はじめに

キャッシュレス拡大のカギ
(画像=MMD研究所)

世界で普及が広がるモバイル決済だが、2025年にはキャッシュレス比率を40%に拡大し、将来的には80%を目指すと経産省が発表して注目を集めている。それでは2018年現在、消費者は電子マネーやモバイル決済に対してどのように考えているのか。

その実態を把握すべく、MMD研究所では2018年5月に全国の15~69歳を対象とした「モバイル決済 利用者・未利用者比較調査」を実施した。本調査では、「交通機関以外でモバイル決済を利用している人」、「興味はあるが利用したことがない人」を対象にした利用者/未利用者の比較だけでなく、人口20万人以上の都市を「都会」、東京を除くそれ以外の都市を「地方」として地域の差も比較できる調査となっている。

カードタイプで利用している電子マネー 都会トップは「交通系」63.6%、地方トップは「WAON」46.3%

都会在住のスマートフォンを所有する15~69歳男女3,852人、同じく地方在住の4,104人(計7,956人)を対象に、利用しているカードタイプの電子マネーを聞いたところ、何かしらのカードタイプの電子マネーを利用していると回答したのは都会で81.4%、地方で71.6%だった。

キャッシュレス拡大のカギ
(画像=MMD研究所)

都会の方が電子マネーの利用率が高いが、利用しているサービスの内訳に注目したい。カードタイプの電子マネー利用者6,071人に利用しているサービスを聞いた(ここでは上位5サービスのみ表示)。

都会では交通系電子マネーの利用が6割を超えるが、地方では4割に満たない。一方で、WAONや楽天Edyでは地方の方が利用率が高い結果となった。「その他」に書かれていたフリー回答を見ても地元スーパーが発行しているご当地の電子マネーの名前があったり、もしかすると、地方の方が生活により身近なところで電子マネーが使われているのかもしれない。

キャッシュレス拡大のカギ
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「現在モバイル決済を利用している」16.9%に拡大

スマートフォン所有者に、モバイル決済の利用状況を聞いたところ、現在利用者は16.9%だった。まだまだ普及しているとはいいがたい数字だが、以前と比べてどのくらい伸びているのか。

昨年の12月に日常で利用している決済手段を聞いたデータがある。こちらは、複数回答で利用しているものを聞いているが、「スマートフォンを利用した決済サービス」「QRコード決済」を合わせても9.4%だ。対象者や聞き方が異なるので一概には比較できないが、約半年の間に倍近くの数字にまで成長していることがわかる。

キャッシュレス拡大のカギ
(画像=MMD研究所)
キャッシュレス拡大のカギ
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モバイル決済の利用シーン トップは都会、地方ともに「コンビニエンスストア(駅以外)」

モバイル決済を利用したことがある、または興味がある都会在住の2,466人、地方在住の2,482人(計4,948人)に、モバイル決済を利用するシーン、または利用したいと思うシーンを聞いた。下のグラフでは、利用したいと思うシーン「特になし」という人を除いて集計している。

両地域ともにトップは、「コンビニエンスストア(駅以外)」となり、全体的に都会の方が利用意向が高い。では、地方で高い項目は何か。それは、「コンビニエンスストア(駅以外)」、「ショッピングモール」、「ガソリンスタンド」である。駅以外のコンビニエンスストアには面白みがないが、「ガソリンスタンド」の高さは実に興味深い。

地方の利用意向を見ると「交通機関」が低く、「ガソリンスタンド」は高い。公共交通機関を使って駅やその周辺の店舗を利用する都会と、車メインで行動し駅ビルではない大型複合施設=ショッピングモールを利用する地方という、両者の生活環境の違いを反映した結果となっているのではないだろうか。

キャッシュレス拡大
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また、モバイル決済利用者に限って利用シーンを聞くと、最も多いのは「コンビニエンスストア(駅以外)」で58.2%だった。昨年の12月に行った調査では、最も多いコンビニエンスストアでも47%と、今回の調査に比べ10ポイント以上低かった。その他の場所でも昨年と比べ、今回の方が数値が伸びているので、利用者だけではなく利用する場所も着実に増えていることがうかがえる。

キャッシュレス拡大のカギ
(画像=MMD研究所)
キャッシュレス拡大のカギ
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「キャッシュレス化に賛成」66.6%

さて、ここまでモバイル決済が増えてきたと言ってきたが、そもそも消費者はキャッシュレス化を望んでいるのだろうか。世間で現金文化が根強いが、今後も現金にこだわるのだろうか。

