「人の細胞の総数」をフェルミ推定で出してみる
シカゴの調律師の人数を見積もるフェルミ推定については、拙書『初歩からわかる数学的ロジカルシンキング』(SCC)等に書きましたし、ネットで検索すればすぐにいくつかの解答例を見つけられると思いますので、ここでは
「人の細胞の総数はいくつか?」
という問題を考えてみたいと思います。
1 仮説
「人の体は細胞で埋め尽くされていて、人の体の体積=細胞1個の平均体積×細胞の総数」であるという仮説を立てます。
2 問題の分解
この問題を考えるために必要な数値は「人の体の体積」と「細胞1個あたりの平均体積」ですが、それぞれを
・人の体積=人の体重÷密度
・細胞1個の平均体積=細胞の直径の平均の3乗
と考えましょう。
3 データ
成人男性と考えて
・人の体重:70kg
ということにします。
最終的に「ケタ違い」でなければよい
4 推定量の決定
・推定量その1:人の密度
プールでうまく脱力できれば、たいていの人は自然と浮きます。でも溺れてしまうこともあるわけですから、「ギリギリ浮く」と考えていいでしょう。つまり人の密度は水の密度とほぼおなじはずです。水1Lは1kgですから、水の密度は1kg/L です。よって、人の密度も1kg/Lとします。
・推定量その2:細胞の直径の平均
ここが一番の難所でしょう。実際、人の細胞の大きさは千差万別なのですが、細胞1個を肉眼で見たことがあるという人はいないでしょう。肉眼で見えるもっとも小さい大きさは、1mmの10分の1、つまり1万分の1m程度でしょうか。細胞は肉眼では見えませんが、理科の実験などで顕微鏡を使って見たことがある人は多いと思います。顕微鏡の倍率を100倍とすれば、細胞の大きさは1万分の1mよりは小さいけれど、100倍に拡大にすればしっかり見える程度でしょう。よって、細胞の直径の平均は10万分の1m程度ということにします。
5 総合
以上をふまえて人の細胞の総数を以下のように計算します。
結果、人の細胞の総数は7×10の13乗、すなわち70兆個と見積もることができました。
ちなみに人の細胞の総数は長らく約60兆個とされてきましたが、最近の研究では37兆個程度ということがわかってきたようです。いずれにしても70兆個という見積もりはケタ違いではないので良い見積もりだと言えるでしょう。
フェルミ推定の手順をフローチャートにまとめておきます。
(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』)
永野裕之(ながの・ひろゆき)「永野数学塾」塾長
1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。(『The 21 online』2018年5月号より)
【関連記事 The 21 onlineより】
・「1メートル」が今の長さになった理由とは?
・数に強い人は、数字に隠された「ストーリー」を語る!
・そもそも「数に強い」とはどういうことか?
・ピタゴラスが発見した「音楽」と「数字」の意外な関係
・ミロのビーナスからアップルまで…「黄金比」はなぜ美しい?