6月の会合 は、追加緩和 が行われず、円高 が一時的 に 1ドル 103円台まで進んでしまった 。FRBが利上 げを思う ように進められず、日銀 もその煽りを受けて円高 圧力 にさらされている状況 にある。目先 の英国 のEU離脱 問題 で、 日銀 が静観 を決めたことで、為替 市場 はどこまで円高 に進めるのかを試しにかかって いるように見える。

円高との戦い

 6月の決定会合は、現状維持となった。6月23日に英国のEU離脱の国民投票を控えて、為替が円高に向かいやすい流れにある。事前に、日銀の追加緩和予想はほとんどなかったように思えるが、やはり日銀が現状維持を決めると、ドル円レートには円高圧力が働いた。決定会合直後は1ドル103円台に突入するなど、5月初のレベルを抜いてさらに円高が進む動きになった。筆者は、総裁会見で、円高をけん制する発言をすると思ったが、会見を見る限りは穏当なものだった。円高進行は「物価上昇率2%の達成に好ましくない」というくらいであった。今回の日銀の決定は、ひとまず英国の国民投票の結果を見極めたいというものだろう。仮にEU離脱とな って予想外の円高に見舞われたときには、EU離脱から1ヶ月程度が経過した後にはなるが、7月末の会合で追加緩和に動かざるを得なくなる。現時点では、米国から通貨切り下げ競争をけん制する縛りが強いとしても、為替レートが誰が見ても行き過ぎた円高になれば、けん制効果を振り払ってでも、追加緩和に踏み切る大義名分が立つ。もっとも、超円高を待ってから追加緩和をするのでは、円安圧力は限定的にならざるを得ない。だから、人によっては日銀には先手先手で動いて欲しいという期待感を持っているのだろう。そうした先手を打たなくなっているところに、黒田総裁の神通力が落ちた原因があるように思える。

FRBとの一蓮托生

 日銀が逆境にある理由は、FRBの利上げがうまく進まなくなっているからだ。もともと年8回の日銀会合の日程は、FOMCと重ねてあるように見える。ここには日銀がFRBの利上げに合わせて追加緩和を打てば、ドル高・円安圧力を相乗効果で働かせやすく出来るという思惑が隠れている。反面、FRBの利上げが順調ではなくなったときは、しっぺ返しのように日銀は円高圧力を我慢しなくてはいけない状況に追い込まれる。今はまさにそうした逆境なのだ。

 FRBの利上げは2015年12月に1回目が行われて、すでに半年間も2度目の利上げに動けずにいる。利上げが1回で頓挫することになれば、FRBの歴史でも類をみない出来事になる。日銀は、逆境も一緒に背負い込んでしまったところに芽はあった。

 では、FRBが 9~12 月のどこかで利上げに踏み切れば、日銀に自由度が生まれるのか。6~8月までは円高基調のままで動けずに様子見をするしかないだろう。恐らく、秋になれば安倍政権は大型補正予算を用意して景気重視の構えを強める。日銀にもここで歩調を合わせて欲しいと考えるだろう。一方、米国からは余計にドル高圧力を働かせて欲しくないという意向が、利上げの前後、あるいは米大統領選挙のときに強まっていく。日銀にとっては、次なる局面もまた「いばらの道」になりそうだ。

マイナス金利

 日銀が逆境にあるもう一つの理由は、マイナス金利政策を止めるに止められなくなっていくことにある。筆者は、マイナス金利政策を前向きに評価する声を全く聞かない。特に、金融機関からは強い批判がある。総裁会見では、またもや「銀行収益への直接的な影響は限定的 であり」、「2015年度の銀行決算はかなり高収益」という大本営発表 が繰り返された。必要だという意見の多い消費税率の引き上げが先送りされて、必要だという意見がないマイナス金利政策がこのまま2019年10月まで続くとすれば、これほど矛盾した話はない。日銀が長期金利の機能を働かないようにしたから、長期金利上昇を警戒することなく安倍政権が増税延期を決めることができたという批判は多く見られる。

 6月の会合は、増税延期が決定されてから初めての会合になる。筆者は、マイナス金利政策をここで撤回するワンチャンスがあったと考えていた。それがなかったことで、かえってマイナス金利政策が少なくとも2019年10月まで続くのではないかという見方が強まっている。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生