予備調査で、「交通機関以外でもモバイル決済を利用している」と回答した444人、「興味はあるがモバイル決済を一度も利用したことがない」と回答した523人の計967人を対象に、キャッシュレス化についての賛否を聞いた。

「キャッシュレス化に反対」「どちらかというと、キャッシュレス化に反対」を合わせた反対派は7.7%とごくわずかで、「キャッシュレス化に賛成」「どちらかというとキャッシュレス化に賛成」を合わせた賛成派は66.6%にのぼった。

 さらに、本調査で現金支払いにこだわりがあるか聞いたところ、「とてもあてはまる」「ややあてはまる」を合わせた、現金にこだわりを持つ人は20.1%にとどまった。この結果からも、現金にこだわるのではなく、むしろキャッシュレス文化を受け入れようとしている人が多いことが分かった。

キャッシュレス拡大
(画像=MMD研究所)

クラスター分析-クラスターごとに見る、モバイル決済を使い始めた/使いたい理由

本調査では、モバイル決済に関して魅力的に思うこと、性格などからクラスター分析をおこなった(クラスター分析とは、様々な性質が混在する集団から、似たもの同士を集めてグルーピングする分析手法のことで、今回は4つのグループに分けた)。

モバイル決済を使い始めた理由/使いたい理由について、コレスポンデンス分析を行いマッピングした図が以下である。項目との距離が近いほど相関が強く、アイコンについている名前は、クラスター分けする際に顕著に差が現れた項目から名付けた。

この中で、最もモバイル決済の利用率が高いのは「クラスター4:スマホ大好き好奇心旺盛タイプ」で58.2%、次いで、「クラスター1:何となく流されてみるタイプ」で55.0%だった。

社内では自分がどのクラスターになるか、と話題になっていたが、情報を扱う企業らしく「スマホ大好き好奇心旺盛タイプ」が多いように感じた。ちなみに私は「面倒くさがりなせっかちタイプ」である。モバイル決済で登録するのは面倒だし、カードタイプで使えれば十分。コンビニやファミリーレストランでは、カードタッチで決済することがほとんどだ。集計結果を見ていたが、このような性格までぴたりとデータに当てはまっていて面白かった。ここにはスペースの関係上載せられないことが残念である。 皆さんはどのタイプだろうか?

キャッシュレス拡大のカギ
(画像=MMD研究所)

支払いを現金から電子マネーやクレジットカードにしましょう、というのがキャッシュレス化であるが、皆さんは「現金を使う理由、使わない」を明確に持っているだろうか。

キャッシュレスが進んでいる国では、現金の運送コストやリスク、偽札、犯罪の防止など、様々な現金を使わない理由があった。しかし、これだけがキャッシュレス化を進めた要因ではないはずだ。

キャッシュレス先進国として知られるスウェーデンでは2015年の年間決済額のうち、現金による決済はたったの3%だそうだ。交通機関から100円の飲み物まで、ほとんどクレジットカードが使える。さらに、銀行口座を持つ7歳以上の子ども全員に対しデビットカードを発行しており、人口の97%がデビットカードを保有していることになる。子どものうちからキャッシュレスの習慣がついているのである。

ここまでキャッシュレスが進んでいるもう一つの理由は、この金融リテラシーの高さにあるのではないだろうか。日本人が子どもにクレジットカード(デビットカード)と聞いたら猛反対するかもしれない。多くは、どのような使い方をするかわからないから危険だという理由だろう。世界の国々では、小学校から金融教育があり、口座の管理を実際におこなったり、金利、投資などについて学ぶそうだ。日本ではこうした教育はほとんどされず、むしろ遠ざけられてきたように感じる。大人になって初めて、金融教育の重要性に気付く人も多いのではないだろうか。

冒頭でも触れたとおり、今後の日本でのキャッシュレス化は国が進めようとしている動きである。2020年のオリンピックや2025年の万博による訪日客対応のため、モバイル決済の利用可能店舗拡大が急務であることを考えると、一気にキャッシュレス化の動きが活発になるのではないかと期待される。この決済環境が大きく変化しようとしているいま、いかにお得に活用するか、賢く使うか、お金のことを見つめなおし勉強するいい機会なのかもしれない。現金に限ったことではなく、電子マネーも詐欺や犯罪に巻き込まれる可能性がある。自分のお金は自分で守る、また、お金を使うなら得をしたい、と私は思う。さあ、今から金融リテラシーをあげるべく勉強しよう。

執筆者:MMD研究所

※本調査レポートの百分率表示は四捨五入の丸め計算を行っており、合計しても100%とならない場合がございます。

(提供:MMD研究所