1.不動産を譲渡した場合に課せられる税金の計算方法の概略
相続により取得した不動産(土地・建物)を譲渡した場合、どのぐらいの税金がかかるのか、気になるところだと思います。
不動産を譲渡した場合、その譲渡益に対して所得税や住民税が課されることがあります。
その場合の計算式は、次のようになります。
税額=課税譲渡所得(※1)×税率
この課税譲渡所得(※1)は、不動産を譲渡した場合の、譲渡価額そのものではないことに注意して下さい。課税譲渡所得については、次のような計算によって求めることになります。
課税譲渡所得(※1) = 譲渡所得(※2) - 特別控除(※3)
特別控除(※3)には、例えば、居住用の3,000万円特別控除の特例があります。これは、居住用財産(いわゆるマイホーム)を譲渡することで譲渡益が生じた場合に、一定の要件を充たせば譲渡所得から最高3,000万円までを特別に控除できるというものです。
そして、譲渡所得(※2)も、譲渡価額そのものではなく、次のような計算によって求めます。
譲渡所得(※2) = 譲渡収入金額(※4) - ( 取得費※5 + 譲渡費用※6 )
この譲渡収入金額(※4)とは、主に不動産(土地・建物)を譲渡した場合の譲渡価額のことです。そして、譲渡収入金額には、譲渡価額だけではなく、固定資産税・都市計画税の清算金も含まれます。
また、譲渡費用(※6)とは、土地建物を売却するために直接必要となった費用のことです。具体的には、主に、次のようなものが譲渡費用に含まれます。
・土地建物を売却するために支払った仲介手数料
・印紙税で売主が負担したもの
・貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
・土地などを売るためにその上の建物を取り壊した時の取り壊し費用とその建物の損失額
・既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために支払った違約金
・借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
このように、譲渡費用(※6)とは、土地建物を売却するために直接必要となった費用をいいます。
したがって、修繕費や固定資産税など、その資産の維持や管理のために必要となった費用や売却代金の取立費用などは譲渡費用には含まれません。(引用元:国税庁HP№3255「譲渡費用となるもの」)
あとは取得費(※5)を把握できれば、不動産を譲渡した場合の税額を計算することができることになります。
ただ、譲渡収入金額や譲渡費用については、不動産を譲渡した時点で発生した金額であることから正確に把握できるのに対して、取得費は、過去の費用であることから正確に把握できないことがあり、取得費の把握がよく問題となります。
2.取得費とは(実額法)
そもそも、取得費とは、どのような費用のことを指すのでしょうか。
取得費には、売却した土地建物を取得した際の価額(購入価額)、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれます。
なお、建物は時とともに減価するので、建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
これらの他、主に、次のようなものが取得費に含まれます。なお、事業所得などの必要経費に算入された費用については、取得費に含まれません。
・土地や建物を購入(贈与、相続又は遺贈による取得も含みます。)したときに納めた登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税
なお、業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません。
・借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料
・土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
・土地の取得に際して支払った土地の測量費
・所有権などを確保するために要した訴訟費用
これは、例えば所有者について争いのある土地を購入した後、紛争を解決して土地を自分のものにした場合に、それまでにかかった訴訟費用のことをいいます。なお、相続財産である土地を遺産分割するためにかかった訴訟費用等は、取得費になりません。
・建物付の土地を購入して、その後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
・土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
・既に締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金
(引用元:国税庁HP№3252「取得費となるもの」)
3.不動産の取得価額が不明な場合の取得費の算出方法(概算法)
上記のように、取得費は、原則として土地建物を取得した価額や建築した価額とします。しかし、売却した土地建物が先祖伝来のものであるとか、取得した時期が古い場合には売買契約書や建築請負契約書などの書類が保管されておらず、不動産の取得価額や建築価額が不明な場合もあります。
このように不動産の取得価額が不明な場合の取得費については、以下の計算式によることができます。
譲渡収入金額 × 5% (概算法)
例えば、1億円で売却した不動産の取得価額が不明な場合、概算法による取得費は、次のようになります。
概算取得費=譲渡収入金額 × 5%
=1億円 × 5%
=500万円
この場合の、譲渡費用が仲介手数料など200万円だとします。とすれば、課税譲渡所得は、次のようになります。
課税譲渡所得=譲渡収入金額-( 取得費 + 譲渡費用 )
=1億円 - (500万円 + 200万円)
=9300万円
仮に、この不動産を7000万円で取得して、1億円で売却した場合を考えれば(課税譲渡所得が2800万円になる)、概算取得費を用いると、いかに課税譲渡所得が大きくなるかが分かると思います。
このように、同じ売却行為であるにもかかわらず、取得費が分かっている場合には税金を支払わず、他方、取得費が不明の場合には税金を支払うというようなことも起こりかねません。取得費を算定する際には、下記のような調査をして、取得費を算定する事となります。
①不動産購入金額が記載された売買契約書がないかを探す。
②不動産登記簿から取得年月日を推定し、購入時の標準的な建築価額などを調べる。
このような調査をした上で、概算取得費の計算をするかを検討することとなります。
4.取得費に関する最近の裁判所の判断事例
(1)裁判所の結論(平成29年12年13日東裁(所)平29第64号)
相続により取得した土地を売却する際に、その土地の取得費をいくらにするかに関する裁決が平成29年12月に出ました。この裁決は、売主である宅建業者が保存していた約50年前の土地台帳の信頼性を認めた上で、その土地台帳に記載されていた売買代金を取得費と認定し、取得費について概算取得費を用いた原処分庁による所得税更正処分の一部を取り消しました。
(2)どのような事案だったのか
請求人の父が宅建業者から取得した本件土地を、請求人が父から相続し、その後、売却しました。そして、この売却に際しての譲渡所得を計算するにあたり、取得費をいくらと考えるかが争点となりました。
原処分庁は、本件土地の取得に要した実額が不明であることから、取得費は概算取得費によるべきであると主張しました。
これに対して、請求人は、請求人の父が取得した時点での本件土地周辺の地価公示価格から推計した取得費を採用すべきであると反論しました。
国税不服審判所は、その請求人の父に本件土地を売却した宅建業者が作成した「土地台帳」と題する書面の存在が認められるとしたうえで、その土地台帳の記載内容の信用性が極めて高いことから、その記載通りの事実を認めるのが相当であるとしました。
そして、当該土地台帳に記載された本件土地に係る売買代金が概算取得費を超えることから、概算取得費を本件土地の取得費と認めることは納税者の利益に反することとなり相当ではないと判断した上で、概算取得費を採用した原処分庁の所得税更正処分の一部を取り消しました。
(3)まとめ
本件により、相続土地の取得費について、仮に、売買契約書等を紛失している場合であったとしても、宅建業者が保存する書面により把握するという手段があることが示されたといえるでしょう。
(提供:チェスターNEWS)