要旨

●消費税率引き上げの再先送り観測が高まっている。仮に先送りが決定した場合、問題となるのは昨年掲げた財政再建計画との整合性だ。先送りを実施すれば、2018年度の中間目標への影響は不可避だが、2年以内の先送りであれば(2019年度までに10%への引き上げが実施されれば)、20年度黒字化目標への影響は現状から概ねニュートラルである。

●増税先送りが選択される場合でも、歳出効率化のほか、短期的な財政政策のみでなく労働市場改革をはじめとする成長戦略に徹底して取り組み、長期的な潜在成長率の底上げを目指すことが欠かせない。それは、長い目で見れば税収増加などを通じて、財政再建にも資することになるはずだ。

2年以内の先送りであれば、PB目標には概ねニュートラル

 消費税率引き上げの先送り観測が高まっている。実際に先送りが決定した場合、問題になると考えられるのは2015年6月に示された政府の「財政再建計画」との整合性である。政府の財政再建計画に示された定量的な目標値は大きく3つある。①2020年度のプライマリーバランス黒字化すること、②その中間目標として、2018年度までにプライマリーバランスの赤字額を名目GDP比1%まで縮減すること、③中間目標の実現のため、2016年度~2018年度の一般歳出(国債費・地方交付税交付金を除いた政策経費)を「3年間で1.6兆円の伸びに留める」こと、である。

消費増税再先送り時の財政再建目標を考える
(画像=第一生命経済研究所)

 消費税率を引き上げた場合、引き上げ時期と納税時期にズレが生じることから、初年度の増収額は小さくなる。具体的には、事業者の課税期間の開始時期と消費税率の引き上げ開始時期(4月)が必ずしも一致しないこと、地方分が一旦国を経由して納税されることで、税率引き上げ時期とその納税時期にタイムラグが生じることが影響する。こうした影響は、過去の税率引き上げ時の推移を参考にすると、概ね税率引き上げの翌年度には平年度化する(税率引き上げの効果がフルに出るようになる)と考えられる(政府の「中長期の経済財政に関する試算」でも、2017年4月の消費税引き上げによる効果が2018年度まで段階的に発生すると想定している)(資料2)。

 この影響を踏まえつつ、消費税率引き上げを先送りした場合のプライマリーバランスへの影響を、政府試算をベースに図示したものが資料3だ。2017 年度(平年度化は18 年度)の消費税率引き上げが1年でも先送りされると18 年度収支に減収圧力がかかり、中間目標の達成が遠のくことがわかる。一方で、20 年度の黒字化目標に関しては、2年の先送りまでであれば、2020 年度に設定されているプライマリーバランス黒字化への影響はほとんど生じない。実際の平年度化の時期は納税状況などに左右される点に留意が必要だが、2019 年度までの先送りであれば黒字化目標への影響は現時点からニュートラルなものになると推定される(2020年度単年度の収支(フロー)についてはこうした結論になるが、債務残高(ストック)は、増税先送りによって財政赤字の大きい年度が増える分増加することになる)。

消費増税再先送り時の財政再建目標を考える
(画像=第一生命経済研究所)
消費増税再先送り時の財政再建目標を考える
(画像=第一生命経済研究所)

「成長重視」の徹底を

 なお、政府は半年おきに「中長期の経済財政に関する試算」を公表、従来から「2020年度のPB黒字化目標は達成できない」という結論を示していた。当然、この点は増税が先送りされた場合でも変わらないだろう。

 ただ、政府見通しの将来収支の予測自体は、これまで改訂の度に改善してきた(政府試算は半年おきに公表されてきたが、政府のメインシナリオである「経済再生ケース」における2020年度のプライマリーバランス(対GDP比)は、2013年8月:▲2.0%、2014年1月:▲1.9%、2014年7月:▲1.8%、2015年2月:▲1.6%、2015年7月:▲1.0%、2016年1月:▲1.1%となっており、改訂の度に改善する傾向にある。なお、2016年1月試算の収支が悪化したのは、軽減税率導入の影響を織り込んだことによる)。これは、個人・企業所得の増加や歳出抑制努力によって、歳入・歳出の実績が試算よりも改善(歳入は上振れ、歳出は下振れ)し、予測の発射台が変わったことによる。政府が消費税率引き上げを先送り、「成長優先路線」を選択する場合には、こうした傾向を持続させることを通じて財政再建を進めていくことが求められよう。そのためには、歳出の効率化は勿論のこと、短期的な景気浮揚策のみでなく、労働市場改革をはじめとする成長戦略に徹底して取り組み、長期的な潜在成長率の底上げを目指すことが欠かせない。それは、税収の増加などを通じて、財政再建に資することにもなるはずだ。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也