●社会貢献意識の高まり~「エシカル消費」「サスティナビリティ」など社会や環境への配慮、貢献意識
モノの所有から利用へという意識には、社会貢献意識の高まりも影響しているだろう。
温暖化や大気汚染など地球規模の諸問題が増える中で、2010年頃から「エシカル消費」(5)というキーワードがあがっている。エシカル(ethical)とは「倫理的な、道徳的な」という意味であり、従来のようにコストパフォーマンスばかりを重視するのではなく、地球環境や社会貢献など幅広い効用を求める消費態度のことだ。
また、最近では「サスティナビリティ(持続可能性)」というキーワードもある(6)。やはり、環境問題などが深刻化する中で、社会の持続可能性を意識した商品開発や消費を行うものだ。これらの流れで、オーガニック(有機栽培)やエコロジー、フェアトレード(公正貿易:発展途上国で作られたものを適切な価格で取引すること)など、社会や環境に配慮した商品への注目が高まっている。
日本では、近年、社会貢献意識は高水準で推移している。内閣府「社会意識に関する世論調査」によると、「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っているか」という問いについて「思っている」と答える割合は、1992年以降、おおむね6割を超える(図表8)。2011年3月の東日本大震災をはじめ、日本では災害が相次いでいる。震災後、被災地のものを積極的に購入するような復興を支援する消費行動が見られたが、「自分でできる範囲で貢献したい」という意識は恒常的なものになりつつあるのではないか。
シェアリングサービスは貢献意識を実現する手段として非常に有意義だ。先のフリマアプリを利用する販売側の理由では「物の有効活用」も上位にあがっていた。シェアリングサービスを利用すれば、自分ではもう使わないモノや使っていないスペースを、手軽に誰かの役に立てることができる。
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(5)消費者庁「『倫理的消費(エシカル消費)』普及・啓発活動」など
(6)環境省「環境報告書」や文部科学省「日本ユネスコ国内委員会 サステナビリティ・サイエンスの概要と最近の動きについて」、一般社団法人サスティナビリティ消費者会議など
暮らし方の変化~人口の偏在、共働き世帯・単身世帯の増加で家庭内も人手不足、働き方改革も
シェアリングサービスの内訳を見ると、特にスキルをシェアするサービスの数が増えている(図表9)。この理由は、経産省「平成30年版情報通信白書」にもあるように、空間や移動のシェアは物件や自動車等の資産を有する必要があるが、スキルのシェアはこれらの資産を持つ必要がなく、参入障壁が低いためだろう。なお、日本シェアリングエコノミー協会によれば、スキルのシェアには家事や介護、育児、知識、料理、教育、観光などがあり、スキルのシェアは人々の暮らしに多方面から浸透しはじめている。
また、暮らしの変容とスキルのシェアの相性の良さもあるだろう。日本では少子高齢化が進んでいるが、特に地方部で顕著であり、人口の偏在化が進んでいる。また、世帯構造も変わり、単身世帯や核家族世帯、共働き世帯が増え、世帯のコンパクト化や在宅率の低下が進んでいる。過疎化が進む地方部だけでなく、都市部でも家庭の中で人手不足の状況が進んでいる。
このような中で、例えば、地方部で多い高齢単身世帯では力仕事や家の掃除、買物代行など、ちょっとした家の用事を頼みたいというニーズが強いのではないか。また、スキルではなく移動のシェアとなるが、過疎地域では目的地まで相乗りするライドシェアのニーズも高いだろう。また、時間のない共働き世帯では、料理の作り置きや掃除、急用が入った時の子どもの保育園の送迎など家事や育児に関わる代行サービスのニーズが高いだろう。
地方部は高齢化や単身化がより早く進む。個人のニーズと個人のスキルを効果的にマッチングさせる仕組みは、地方創生にもつながる。
今、政府の働き方改革において、テレワークや副業、兼業など柔軟な働き方をするための環境整備が進められている。クラウドソーシングによる仕事の受注や空いている時間に自分の知識やスキルを活かした働き方は、まさにスキルのシェアと言えるものであり、今後もこの流れは強まっていく。
情報通信技術の進化~スマホで不特定多数と個人の資産情報を共有、SNSで信用度の可視化
