事業所内保育施設の3つのタイプ

 国は今、保育所の利用ニーズに応えるべく、待機児童解消加速化プランに基づき、保育供給量の拡大に取り組んでいる。その一環として、民間活力を利用し、働く人々の多様な就労形態に対応した保育サービスを提供する「企業主導型保育事業」が子ども・子育て支援法の改正により2016年度からスタートした。

 これまでにも、従業員のために企業が設置する事業所内保育施設は整備されており、現状、事業所内保育施設、事業所内保育事業(地域型保育事業)、企業主導型保育事業の3種類がある(図表1)。

 「①事業所内保育施設」は従来から認可外保育施設として設置されているもので、2016年3月現在4,561施設がある。この中には、助成金を利用せずに運営されているものもあるが、一定の要件を満たすことを条件として、自治体における事業所内保育施設に対する助成制度や厚生労働省の「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金」を受給して設置・運営しているものも含まれている(厚生労働省の助成制度は企業主導型保育事業が創設された2016年度から新規受付をしていないが、既に運営費を受給中の施設については運営費の支給をおこなっている)。

 「②事業所内保育事業(地域型保育事業)」は、2015年4月にスタートした子ども・子育て支援新制度における地域型保育事業として展開されている認可保育所の一形態である。そのため、公的給付を受給できるため安定的な事業運営ができることが最大の特徴である。しかしながら設置・運営にあたっては自治体による計画的整備に依存するため、企業が自由に事業展開を図ることができない。実際、子ども・子育て支援新制度の開始から1年が経過した2016年4月1日現在でも323施設に止まっている。

 そして新たに2016年度から、企業の機動力を利用して保育の受け皿拡大を目指し導入されたものが「③企業主導型保育事業」である。この第1の特徴は、一般事業主から徴収する拠出金(事業主拠出金)を財源として、子ども・子育て支援新制度に準じた整備費や運営費の支援を受けられる点である。そのため企業は設置・運営にかかる大きな費用負担を必要とせずに助成金によって保育所の設置・運営ができる。

 「③企業主導型保育事業」の2つ目の特徴は、自治体による計画的整備とは別枠で設置できるため、自治体の関与を必要とせずに企業が自由に事業展開できるし、利用したい従業員が利用できる。特に利用者については、図表1の②の認可型であれば、保育認定を受けて保育が必要と判定された人のみが利用できることになっているが、企業主導型保育事業における従業員枠については、この手続きを必要とせずに利用したい人が利用できる。このため、保育認定で必要性が低いとされやすい短時間で働く非正規社員なども、利用しやすい仕組みとなっている。こうしたことから、同事業は急速に広まり、スタートして1年あまりの間に871施設(定員20,284人分)に対する助成が決まっている。

企業主導型保育事業への関心の高まり
(画像=第一生命経済研究所)

 「③企業主導型保育事業」の3つ目の特徴は、企業が自社の従業員のために設置することのみならず、従業員以外の地域住民の子どもの受け入れ(地域枠)や、複数企業による共同設置、他の企業との共同利用を可能な仕組みにしている点である。そのため、自社だけでは利用者が集まらない場合でも、保育施設を地域や他社に開放することにより利用者の確保ができるので、従業員規模の小さい企業であっても安定的な運営が期待できる。また、既存の事業所内保育施設(図表1の①)に、自社従業員に使われていない空き定員があり、そこに設置者以外の企業の子ども等を受け入れた場合、空き定員分について企業主導型保育事業としての運営費助成を受けることができるなど、既存の事業所内保育施設を保育資源として有効に活用できる仕組みとなっている。

企業主導型保育事業の設置パターン

 さらにもう1つ、企業主導型保育事業の特徴は、事業所内に設置される保育施設のみならず、多様な形態で展開されていることである。例えば、従業員の他、地域枠として地域住民が利用することを考えて、住宅地や駅近接地などに設置されている施設がある(住宅地型・駅近接型)。事業所の中には、交通量が多かったり、公園が遠かったりするなど、「事業所内」よりも別の場所に保育所を設置するほうが子どもの養育環境としてふさわしい場合もある。「事業所内」に限らず、企業が設置場所を自由に決めることができる仕組みになっている。

 また、病院や介護施設、学校に勤務する職員が利用するために設置される施設もある(病院・介護施設・学校内施設型)。特に病院や介護施設の中には24時間、年中無休の施設もある。勤務実態に合わせて、一般の認可保育所などでは対応していない曜日や時間帯であっても運営し、子どもがいても働きやすい環境を用意することで人材の 確保・定着を図ることができる。

 さらに、ショッピングセンターなどの複合商業施設や工業団地、商業団地など、複数の企業が共同で設置、利用できる施設もある(複合商業施設型・工業団地型・商業団地型)。商業施設のテナントなど、1社単独では従業員数が少なく、利用者が集まらなくても、複数の企業が共同で設置・利用できれば利用者の確保がしやすくなる。

 このように企業主導型保育事業は、自社の働き方に応じて設置場所や運営形態を柔軟にできる点が最大の特徴である。

企業主導型保育事業の今後の課題

 企業主導型保育事業がスタートして1年の間に、全国で850を超える保育施設が助成決定された。一般企業のみならず、病院や介護施設、大学など多様な事業者が、人材の確保・定着のための一つの手段として、保育所設置が有効であると考えていることがうかがえる。

 今後も働く人々のニーズに応えるために保育の受け皿を拡大する必要があり、従業員の勤務実態に合わせて運営する事業所内保育施設の役割は大きいと思われる。特に、自治体の需給調整による計画的整備の枠外で、認可保育所並みの助成金を受けて運営できる企業主導型保育事業は、企業・従業員双方にとってメリットは大きく、保育の受け皿としてますます注目されると思われる。

 しかしながら他方、今後さらに拡充していくにあたっての課題も見えてきた。1つは保育所の設置・運営についての相談機能の充実である。保育所経営についてのアドバイスや、共同設置・利用にあたって連携可能な企業を探すためのコーディネートなどを依頼できると、初めて保育所を設置する企業にとっては心強いし、設置を促すインセンティブにもなると思われる。現状、自治体等が担っている場合もあるが、地域の実情に沿って専門的に相談業務を担う組織があれば望ましい。2つ目は保育の質を保証するための仕組みの強化である。保育士等の人員配置基準などの遵守はもちろんのこと、行政等による指導・監査の強化や第三者評価の受審促進などにより、子どもの安全や保育の質の確保、助成金の適性運用など運営状況についての重層的なチェック体制が重要と思われる。

 女性の活躍推進を促すのみでなく、子どもの健全な成長を支えるという重要な役割を担う保育所が、認可保育所の他にも、企業主導型保育事業を含め多様な施設展開によって質量ともにさらなる充実が図られることを期待したい。

上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとば やすこ)