企業が中小企業を上回る結果になりそうだ。本春闘では、格差縮小が目標のひとつとして掲げられてきたが、その実現は難しそうだ。
雇用形態間の格差縮小も進まず
次に正規非正規間の格差縮小についてみていく。非正規社員の賃上げについては、1次集計時点(3/17)で月給・加重平均ベースで前年比+2.39%と前年同期の同+2.56%から小幅鈍化している。一方、時給ベースでの妥結結果は前年差+19.3 円と前年(同+18.9 円)をやや上回っており、総じて見れば前年並みの賃上げが実現しそうだ。ただし、正規社員の賃上げが想定よりも強く、前年並みの賃上げ(+2.0%)が実現する可能性が出てきたことを考えると、雇用形態間の規模間格差縮小は実現しない可能性が高そうだ。
注目は春闘を経ない賃上げへ
総じて見れば、2017 春闘については大企業非製造業の健闘により、想定より強い前年並みの賃上げが実現する可能性が出てきた一方で、もうひとつの目標である規模や雇用形態による格差縮小については実現しないだろう。
ただし、これをもって中小企業の賃上げペースが鈍化したとみるのは早計だ。中小企業のうち、組合がある企業の割合は2割以下に過ぎず、春闘を経ない賃上げの影響が大きいからだ。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、組合の無い中小企業でも半数は4月に賃金改定を実施しており、多くの中小企業でまさに今、2017 年度の賃上げが検討されていることになる。とすれば、今回の“想定外に”堅調な春闘結果が中小企業の賃上げに好影響を与える可能性は十分にある。労働力調査によれば、雇用者の4割が従業員数が100 人未満の中小企業に属している。中小企業で所得環境が改善すれば、消費の下支え効果は大きく、今後の動向に期待したい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主任エコノミスト 柵山 順子