本稿では消費者の価値観や暮らしの変容への注目に重きを置いているために、後述となってしまったが、シェア経済の拡大の背景には、大前提として、インターネットやスマートフォンの普及拡大に見られる情報通信技術の進化によって、シェアリングサービスを実現する手段が整ったことがある。
2010年頃からスマホの普及が進むことで、時間や場所を選ばずにネットへ接続できる環境が広がった。それに伴い、これまで見えなかった個人のモノや空間などの資産やスキルに関する情報などをリアルタイムに不特定多数の個人で共有できるようなった。また、スマホの普及により、SNSの利用がさらに拡大することで、これまで顔が見えにくく、信頼性に乏しかったネットの向こう側の個人等について、ある程度の信用度が可視化されるようにもなった(7)。
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(7)以上、総務省「平成30年版情報通信白書」を参考。
シェアリングサービスと既存サービスの違い~不特定多数の個人とつながる、低価格、利便性の高さ
シェアリングサービスを見渡すと、実は、これまでにも同様のサービスが存在しているものもある。例えば、事業者が提供するレンタカーサービスや貸衣装サービス、家事代行サービス、近所や互助組合での助け合いなどだ。これらの既存サービスとシェアリングサービスは何が違うのだろうか。
まず、指摘できることは、ネットやスマホを介して不特定多数の個人とつながることだ。また、個人間で直接やりとりをするために価格が安く抑えられている。シェアリングサービスの提供事業者はプラットフォームの運営に徹する形が多く、商品やサービスを提供する個人は、いくばくかの手数料を支払うことがあるものの(利用側が支払う場合もある)、売上げの多くを自分の懐に納めることができる。さらに、個人とつながることで、ニーズの合致度が高い可能性もある。事業者が提供する商品やサービスは定型的だが、シェアリングサービスでは個人が様々なものを提供しており、多様なニーズに対応できる。また、従来からネット通販サイトなどでは、個人の属性情報や購買履歴から、別の商品を提案するリコメンド機能があるが、多くのシェアリングサービスでも同様の仕組みがある。
一方で、不特定多数の個人とつながるために、安全面の不安を感じる消費者も多いだろう。この点については、利用者と提供者がお互いにコメントや評価をつけるなど、相互評価の仕組みがあることで、ある程度の自浄作用が働いているようだ。
また、シェアリングサービスは、そもそもネットやスマホを介したやりとりであるために、従来のサービスと比べて利便性が高い。スマホが1台あれば、瞬時に場所や時間を選ばずに、情報収集から注文、提供者とのやりとり、決済、利用後の評価までサービスの全工程に対応でき、スマホワンストップの仕組みが整っている。なお、この点は、ネット通販サイトや、ネット決済を組み合わせたタクシーの配車アプリなど、既存サービスでも同様の対応が増えている。
おわりに~既存企業に求められるのは消費者の価値観変化の理解、シェアと共存、付加価値の提供
消費者の暮らしにシェアリングサービスが浸透しつつある中で、既存企業はどのような対応が求められるのだろうか。まずは消費者の価値観や暮らしの変化を十分に理解することが必要だ。その上で、例えば、モノの転売を意識した商品戦略なども検討すべきだろう。フリマアプリで売れるブランド品は、いわゆる欧米の歴史ある高級品とは異なる特徴もある。ファストファッションなど消費者の間で認知度や普及度が高く、品質やサイズ感に共通認識があるものも売れやすいようだ。また、転売によって消費者が新品を得るための実質コストが下がるとすれば、むしろ新品を買うことへのハードルが下がるという考え方もある。さらに、すでに現れ始めているが、既存企業がシェア(レンタル)に乗り出すという方向もある。購入されなければ売上げはゼロだが、利用されることで売上げはプラスになり、さらに利用が購入につながる可能性もある。一方で、逆に新品を買う楽しさを訴求するという方向もあるだろう。消費者はどのような時に新品を買いたいのか。どのようなモノで新品を持ちたいのか。何かのイベントや記念日と連動させたプロモーションなども考えられる。
今後もシェア経済の拡大は続くだろう。既存企業はシェア経済と共存しながら、いかに付加価値を生み出していくかが重要だ。
久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
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