要旨

●財務省公表の一般会計決算概要によれば、2015 年度一般会計決算における税収額は56.3 兆円となった。2014 年度の54.0 兆円からは増加するが、2015 年12 月時点の見積もり額(56.4 兆円)からは下振れとなる。決算時点での下振れは7年ぶりのこと。市場環境の悪化に伴い、これまで好調に推移していた税収に変調が生じている。

●問題となるのは、参院選後に編成される見込みの経済対策の財源だ。これまで税収の上振れが補正予算の財源として活用されてきたが、今回の補正で十分な財源を確保できる見込みは薄い。経済対策の実施に当たっては財源確保が問題となることは避けられず、追加の国債発行も俎上に載ることになる。2016年度は、2013 年度以降の財政再建路線から財政拡張路線への転換年となろう。経済対策の実施に当たっては、短期的な景気浮揚策のみに傾倒するのではなく、少子化対策や労働移動にかかるセーフティネット充実等の長期的施策に財源が充てられることが望ましい。

7年ぶりの「税収下振れ」

 7月1日に、2015 年度の国の一般会計決算概要が公表された。公表資料によれば2015 年度の税収額は56.3 兆円となった。税収額は2014 年度の54.0 兆円から+2.3 兆円の増加となる一方で、15 年度税収の昨年12 月時点見積もり値(56.4 兆円)からは下振れた。税収見積もりはその性格上慎重めな値とされることが多く、近年は決算時点での上振れが続いてきたが、2008 年以来7年ぶりに下振れる形となっている。

税収の変調を示す一般会計決算
(画像=第一生命経済研究所)

 税収の補正予算編成の際の見積もり時点と決算時点の差額を税目別にみていくと、大きく下振れとなっているのは法人税であり、▲9,135億円の下振れとなっている。最大の要因は円高の進行であろう。所得税は+2,171億円の上振れとなっているが、ここ数年の同時期の上振れ額(13年度:7,458億円、14年度:9,732億円)と比較すると見劣りする。雇用所得環境は改善傾向にある中で給与所得にかかる所得税は増加したとみられる一方、市場環境の悪化に伴う株式等売買益の減少等が下押し要因になっていると推定される。その他、消費税が3,142億円の上振れ、相続税が2,074億円の上振れとなったが、法人税の下振れ分を補うには至らなかった。

 その他の歳入面では、税外収入が0.4兆円、歳出面では、国債費などにおいて1.4兆円の不用額が発生した。このうち1.5兆円が公債発行の圧縮に用いられた結果、2016年度の純剰余金は2,524億円となっている。第二次安倍政権始動後の純剰余金は2013年度:14,493億円、14年度:15,808億円と1兆円台半ばでの推移が続いてきたが、税収の増加トレンドが変調する中で純剰余金も僅少な額に留まった。市場環境の激変が、財政状況にも影を落としている。

税収の変調を示す一般会計決算
(画像=第一生命経済研究所)

財政再建路線は転換へ

 こうした税収の変調によって大きな影響を受けるのが、参院選後にも見込まれる経済対策の財源である。補正予算の財源として、①前年度の純剰余金、②当年度の税収上振れ額、③当年度の不用発生額(国債利払費の不用が中心)の大きく3つが用いられてきた。今回第二次補正についてこれらがどの程度の額になるのか考えていくと、まず①は先に見たように少額に留まっている。②についてはむしろ税収が当初見込みから下振れる可能性が濃厚だ。15年度末時点からさらに円高・株安が進展しており、景気感応度の高い法人税・所得税の当初予算見込み達成が難しい情勢にある。唯一財源が確保できそうなのが③だ。マイナス金利導入などを契機とする一連の金利低下は、利払費の縮減をもたらすことになる。筆者の試算では、6月末時点の金利環境が7月以降も続くことを前提とすると、およそ2.5兆円程度の不用額が16年度通年で発生する。このうち、7,780億円は第一次補正予算において熊本地震の復興財源として充てられている。結果、第二次補正予算編成時点で確保できる財源は、多く見積もって2兆円になるとみている。今後更に金利低下が進めば話は変わってくるが、いずれにせよ経済対策として見込まれている額である5~15兆円の財源としては不十分だ。財源確保の方法が問題となることは必至であり、追加の国債発行も俎上に載ることとなろう。

 2013年度以降の安倍政権下では、消費税率8%への引き上げ、補正予算の規模縮減などを通じた財政緊縮路線が取られてきた。2016年度は消費税率再引き上げ見送り、補正予算の規模再拡大と、財政拡張路線への転換が明確になろう。緊縮路線一辺倒では景気の腰折れによって財政再建が覚束なくなってしまう点に鑑みれば、政府の掲げる「経済再生なくして財政再建なし」の理念に異論はない。しかし、景気浮揚のための財政政策も中身が肝心だ。同じ財政政策でも、短期的な景気浮揚策ではなく、少子化対策や労働移動におけるセーフティネットの充実、生産性の高い公共投資などに重点配分することで、より長期的視点の経済政策に重点を置くことが必要ではないか。(提供:第一生命経済研究所

税収の変調を示す一般会計決算
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也