要旨

● 賃金構造基本統計調査によれば、2016 年の女性の賃金水準は男性の73.0 となり、格差は過去最小となった。格差を縮小させた要因は、女性管理職比率の上昇や労働時間の差の縮小であった。

● 女性管理職比率は9.3%と過去最高となったものの、2020 年女性管理職比率30%は未達になる公算が大きい。管理職の一歩手前である係長層については、明確な増加基調が続いており、こうした層の拡大を管理職につなげられるかどうかが鍵となってくるだろう。

● 女性の勤続年数は依然男性対比短い状況が続いている。女性管理職比率上昇に向けては、就労継続支援が引き続き不可欠だ。また、足元で増えている40 代女性の正規雇用者に代表される中途採用者をいかに登用していくかが新たな課題となってくるだろう。こうした取組を通じ、公平かつ柔軟な労働市場の形成が求められる。

賃金格差は過去最小に

 平成28 年賃金構造基本統計調査が公表された。調査結果によれば、従業員10 人以上の企業における女性一般労働者の所定内給与は、男性を100 とした時に73.0 となり、前年から格差は▲0.8pt 縮小し、格差は過去最小となった(図表1)。一方で、職階別データのある従業員100 人以上企業における女性一般労働者の所定内給与は、男性を100 とした場合に74.6 と昨年(73.9)から格差が縮小、こちらも過去最小の格差となった。

男女間賃金格差は過去最低に
(画像=第一生命経済研究所)

 項目別に賃金格差の要因をみていくと、管理職比率(職階)や労働時間の差を理由とした賃金格差が縮小している(図表2)。女性管理職登用や女性就労促進策を受け、管理職登用される女性が増えてきたことを反映したものといえそうだ。ただし、管理職比率の差を要因とした賃金格差は依然9pt を超えるなど、男女間賃金格差の最大の要因となっており、一段の賃金格差縮小には女性の管理職登用は避けて通れない。また、格差要因のうち賃金構造基本調査の調査項目では説明できない部分については10 年以上ほぼ改善が見られない(図表3)。ここには明確な理由の無い男女間格差が含まれており、男女間賃金格差の根はまだまだ深い。

男女間賃金格差は過去最低に
(画像=第一生命経済研究所)

女性管理職比率目標の達成は未達の公算大

 管理職比率をみると、2016 年の課長以上役職者に占める女性の割合は9.3%と前年(8.7%)から上昇した。(図表5)ただし、昨今の取り組み強化により改善しているものの、2020 年に30%という目標にはほど遠い。現状のペースでは、2020 年に12%弱といったところであり、目標達成には毎年5%pt 占率を上げる必要がある。そのためには、毎年現状の管理職の半数程度の人数を新規に登用する必要があり、達成は不可能といえよう。

 一方で、女性管理職登用への取組強化の影響で、管理職一歩手前といえる係長の人数はここのところ明確な増加基調だ。増加ペースも加速しており、2016 年は前年比+14.4%の増加となった(図表6)。係長に占める女性比率は18.6%と、アベノミクス開始以降4%pt 上昇している。こうした層の拡大を、しっかりと管理職登用につなげていけるかどうか、働き方改革や教育の充実が求められる。

男女間賃金格差は過去最低に
(画像=第一生命経済研究所)

新たに課題となる中途採用者の取り込み

 今回の結果では、男女間賃金格差、女性管理職比率ともに改善した。こうした中、伸び悩んだものに女性の勤続年数が挙げられる。女性の勤続年数は9.3 年と前年(9.4 年)から短縮した。過去をさかのぼってみても、2001 年の8.9 年からほぼ横ばいでの推移となっている。年功賃金が色濃く残る日本において、賃金格差の縮小や管理職比率上昇には勤続年数の増加も必要となってくる。就労継続を可能とする支援は引き続き重要な課題だ。また、足元では40 代有配偶女性の正規雇用者が増加している。こうした中途採用の社員をいかに管理職登用していくかが新たな課題となってくる。

 中途採用者を取り込む枠組みの形成は、転職市場の形成につながり、女性だけでなく、男性にとっても柔軟な労働市場への一歩となる。人口減少下、労働力がより希少となる中で男女間賃金格差の是正や女性管理職登用を進め、公平な労働市場を形成することは重要だ。同時に、これらへの取組を通じて、より柔軟な労働市場を形成していくことが求められる。(提供:第一生命経済研究所

男女間賃金格差は過去最低に
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主任エコノミスト 柵山 順子